HOME > インタビュー > 記事

インタビュー

【特別企画】

“ハイレゾ対応”新Kシリーズ、その伝統と革新 ー ケンウッド開発者特別インタビュー

インタビュー:山之内 正/構成:ファイル・ウェブ編集部
2013年11月19日

伝統のケンウッド“Kシリーズ”に、新製品が登場した。セパレートオーディオコンポ「A-K905NT」、そしてスピーカー「LS-K901」は、昨今注目が高まっているハイレゾ音源の再生に対応。DSD再生やDLNA再生機能など最新のフィーチャーを余すところなく盛り込んでいる。また、「K2テクノロジー」を採用するなど、JVCの技術を融合させた点も特徴だ。

今年でK's誕生から20周年を迎え、なおいっそう進化を続けているKシリーズ。一新されたブランドロゴも、新しいイメージを喚起させる。今回、新Kシリーズの開発者にお話しをうかがった。





山之内氏:まず、新Kシリーズの開発コンセプトについて教えてください。

安富氏:ステレオの前で音楽を聴くことが中心だった時代から、スマートフォンとヘッドホン、PCを使った再生など、音楽を聴く方法は変化してきています。しかし、「好きな音楽を良い音で聴きたい」という思いは変わらないと思うのです。新Kシリーズのキャッチコピーは『情熱が沸き立つ音を聴きたい』。ユーザーの“いい音を聴きたい”という思い、制作者の“いい音楽を楽しんでもらいたい”という思い、そして我々メーカーの思いを集約した言葉になっています。

オーディオ事業部 PAV国内営業部 営業企画 安富 稔氏

ターゲットは団塊の世代や、団塊ジュニア。仕事や子育てが一段落して、これから何かに没頭したいという方は増えてくるのではないでしょうか。ハイレゾは昨今盛り上がってきていますが、まだまだ中心はマニア層。よりいっそう多くの方々に聴いてもらえるよう広めていきたい。ですので、手軽でもきちんとハイレゾの良さを感じていただけるようなオーディオを提供したいという思いで開発しました。

山之内氏:単に数値上で高帯域までの再生に対応するというだけでなく、実際に聴いて良さが分かる音を再生できる製品を目指しているのですね。

さて、新Kシリーズの特徴のひとつとして、伝統あるケンウッド“Kシリーズ”に、JVCの技術を取り入れている点が挙げられるでしょう。JVCとケンウッド、それぞれの技術を融合させた製品づくりは、大変なこともありましたか?

安富氏:この企画は約2年前、JVCとケンウッドが合併した頃から始まったんです。文化も違うし、それぞれオーディオメーカーとしての歴史と実績があります。正直お互いプライドもありました。たとえばSupreme EXではなくK2テクノロジーを採用すると決めるまでにも、当初かなり議論がありました。

舟見氏:Supreme EXを高ビットレート対応にできないか、などですね。でもK2テクノロジーは完成度が高い技術。Kシリーズのコンセプトももちろん大事ですが、やはり良いものをお客様に届けることが一番の目的ですから。言葉や文化が違っても、目的は共通なので、作業を始めるとスムーズに仕事ができましたね。

北岩氏:スピーカーに関しては、実は4年ほど前からグループ会社として技術交流を行っていたんです。その成果が実際のかたちになった初めての製品が、「LS-K901」です。

安富氏:また、開発にあたっては、ビクタースタジオのハイレゾ音源を音質検証用に使い、K2テクノロジーのON/OFFなど何百回も聞き比べを行いました。


  ◇  ◇  ◇  


山之内氏:ではまずネットワーク対応アンプ「A-K905NT」についてうかがいたいと思います。デジタルアンプを採用した“ハイレゾ対応”のアンプ。CDドライブも非搭載です。この仕様に至るまでには議論があったのではないですか。

