公開日 2014/11/05 11:00

指揮者・武藤英明氏が語る映画「ミンヨン 倍音の法則」− 「倍音」とモーツァルトの関係とは

山之内優子
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本物を知る体験の大切さ


10月5日、船橋市民文化ホールで行われた武藤英明指揮・チェコ国立室内管弦楽団パルドビツェのコンサートでは、アンコールに船橋ジュニアオーケストラの子供たちが舞台にあがり、オーケストラメンバーと共にアンコール曲を演奏した。写真は、4日におこなわれたリハーサル風景。
インタビューは、武藤氏がチェコ国立室内管弦楽団パルドビツェを指揮する来日ツァーの、船橋市文化ホール公演を明日に控えたリハーサルの後に行われた。リハーサルでは、船橋ジュニアオーケストラが、翌日のアンコールでチェコの楽団員とジョイント演奏するために一緒に練習をおこなう場面もあった。

私は長崎の雲仙市で生まれ、3歳まで育ち、その後、船橋に移りました。現住所は習志野市だったりチェコだったりしますが、船橋吹奏楽団で中学3年からトランペットを吹いていました。ピアノを一人で弾いていてもつまらないですからね。みんなでやったほうが楽しいですよ。そのときから船橋とのつきあいです。

ワールドカップがこの前終わりましたけれど、選手が競技場に入るときに選手たちをグラウンドに案内する。エスコート・キッズというんですね。ところがその子供たちはサッカーの試合には参加しません。危険もあります。音楽ならば一緒にやるのに危険はありません。(チェコのプロオケと一緒に演奏をする)船橋ジュニアオーケストラは専門家を目指す音楽教育を受けている子供たちではありませんが、この体験を一生忘れないでしょう。将来に何らかの形で良い影響が得られるだろうと思います。大人と一緒になって、本物に直に接することが大事ではないですか。

ゲームの中の世界はバーチャル・リアリティですからあくまでも仮想現実。大人の外来のオーケストラと一緒に舞台で演奏した体験は、仮想ではない本物の現実です。本物こそが子供たちの感性を磨いてくれます。大人がしてやれることは、私達もそうされたと思うんですが、良い環境、子供たちの感性をより磨くための環境を設定して、それを提供することです。

チェコ人はそういう事を嫌がりません。他の国はわかりません。場合によっては別途出演料をよこせという場合もあるかもしれません。しかしチェコ人のオーケストラで、子供たちとやるのはイレギュラーだから嫌だという文句は、誰も言いません。

武藤氏を驚かせた、原信夫とシャープス&フラッツの演奏

映画「ミンヨン 倍音の法則」では、佐々木監督からの依頼により、武藤氏が船橋市立高等学校吹奏楽部の演奏シーンを指導、指揮もおこなった。練習では、原信夫とシャープス&フラッツの演奏動画を活用したという。

佐々木さんが、ある時、TV画面で市立船橋高校の吹奏楽の子供たちの演奏を見たらしいのです。今では吹奏楽コンクールの甲子園(※全国大会)があり、体育会系真っ青で子供たちがやるわけですね。ところが、市立船橋の吹奏楽部を見ていたら、あまり悲壮感が漂っていない、これは画像としても面白いな、これの出演を何とかできないかと思ったそうです。

しかし、学校現場はそう簡単ではない。今の市長、当時の副市長さん、教育長、学校長、現場の先生たちが一堂に会し、岩波の映画(※岩波映画ではないが、岩波ホールのはらだ氏が企画し、岩波ホールで上映)だし、これならいけますと許可がおり、その時、佐々木さんは、条件として私が指揮をして映画に登場させるとおっしゃったのです。

さて、時間の制約があるなかでの結果を出さなければならない。どうすれば良いかというと、極端に良いものと悪いものとを2つならべて子供たちに説明すれば早い。美味いものを説明するのに、食えばすぐわかります。なぜまずいのか、こうすると美味しくなるというのは比較するとわかる。

