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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第216回】声DAP×声ホン×声ソンで大スクランブルテストッ!A&norma SR15と声イヤホンを声優ソングで聴きまくる

公開日 2018/08/24 08:11 高橋 敦
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早見沙織さん「琥珀糖」

SR15とのコンビネーションで早見沙織さん「琥珀糖」の魅力を最も引き出した優勝イヤホンは……






Westone W80!!

優勝の決め手は、歌とピアノだけで構成されるこの曲とボーカルに無類の強さを発揮するこのイヤホンとの相性、そして「空気感」の表現を特に一歩踏み込んだことだ。

この歌の表現において、注目すべきポイントはいくらでもあるがここでは、ブレスとダイナミクスに特に注目したい。この曲の録音は歌の中での息継ぎもしっかりと捉え、それを強めに生かしたミックスとなっている。歌唱と制作においても、その「ブレスも含めての歌の表現」が意識されているということだろう。

実際そのブレスが歌の情感をぐっと高めてくれている。リズムだけではなく歌の感情にも寄り添って、ある箇所ではすっと速めに、ある箇所ではゆっくり吸い込みと、心と歌の流れをブレスでも表現しているかのようだ。

わかりやすい箇所としてはやはり、サビに至るまでの流れか。
「想い出は琥珀糖 甘く溶けて」
「仄かな残り香と 消えていってしまう」
「もう残らない」
それぞれのフレーズを歌い始める、その手前のブレスのニュアンスの違いに注目。

まず「想い出は琥珀糖」手前のブレスは、このブロックのフレーズが「消えていってしまう」に向かうことからか、それを口にしてしまう際に必要な、少しの決意のようなものを感じさせる鋭さ、速さ。

次の「甘く溶けて」手前のブレスは、ややスロウで緩んだ雰囲気。これは直後の一節「甘く溶けて」を思い浮かべながらのブレスだからだろう。そして「仄かな残り香と」の手前では、鋭くも甘くもなく自然に深いブレス。ここは「残り香」を感じているイメージかもしれない。

「消えていってしまう」は、このブロックの終わりの一節だが、その手前のブレスはあまり目立たせず、そしてそのフレーズ自体もあまり強くは歌っていない。次にくるのがサビの頭「もう残らない」なので、ここにはそこに向かってのタメという役割もあるからだろう。

それを受けてのサビの頭「もう残らない」手前のブレスは速くそして深く、もうそのブレスだけで悲壮感が伝わってくる、そのようなブレス。この曲のサビの始まりは歌詞としては「もう残らない」からだが、歌としてはこのブレスから始まっている。

またブレスとは違うが同じく意図的に音源に残されているであろう歌の要素としては、
「並んで見ていた花が咲く 傍から溢れ落ちる旋律」
の部分。「傍から」を歌い始める瞬間でわかりやすい、リップノイズというのもある。ブレスほど大きな役割は担っていないと思うが、歌の機微として気にかけておいて良いだろう。

ダイナミクス、抑揚の表現はあらゆる歌や楽器において極めて重要だが、この歌ではそれを特に強く生かした表現が選択され、高度に具現化されている。

例えば2コーラス目の
「しがらみは防波堤 君を遠ざけて」
「素直な気持ちさえ 呑み込まれてしまう」
のところ。

先ほど挙げた「想い出は琥珀糖」からと同じメロディなのだが、こちらの方がダイナミクスをより強く出した歌い方になっている。例えば「しがらみ」という言葉はそれへの反発を込めて強く、そして少し鋭い音。対して「君を遠ざけて」はまさに弱い音、弱い声での表現。そのように感じられる表現だ。

ダイナミクス表現においては、フォルテシモの大きさ強さも無論大切だが、それを際立たせるためにはピアニシモ、弱音部の表現も大切。この「君を遠ざけて」のように、早見さんは弱音部の中でもその弱音にさらに抑揚を乗せて、弱さの中での揺らぎまでも届けてくれる。それがあってこそ、サビに向けてのタメがさらに出来てくるわけだ。

それらの難しい表現を余さず届けてくれた上に、声とピアノを調和させひとつにまとめあげる魅力にも優れたW80。これを今回優勝の「女神ホン」として讃えたい。

E5000はW80とほぼ互角、こちらが優勝でも何もおかしくない。ただ声の色気や艶、肉感を生かすという持ち味がこの歌においては、少し生々しすぎるかも?という気もしたので、強いていえば……で差をつけさせていただいた。

RK01は声を少し硬めに出し、この歌の緊張感をしっかり届けてくれる。ピアノも硬質で、ガツンと来てほしいところでのその強さは魅力的だ。しかし例えばブレスでいうと、速さ鋭さの表現は万全だが、ゆったりとしなやかになブレスの表現はもう半歩伸びてほしいところ。

CW-U12aEXは、全体を通しての流れ、抑揚の表現が滑らかで美しい。他も特に弱いところはない。だが、この歌をこのイヤホンで聴くとここがすごい!という突出したポイントには欠け、声ホンアピールは弱めか。

ESTはE5000と対照的。しっとりとした色気は出し過ぎず、ドライというほどではないが、声やブレスの質感がさらっとすっとしている。他の要素もE5000そしてW80と同レベル以上。なのだが、これもまたE5000と逆に同じく、少しすっとしすぎるかもということで今回の優勝はW80に譲った。

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