ネットワーク対応アンプ「A-K905NT」

舟見氏:そうですね、商品開発の段階で、CDドライブやチューナーを搭載するかどうかは議論がありました。しかし搭載しなかったのは、「A-K905NT」はやはりハイレゾ音源を扱ってもらう製品なので「ネットワーク機能+アンプ」という特化したかたちが良いのではという考えからです。ネットワーク経由でのハイレゾやDSD再生、DLNAやUSBメモリ再生機能を搭載。iPod/iPhoneのデジタル接続や、PCとの接続も可能です。

今回搭載された新開発デジタルアンプの構成

Kシリーズは、3段差動ディスクリートアンプ採用の「R-K700」(2004年)から始まり、アナログアンプのノウハウを積み重ねてきました。しかし、デジタルアンプのリニアリティの良さや歪みの少なさ、放熱の少なさは大きなメリット。コンパクトな筐体で高周波数まで再生できるアンプを実現するには、デジタルアンプが最適だろうという結論に至りました。今回搭載したのは50W+50Wのもの。3段ディスクリートアンプより部品点数も少なく、放熱器もひとつでいい。シグナルパスも短くなりましたし、基板自体が受ける振動も少なくなるので、音質的に非常にメリットがあります。

オーディオ事業部 技術統括部 システムオーディオ技術部 第2設計G シニアエンジニアリングスペシャリスト 舟見正樹氏

一番上がこれまでのアナログアンプ基板。下段左が新Kシリーズに搭載されたもの。非常に小型化が図られたことが分かる

デジタルアンプの開発は、要素技術1年、商品開発1年の計2年かかりました。PCを使ったシミュレーションなどは行っていましたが、どうしても実機でないと確認できない部分はありますから、実際に何度も試作して確認を行いました。

デジタルアンプで100kHzまでカバーするには、まず位相余裕が肝心です。高域のループゲインを緩くしないといけませんが、そうすると周波数特性や歪みが悪化するので、ゲインを高くしつつ余裕を確保するのは難しかったですね。回路構成や素子、精度などを何度も調整しました。

フロントシャーシは5mm厚のアルミ

本体下部やディスプレイ上下に曲線の削りを入れ、先進感を演出。この深さや角度は非常にこだわったという

山之内氏:本機を使ってCDとハイレゾ音源、両方を聴くことになると思いますが、その間に矛盾は起きないのでしょうか?

舟見氏:アンプとして基本設計に忠実であれば、特段の問題はないと思います。CD時代にも、アンプの性能を良くして全体の音の広帯域化を図ってきましたし。ただデジタルアンプのICは日進月歩で新しいものが出てきますから、それを使いこなすことと、使いこなした上でいい音を実現することはとても難しいなと感じています。我々の技術もまだまだ進化していくと思います。

山之内氏:電源部の構成はどうなっているのでしょう。

舟見氏:今回はトランスではなくスイッチング電源を採用しました。更に、アナログ部/デジタル部/USB部などそれぞれのパートに専用電源を用意しています。

山之内氏:再生の操作アプリも用意されていますね。

舟見氏:リモコンとDLNA機能を持ったアプリです。電源のON/OFFや再生/停止といった基本操作のほか、ネットワーク再生ソースの選択も可能。そしてタブレットやスマホ内の音楽もKシリーズで再生できます。Android用とiOS用どちらも用意しています。

専用のリモコン/DLNA操作アプリ「KENWOOD Audio Control WR2」も用意

操作する対象を選択


「NETWORK」を選ぶと、NAS内の音源選択画面に遷移

ジャケット写真や曲情報を見ながら操作を行える
山之内氏:では次にスピーカー「LS-K901」について教えてください。

北岩氏:「LS-K901」のトゥイーターは、DVDオーディオやSACDが登場し始めた頃に開発していたモデルがベースになっています。アルミニウム振動板の採用や、振動板の形状、エッジとの貼り合わせ方法、位相コントロールするディフューザーの形状などかなりの部分を踏襲しています。