いろいろ動画を見ておりましたら、原信夫とシャープス&フラッツの演奏する「sing sing sing 」という曲がある。解散前のファイナル・コンサートをNHKでやったのがYouTube に出ていました。度肝を抜かれました。何とすごい、これはただごとではない。あだおろそかではないぞと。よし、これだと、良い演奏の例として使わせていただきました。そうじゃないのは、実名を出すとさしさわりがありますが、いくらでもありました。

「倍音の法則にのっとった練習」を指導
 
具体的にどう違うかというと、倍音の法則にのっとって練習しているかどうか。子供たちがその感性にぴたっと符合しているかどうかということです。

さらに具体的に言いますと、吹奏楽の練習の時にメトロノームに合わせてやるということを多くの学校でやっていますが、メトロノームにぴたっと符合して良い場所もあるんですけれど、それは非常に少ない。また、指揮台のそばにシンセサイザーを置いて、それに音程を合わせる指導をおこなう中学、高校もある。けれど、シンセサイザーで音が仮に合ったら、これは不協和音ですからね。第三音が高いままです。

こういう状況下では、子供たちの感性がどんどんおかしくなります。不自然なことをやるので無理がある。中学、高校で、音楽をせっかくやったのに、やめてしまう子供もいる。感性を殺す練習をやっていれば、つまらないに決まっているのです。


メトロノーム、シンセサイザーを使わない

メトロノームは百害あって一利あり、です。もちろんメトロノームを活用する方法はないわけではありません。メトロノームに合わそうとすれば、人間は順応性があるからそれは合うでしょう。けれど、これは人間の感性からすると、化学調味料がごってりあったほうがごちそうだ、美味しいというようなものじゃないでしょうか。ちょっとちがう。

ですから、原さんたちがやった「sing sing sing」と、その他は、ここがこういう風にちがうんですというところからスタートして、メトロームは使わないでほしいと言いました。

4分の4拍子。4分の3拍子でもそうですけれど、4分の4なら、均等割の4分の1拍+4分の1+4分の1+4分の1だから25%ずつ来る、ということはめったにない。また、自然倍音というのは常にドミナントを形成するわけです。それを子供たちに図解して説明する。そういうところからまずスタートするんです。すると16,7の子供は、順応性が早いですね。まだ感性がゆがんでいないですから。けっこう早い時期に結果を出します。

武藤氏が指揮する名古屋フィルハーモニーの楽団員の兄弟が、原信夫とシャープス&フラッツにかつて所属していた縁から、武藤氏と原信夫氏の面会が実現した。

面会をして驚いたのは、原さんは、メトロノームを使いません。ただし、こういう使い方をしたと言われました。外国からくる演奏家が戦後いっぱいいるわけです、キラ星のごとく来ましたね。トム・ジョーンズ、ジュリー・アンドリュース、ガレスビー、アンディ・ウィリアムズ…。その人たちから、シャープス&フラッツにやってほしいと依頼がきた。すると新曲がある。で、どのくらいの速さでやるのか。そういうときにはメトロノームを使ったと。

ただ、会場が変わる、気温が変わる。当然、テンポが変わる。だからあくまでも目安でしかないと。人間、興奮すれば鼓動は早くなる。落ち着いてくれば呼吸ものろくなる。メトロノームは、そんなこと斟酌なく、規則正しく機械的に刻むだけ。だからあくまでも目安でしかない。それにあったら人間の感性にあってないと。ああ、そうですか、と裏をとった。

それからシンセサイザーなんて合わせたことは一回もないと。シャープ(&フラッツ)はね、チューニングしないんですって。ピアノとコントラバスだけあわせる。それは開放弦がありますから、照明があって温度が高くなれば楽器の温度も変わりますでしょ。だからもう、出て、0,何秒でぴたっと合わす。前から誰か演奏していたら、その音程に合わす。ここはもう全部、感性。オーケストラ100名越えて、合唱いれて300名で、電気を必要としている楽器は一個もない。だから、すべからく倍音楽器です。

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