【特別企画】こういう真空管アンプを待っていた

トライオードの旗艦アンプ「MUSASHI」が浦賀に“入港”。オーディオ評論家が自宅で堪能

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小原由夫

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2020年10月19日

回路構成は奇を衒わず、固定バイアス方式のAB級プッシュプル出力段で、その前段に位相反転段を含めた双三極管12AU7を配している。オーソドックスとはいえ、要所の使用パーツや配線の引き回しには、KT150の素性を十二分に引き出すべく、これまで培ってきたノウハウを傾注。ショットキーバリア整流ダイオードの使用などはその一例である。

アルミトッププレートのシャーシの手前に、ユニークな曲面フォルムのKT150が4本並ぶ。その後ろに3基並んだトランスはもちろん専用設計。大型トロイダルトランスを含め、電源部も強力な陣容だ。トッププレートの『武蔵』のロゴが勇ましく栄える。

本機の底板を外したところ。KT150の能力を十分引き出すために、大型トロイダルトランスを電源部に用いている

入力端子は全てRCA。MAIN INは入力セレクターとボリュームをバイパスするので、本機をパワーアンプとして使用できる。スピーカー出力端子は1系統

初めて聴いた時の驚きが自宅で聴いて蘇った

MUSASHIを迎えるにあたり、私は最近気に入っているアサダ桜の無垢板のボードを準備した。事前に寸法を確認していたとはいえ、手元にあった台は、まるで本機のために特別にあつらえたかのようにピッタリだ。

筆者自作のアサダ桜の無垢板ボードに載ったMUSASHI

本機を初めて聴いた時の驚きは、真空管アンブの既成概念を覆すローエンドの分解能と全帯域に渡るディテール描写、そして圧倒的に見通しのよいステレオイメージ。私が自宅システムでもう一度聴いてみたいと駆られた衝動は、その鮮烈な記憶からだ。

その印象は今回も変わらなかった。低音楽器のこんな精巧な質感が、真空管アンプで鳴らした我が家のTAD Reference Oneから聴こえてくるなんて! ダイナミックなソロピアノが繰り広げられる上原ひろみの「カレイドスコープ」では、この楽曲の再生で重要なスピード感とトランジェントを存分に披露し、大いに興奮させられた。しかもそれが濃密な色合いで表現され、躍動感が素晴らしい。

ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲、アリーナ・イブラギモヴァの演奏は、凄まじくデモーニッシュな表現に引き込まれる。第3楽章冒頭のティンパニの力強い連打にも怯むことなく、コントラバスのボウイングも重厚。情念のこもったヴァイオリンの旋律がグーッと迫ってくる。カデンツァの儚い美しさの後のスケール感も雄大な第4楽章は、険しい音色が悲痛な叫びのよう。身じろぎできない音なのだ。

音楽のダイナミクスに俊敏に追従するMUSASHIは、近代管を採用した象徴的モデルといってよい。私はこういう真空管アンプを待っていた。


<Specification>
●回路型式:AB級プッシュプル●使用真空管:KT150×4、12AU7×4●バイアス方式:固定バイアス●定格出力:100W/ch(8Ω)●周波数特性:8Hz〜70kHz(−3dB)●SN比:93dB●入力感度/インピーダンス:LINE 480mV/100kΩ、PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ、MAIN IN 920mV/10kΩ●消費電力:定格 520W、無信号時 190W●サイズ:440W×220H×370Dmm●質量:34.5kg●取り扱い:(株)トライオード


本記事は季刊・オーディオアクセサリー 178号 AUTUMNからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

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