100kHzまでの再生に対応したスピーカー「LS-K901」

オーディオ事業部 技術統括部 アコースティック技術部 開発G シニアエンジニア 北岩公彦氏
一方、Kシリーズの流れから言うと、直接の先行機は「LS-K711」です。これは2.5cmソフトドームトゥイーターとペーパーコーンウーファーを使って、クロスオーバーを2.5kHzにしてつないだモデル。新モデル開発のため、2cmアルミトゥイーターを搭載したところ、2.5kHzのクロスオーバーでは帯域が低すぎました。そこでウーファーの振動板を紙からグラスファイバーに変更し、クロスオーバー周波数を5kHzまで上げました。

今回いちばん苦労したのは中域から高域にかけて。当初は先行開発したスーパートゥイーターをつけた3ウェイモデルとしてのリリースも考えていましたが、なかなかうまくまとまらなかったこともあり、今回のかたちに落ち着きました。ウーファーは背面の空気の逃げを良くするため支柱の幅を再設計しました。固定ネジは6箇所と、この価格帯のものとしては多く奢っています。


「LS-K901」に搭載されたスピーカーユニット

当初は右のような3ウェイモデルの試作も行っていたが、最終的に左の2ウェイ構成にまとまった
また、できるだけ点音源に近い音の放射を目指して、UD(Uniform Delay)レイアウトを採用しています。UDレイアウトの効果を高める為、トゥイーターとウーファーの距離をできるだけ近づけたほか、遅延のある反射音による悪影響が少ないキャビネットのラウンド形状を取っています。

具体的には、トゥイーターが奥に食い込むような感じで配置しています。ウーファーは振動板の位置を前に持ってきて周囲の形状に最適化しうまくラウンドさせてキャビネットにつなげることで、ホーンが深くなりすぎて高域が減衰しないようにしました。

「LS-K901」はハイレゾをきちんと再生できるようにということで、高域の周波数を伸ばすことだけではなく、ウーファー帯域のリニアリティを上げることも重視して開発を進めました。

ウーファーは、エッジにケンウッド独自のSラインを採用。PCシミュレーションにより前後に動きやすい設計にしています。磁気回路の面では、JVCでの検討結果を活かし、アルミのショートリングを使うことで中高域の歪みをかなり低減することに成功しました。これによりウーファーのリニアリティが向上しています。

山之内氏:スピーカーも、JVCとケンウッドというふたつのブランドの技術がうまく組み合わされているのですね。


  ◇  ◇  ◇  


山之内氏:実際にハイレゾをお聞きになって、これまでのCDや圧縮音源の音とどのように違うと思われますか。

舟見氏:今回“ハイレゾ対応”ということで高周波数帯域まで対応するアンプの設計を行いました。アンプの音質を磨いて性能を高くしていくと、ハイレゾ音源は情報量の多さが圧倒的なので、まず低域の表現力が変わります。もちろん高域も、そして雰囲気も変わる、というのが私の印象です。聴いた瞬間に情報量の多さ、音楽の生々しさ、ライブ感が伝わってきます。

北岩氏:ハイレゾ音源は、音のステージが格段に広がるという印象です。ただ単に音が広い範囲で鳴っているというだけではなく、各楽器の分離が良い。たとえば弦楽器だとはじいた音が余韻として広がりますが、その分離が良いのです。楽器や人の声のニュアンスが細かいところまで伝わってきて、音の見通しが良くなるなと感じます。

山之内氏:そういった点は、音楽を聴くうえでとても重要なポイントですね。192kHzや96kHzなど数字がひとり歩きしてしまうことがありますが「『音楽』を聴く」ということを忘れずに開発していらっしゃることが分かって安心しました。

安富氏:ビクター、JVC、トリオ、ケンウッド、そして音楽制作を行うビクタースタジオ ー それぞれにオーディオ、そして音楽の歴史と実績を持った集団が“ハイレゾ”というキーワードでつながって生まれたのが、新Kシリーズです。音楽に込められたエネルギーや情熱をかき立てる音を、新Kシリーズで体感していただければ幸いです。

関連記事