公開日 2021/06/16 07:00
ソニー「Xperia 1 III」が到達した究極のAVクオリティ。キーパーソンに聞く進化のポイント
<山本敦のAV進化論 第202回>
■内蔵スピーカーを徹底改革
Xperiaはエンターテインメントプレーヤーとしての完成度がとても高いスマートフォンだ。最新のXperia 1 IIIでは内蔵スピーカーと3.5mmヘッドホンジャックのパフォーマンスをさらに改善した。
Xperia 1シリーズ、Xperia 5シリーズのスピーカーサウンドを担当するオーディオ設計の松本氏は「サウンドのチューニングにおいて協業するソニー・ピクチャーズエンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメントのエンジニアに昨年のモデルを聴いてもらい、得た声をXperia 1 IIIに反映している」と説明する。
課題として寄せられたテーマは「筐体振動の改善」だった。Xperia 1、Xperia 5シリーズの現行モデルを意識して試すと、確かに内蔵スピーカーで音楽や映画のサウンドを再生すると手元に細かな振動を感じる。一定時間を過ぎて、端末を手に持ったままコンテンツを楽しんでみるとやや煩わしく感じてくるし、何より筐体の不要な振動は音質の劣化にもつながる。
この課題を解決するため、Xperia 1 IIIでは本体トップ側のスピーカー構造を改良している。詳しい内容を松本氏が次のように説いている。
「Xperia 1、Xperia 5の “マーク2” までトップ側スピーカーはスマホの筐体全体をエンクロージャーとして音を鳴らしていました。なぜならばトップ側はフロントカメラやヘッドホンジャックを配置する関係から、独立したスピーカー専用エンクロージャーを置くスペースが取りにくかったからです。Xperia 1 IIIでは筐体内部のスペースを効率化して、トップとボトム両側のスピーカーにスピーカー専用のエンクロージャーを設けています」(松本氏)
この新たな取り組みにより内蔵スピーカー再生時の筐体の振動が抑えられ、また音像定位の明瞭度アップ、セパレーションの向上がより明らかに感じられるようになった。ドルビーアトモスを効かせて映画コンテンツを再生すると、これもまた解像感の飛躍と、さらにベールを一枚はいだように透明な空気感に耳を心地よく刺激されるような感覚がある。Xperia 1 IIと比べて、 “マーク3” では音圧がさらに約40%も上がっているという。ブレない重低音の安定感も素晴らしいと思う。
■ヘッドホン・イヤホンを力強く鳴らし切る
3.5mmヘッドホンジャックからの出力の低歪率化を実現し、最大音圧もパワーアップした。低歪率化の理由は音質に大きく影響するアナログ出力段のパーツを丁寧に見直したからだという。 松本氏は、従来 “スマホ向け” とされている一般的なオーディオのパーツはスペックに関する詳細な情報が少なく、特性の良いものを探しづらかったという。ところが近年になって世界中でポータブルオーディオが脚光を浴びてきたことから、パーツを製造するメーカーがオーディオの特性も詳しく開示する機会が増えた。そのため “スマホ向け” とされるパーツも良いものが選びやすくなったそうだ。
加えて数多くの製品を聴き比べて、低歪率なアナログ出力段を構成するパーツを選定したものがXperia 1 IIIに採用された。さらに、ソフトウェアによるシステム最適化によりXperia 1 IIIでは3.5mmヘッドホンジャック使用時の最大音圧がXperia 1 IIとの比較で約3デシベル(約40%)ほど向上している。
オーディオ設計を担当する笠原氏は「ソフトウェアとハードウェアのエンジニアがひざを詰めながら高音質化に向けた議論を深めるなか、ソフトウェア側でもシステムの細部に渡る最適化を徹底したことで音圧強化を実現した」と語っている。音楽信号のレベルが上がるほど粗さが見えてくる歪率についても、バランス良くすべての帯域で改善が図れているという。
Xperia 1 IIIにソニーのイヤホン「XBA-Z5」をつないでヘッドホン出力の音質を確かめた。ボーカルの透明度がまた一段と高くなり、埋もれていた声の表情の描き込みや肉付きが豊かさを増したようだ。バンドによる演奏を聴くと全体に情報量がまた増えていることがわかる。Xperiaシリーズが伝統的に強みとしてきた、鮮やかに伸びる中高音域の魅力は健在。弦管楽器の音色がとてもふくよかだ。特に弾力感と艶のある低音域が驚くほどに魅力を増している。
■磨きをかけたサラウンド再生
Xperia 1 IIIではあらゆるモバイル向けエンターテインメントコンテンツのサウンドが高品位に楽しめる。
ドルビーアトモスの音声を収録するコンテンツの再現力は、松本氏、笠原氏をはじめとしたソニーのXperiaを担当するエンジニアと、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメントのサウンドエンジニアの協業によるチューニングを積み重ねてきたことで、他のドルビーアトモス対応をうたうモバイル端末を圧倒するほどの没入感が得られる。
一方で、ドルビーアトモス対応のモバイル向けコンテンツはまだ数が多く出揃っていない。現在対応をうたう動画配信サービスも多くの場合、アプリ側で先にドルビーアトモス音声のデコード処理を行ってしまう。本来であれば処理をXperia側で行うように選択ができるコンテンツサービスがあればベストだが、これはもうしばらく待つ必要がありそうだ。
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