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アップルらしいやり方で「質」にこだわってほしい

幕を閉じるiPod、残ったウォークマン。それぞれの違いと行く末

2022/05/11 風間雄介
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アップルが、iPodの幕を閉じる。最後まで残ったのは「iPod touch」だったが、生産を終了し、在庫限りで販売を終了する。

このニュースを聞いて、意外と感じた方は少なかったのではないか。かくいう私もそうだった。

なぜか。iPodは数年前から、実質的に終わっていたからだ。

なにしろ、iPod touchの現行機は、2019年5月末に発表された第7世代機。それから約3年が経った。その第7世代機ですら、2015年に登場した第6世代機から約4年ぶりのアップデートだった。また第6世代と第7世代とで形状や質量などは変わらず、マイナーアップデートにとどまっていた。

最後のiPodとなった第7世代iPod touch

さらに遡ると、第6世代機の前には2012年に登場した第5世代機があったが、すでにこの段階で、約4インチの画面、1,136×640ピクセルの解像度という、現在の第7世代機まで引き継がれるスペックを備えていた。

つまり、この約10年ほどのあいだ、いわゆるメジャーアップデートは一度も行われなかったことになる。

10年前というと、iPhoneでは、まだiPhone 5の時代。基本的にはその時代の技術が今日まで引き継がれ、あいだに2回のマイナーチェンジを挟んだだけだった。そして、初代iPodの面影を残した「iPod Classic」も、2014年にラインナップから消えた

公式サイトの構成からも、iPodの存在感が低下しているのは明らかだった。アップルの公式サイトに行き、iPod touchの情報を確認しようとしても、メニューバーからは辿れないところにページがあり、基本的には検索から行き着くしかない状態になっていた。

こんな状況だから、iPodはいずれ終わるだろうと思っていたし、今日がたまたまその日だった、程度の感覚だ。

柔軟にその姿を変え続けたウォークマン



とはいえ、iPodは音楽文化を変えた、まさにゲームチェンジャーだった。ビジネス的にも一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いで、iPhone以前のアップルを牽引した。iPodの名称を冠した商品がアップルのラインナップから消えるというのは、初代モデルから最後の第7世代iPod touchに至るまで、歴代モデルを使ってきた身からすると寂しい限りだ。

ほかに選択肢はなかったのか、という思いも頭をよぎる。たとえばカセットテープの時代に生まれたソニーのウォークマンは、扱うメディアの変遷に合わせて柔軟にその姿を変え、音楽ストリーミング全盛のいまでも、超高級モデルまでラインナップを揃えるデジタルオーディオプレーヤーとして生き残っている。少なくともポータブルオーディオファンにとって、その存在感はいまだに大きい。

ウォークマンはいまだに多くのラインナップを揃えている

「iPodの精神を生き続けさせる」ために



iPodの終焉を告げるニュースリリースの中にある、「アップルのすべての製品にiPodの精神は生き続けている」という同社の説明に、若干の違和感があることも指摘しておきたい。

たしかに音楽再生機能は、iPhoneやiPad、Apple Watch、HomePod miniまで、アップルの主要な機器に搭載されている。だが、それらで再生できるのは、一番高いサンプリングレートでも48kHzにとどまっている。

Apple Musicでは96kHzやそれ以上のサンプリングレートの楽曲も提供されているが、他社製の機器を使わなければ、それらのポテンシャルを発揮することはできない。それらを高音質で聴くためにAndroid搭載DAPやウォークマンなどが使われているのは、何とも皮肉だ。

アップルは、空間オーディオを「モノラルからステレオへと進化してきた録音技術の次なるステージ」として売り出しており、それらへ最新機器を対応させることに熱心だ。それはそれで革新的な取り組みであることは間違いないが、一方で音楽体験の質を高めるためには「ハイレゾ」という方向性もある。

もちろん、iPhoneから3.5mmイヤホン端子を取り去って久しいアップルが、ニッチ市場向けに、有線イヤホン対応のハイエンドiPodを作るなどということは考えにくい。iPodは終わり、ウォークマンのようにはならなかった。なることを選ばなかった。

そういった現実がある一方で、自社が提供している最高品位のサービスを、自社製品だけで楽しめないという現在の状況は、やはり少しもったいないとも思う。

iPodの精神を引き継ぐために、いまや株式時価総額世界一の企業になったアップルならではのやり方がありそうだ。ワイヤレスでロスレス/ハイレゾを伝送する新技術を普及させるなど、アップルらしい、まったく新しいアプローチに期待したい。

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