<連載>角田郁雄のオーディオSupreme

フラグシップ譲りの躍動感ある音質。フェーズメーションのフォノEQ「EA-1200」の広大な空間性は圧巻

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角田郁雄
2021年12月31日
■約10年ぶりに完全刷新。管球の音作りを追求するフェーズメーションの最新モデル

皆さん、お元気でしょうか。早くも2021年が終わり、新年を迎えようとしています。今年は、昨年よりも半導体やいろいろなパーツの入手困難が続いており、各メーカーでは製品開発や発売に困難が伴っていると聞いています。こんな事情があり、今年は新製品が少ないかなと思っていましたが、夏前から新製品が続々と登場しました。ですから、今年の「オーディオ銘機賞2022」においても多くの製品が受賞しています。

その中で今年、私が特に印象に残った製品は、来年創業20周年を迎えるフェーズメーションの管球式フォノイコラザー「EA-1200」です。このモデルは、2012年にドラマティックに登場したモノラル・フォノイコライザー「EA-1000」の後継モデル。高い評価を受け約10年というロングランを続けてきたモデルが一新され、新製品で登場しました。

Phasemationの管球式フォノイコライザー「EA-1200」(価格:1,210,000円/税込)。左右独立のモノラル筐体と、別電源部の3筐体からなる

その大きな特徴は、モノラル構成であり、電源部も別筐体であることです。このモノラル構成は、私の知る限りおそらく世界で唯一無二の存在ではないかと思っています。それだけではなく、MCカートリッジのバランス伝送も実現し、MCバランス伝送の優位点も同社は愛好家にクローズアップしました。

では、EA-1200ではどこが進化したのでしょうか? 今回は、同社へのインタビューで得た情報も加えて解説したいと思います。

■トランスの設置方法やLCR型イコライザーなど最新技術を搭載

第1の特徴は、デザインが一新されたことです。フロントパネルでは、上部を斜めにカットしたアルミスラントパネル(10mm厚)を採用し、落ち着きのあるゴールド仕上げとしています。同社の他の製品も同じデザインとなり、これにより「ブランドの顔」となりました。

第2の特徴は、内蔵するMCステップアップを同社の「T-1000」と同等にしたことです。このT-1000は最上位のT-2000の技術を受け継ぎ、大型のEIコアを採用し、2次巻線にPC-TripleC導体を使用しました。このトランスについて質問しましたが、「増幅効率を上げる」という点では、EIコアの大型化が重要で、「広帯域化」という点では、1次側巻線と2次側巻線の特殊な分割巻き(非公開)が重要とのことです。

MC昇圧トランス「T-1000」(価格:330,000円/税込)。独自の巻線構造を採用、10mm厚のフロントパネルや鋼板によるシャーシで振動対策とノイズ低減を実現。この「T-1000」と同等のものが、「EA-1200」にも搭載されている

次に焦点をあてたことは、トランスの設置の仕方です。漏洩磁束を金属シールドなどで全体を封じ込めないことが大切で、これが聴感上のS/Nや空間描写性に大きく影響するとのことです。ですから、EA-1200の開発では、イコライザー回路からの干渉を受けないようにするために、設置の向きを変えながら試聴を重ねたそうです。結果として、トランスの側面をオープンにする「コ」の字形状の特殊硅砂鋼板を上から被せ、トランスの部分的なシールドを行っています。微細振動の影響を受けないことも大切で、プリント基板からフローティングして設置する方法も考え出したそうです。

第3の特徴は、信号増幅を低インピーダンス化できる、管球式ユニットアンプによる無帰還LCR型イコライザー部を搭載したことです。EA-1000ではCR型を採用していましたが、これによりダイナミックレンジの広い、躍動感に溢れた音質が得られ、特に低域の表現力が高まり、フラグシップモデルEA-2000譲りの量感のある低域再生を実現したそうです。なお、LCR型は、信号伝送系の電力損失と誘導ノイズを最小限にでき、音質劣化を防ぐこともできるそうです。また採用した大型コイル(L)はアルミとパーマロイ板を組み合わせた特殊シールドを施し、微細な外来ノイズの影響を受けないようにし、音質向上を図ったそうです。

ロングセラーとなった「EA-1000」(2012年発売)。3筐体式は踏襲しながらも、内部構成は大きくブラッシュアップされている

今回は、これに合わせて高音質なフィルムコンデンサーも採用しています。ユニットアンプ全体としては、音質に定評のあるECC-803Sの無帰還SRPP型増幅回路とECC-802Sによる低インピーダンス出力カソードフォロアーを組み合わせた構成にしています。なお、イコライザーカーブは、EA-1000と同様にステレオRIAA、デッカ対応のMono1、コロムビア対応のMono2に切り替え可能です。

