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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第256回】

ハウジング素材の違いでイヤホンの音はどう変わる?

公開日 2020/09/05 06:40 高橋 敦
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音響空間としてのハウジング

さて、頑強なハウジングによってダイナミック型ドライバーの足場・土台が固められたとして、発せられた音は前述のように、振動板からダイレクトに近い形で押し出された音にハウジング内のスペースでの響きも含んだものとして、ハウジングのノズル部から耳に届けられる。

ここで、そもそも「ダイナミック型ドライバーが広い音響空間を必要として、その音響空間としてハウジング内を利用するのはどうして?」を確認しよう。

おおまかな理解としては、「振動板面積が大きくて動かす空気の量が多いので、ドライバー自体を密閉構造にして音響空間をドライバー内で完結させるようとすると、閉じ込められた空気が生み出すビーチボール的な弾力というか反発力みたいなもので振動板に負荷がかかり、適切に動作しなくなる」ので、「空気をハウジング内に逃がすことでドライバーへの負荷を減らす」といったことで良いと思う。

まあ理由はなんにせよ、空気の動き=音をハウジング内に逃しているのだから、ハウジング内での音の響きは、ノズルを通して耳に届けられる音にも乗ってくる。ハウジングが音響空間でもあるのはそのためだ。

音響空間であるなら、その形や材質が音に影響を与えるのは当然。真四角で壁はコンクリート打ちっぱなしの地下室。天井や壁に凹凸が設けられていたり木の板が張られていたりする音楽室。石造りで天井が高い教会。それらで音の響きが全く異なってくることは容易に想像できるだろう。もっと身近な例でいえば、リビングとお風呂場での声の響きの違いもそうだ。

そしてよく言われる喩えに「イヤホンのドライバーをスピーカーとしたらハウジングはそのスピーカーを置く部屋」みたいなのがあるが、本当にそういうこと。部屋によって音が変わるように、ハウジングによって音は変わる。

ハウジングの音響設計の要素

ではそのハウジングの音響は、どのような要素で決まってくるのだろう? これまたざっくりとなるが、大きな三つを挙げるとすればこんなところだろうか。

●広さ
広い部屋と狭い部屋では音の響きが異なるのは当然。また十分な空気容積の確保は、前述の「空気の反発力による振動板への負荷の軽減」に必須。

●形
部屋に喩えるなら部屋の形も当然、その部屋の響きに影響する。スピーカーの場合は特に、内部定在波とかそういう要素の軽減のため、独特の形状を持たされていたりする製品もあったリする。イヤホンの場合はハウジング自体の内側の形状を音響に配慮したものにしてあったり、今回の主旨とは違ってくるが、ハウジングの中にハウジングから独立した別パーツの形で音響チャンバーが設けられていたりするパターンもある。

●素材
部屋でいうと壁や天井、床などの素材。ここが今回のメインテーマなので、これについては以降で詳しく考えていく。

ハウジング素材のポイント
ということでやっと今回の最終章、「ハウジング素材」の話に到着!

前提としてここまでの話を超簡潔にまとめると、
「イヤホンのハウジングは音響的な役割も担っており、その音響はハウジングの素材によっても異なる」わけで、ここからは特にその「素材」について見ていこうというわけだ。

次ページ今回の本題「素材」について考える

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