フロント左の切り替えスイッチで、「MONO1」「STEREO」「MONO2」のカーブ切り替えが可能

■別筐体の電源ユニットで低ノイズ化を実現

第4の特徴は、別筐体の電源ユニットです。増幅回路に影響しないようにするため、別筐体にすることはもちろんですが、低ノイズ化していることが特徴です。そのために、大容量のRコアトランスを選び、シールドし、原理的にスイッチング・ノイズを発生させない整流管5U4Gを採用しています。さらにL/R各ユニットの電気的な干渉を避けるために、磁気シールドしたチョークコイルを左右独立で使用するという、贅沢な整流回路を採用しています。さらにユニットアンプ部のヒーターには、3端子レギュレータによるDC点火を採用し、高S/Nを実現させています。これにより、低ノイズで余裕のある電源をユニットアンプ部に供給しています。

またアルミ筐体をさらに強固とし、脚部にも重量級金属インシュレーターを採用、特殊な樹脂を介して筐体に取り付け、振動を低減させたとのことです。RCA端子にはフルテック製を、XLRバランス端子には定評のノイトリック社製金メッキ端子を採用しています。

「EA-1200」の本体のリアパネル。左右対称に端子が配置されており、RCA入力に加えMCのバランス伝送にも対応する

このように、EA-1200では長年に渡る緻密な技術開発により、搭載技術を大幅に進化させ、音質を向上させています。その結果として、管球方式であるのにもかかわらず、MCで入力換算雑音-146dBという優秀な特性も実現させています。

■空間描写性が拡張され、録音場所の空気感が広がる

感心させられたのはその音質です。私はEA-1000を長年愛用していますが、その比較ですぐさま理解できたことは、空間描写性が拡張されたことです。レファレンスの女性ヴォーカル曲を再生すると、再生直後の空気感が全く異なり、部屋を埋め尽くすかのような録音場所の空気感が広がってきました。同社のMCカートリッジ「PP-2000」を使用しXLRバランスで接続した場合の音質です。

中央に定位するヴォーカルと、それを囲む楽器奏者との距離感もより鮮明となります。明らかに解像度が進化したと言えます。巧みな声使いやブレスの様子も、さらにリアルに聴こえてきます。ベースではさらに木質感のある胴の響きが再現され、ステージ奥から前方にトランペットの響きが横断する様子も、一層鮮明になります。各楽器の余韻も微粒子のごとく再現されます。

音色的には、中低域の量感が増し、高域の伸びも拡張された印象を受けます。これは最上位のEA-2000の音に近づいた印象で、MCバランス接続により、音の鮮度が高まり音楽の旨味の一つとなる弱音表現を引き立ててくれます。ですから、しっとりとした歌曲などは実に魅力的で、ピアニッシモの表現を引き立ててくれます。

Phasemationのフラグシップフォノイコライザー「EA-2000」(価格:3,300,000円(税込)。左右独立・MC昇圧トランス部/真空管式LCRイコライザー部/電源部をすべて独立させた6筐体構成という、まさに「集大成」的モデル

オーディオ愛好家の間で有名なヘルゲ・リエン・トリオの「テイク・ファイブ」も再生しましたが、音の立ち上がりが俊敏な高解像度、広帯域再生が体験でき、前述のように空間が拡大された印象を受けます。特にドラムスとベースの響きは圧巻です。

こうした特徴を備えたEA-1200は、高価ではありますが、アナログ愛好家にとっては手放せないフォノイコライザーとなるはずです。ぜひ一度、専門店で試聴してみてください。私も導入を考えているところです。最新情報ですが、来年の春には、外部電源ユニット単体も発売されるそうで、もう一台電源を追加すれば、完璧なモノラル・フォノイコライザーが実現し音質のアップグレードが期待できます。長く愛用できることでしょう。

■今年インパクトを受けたレコード2作品を紹介!

最後に今年、インパクトを受けたレコードを紹介します。

その一つは、菊地雅章『ラスト・ソロ〜花道』です。

菊地雅章『ラスト・ソロ〜花道』(RED HOOK LIMITED KKJ-10003)

生涯を通してピアノ演奏を続けてきた菊地雅章は、ジャズ演奏とは思えない色彩豊かで、アヴァンギャルド風のイントロを演奏します。その力感に溢れた響きが実にリアルで、ピアノタッチに美しさも感じました。最後の録音に臨む演奏の集中力も感じ、唸り声までも録音されています。おそらく多くのリスナーを魅了することでしょう。

もう一枚は、ユリア・フィッシャーによる『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』です。

ユリア・フィッシャー『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』(HAENSSLER HC-20051)

目が覚めるかのような緻密かつエネルギッシュな演奏ですが、デリカシーに富んだピアニッシモの旋律も実に素晴らしいです。超絶技巧的と言える巧みなボウイングの様子も、解像度の高い録音により、よく再現され、演奏の空間描写、ステレオイメージにも優れている印象を受けました。

この2アルバムは、音質も良好で大切なコレクションとなりました。

最後に、来年こそまた活気に満ちた年となることを期待したいですね。そのためには、今まで通り衛生面に気を使わなければならないと思います。こうした気遣いを行いながら、仕事を頑張り、趣味のオーディオでは、新たな音楽と新製品も探求し、心豊かに過ごしたいものです。

個人的には、来年はハイレゾ再生の記事も書いてみたいと思っています。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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