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12シリーズのSACD/プリメイン

マランツ「SA-12/PM-12」レビュー。フラグシップの核心部を継承、進化も果たした傑作

公開日 2018/07/13 08:10 鈴木 裕
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ユリア・フィッシャーがヴァイオリンソロを弾いているチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトは24/192のPCMだが、この情報量の多いソフトからホールのステージ上の空気感やソロ・ヴァイオリン、各パートまでの距離が良く出てくるし、前後方向の定位の描き分けが素晴らしい。

DSD2.8MHzの音源、大友良英と高田漣が実験的な音楽をやっている『BOW』の「It's Been A Long, Long Time 」では、アコースティック・ギターの高域の、しなやかにして音が立っている音色感やヴォーカルのニュアンス、紙を擦る音などの質感、音像の立体感が的確だ。


PM-12「その再生音について」
最低域まで高い駆動力を発揮。大音量時の醍醐味と質感表現力を両立させる

続いてPM-12を、SA-12と組み合わせて聴いた。竹内まりやの「シングル・アゲイン」では、ストリングスの流麗な感じがよく、エコー成分が若干多いように感じられる。透明感が高いが、高域に微妙に存在感が高いところがあり、それが楷書体のスクエアな感じを持たせている。かつてのマイルドな音というイメージから、より積極的に音楽的な要素を聴かせてくれる芸風に成長した、と言っていいだろうか。

続いてPM-12を試聴。スピーカーシステムはやはりTAD-E1を組み合わせた

クラプトンでは、最低域の駆動力の高さが印象的だ。また、リズムが良く立つので演奏のタイム感、リズムを食ったり、タメたりする表現が見事に伝わってくる。女性コーラスの艶やかさも特筆しておきたい。

トリフォノフのラフマニノフが印象的だった。このソフトでは大編成のオーケストラの大音量の醍醐味と、各パートの演奏の細やかなフレーズや音の質感表現力が要求されるが、その両方の要素が見事に出てくる。その駆動力をアスリートの体脂肪分のイメージで言えば、以前のマランツが20%くらいの感じだったのが15%ほどにも引き締まっている。筋肉質で鍛えられた印象を持っているのだ。

SA-12/PM-12の試聴風景

比較として言えば、PM-10はさらに俊敏で体脂肪分10%というイメージなのだが。ただし興味深いのは、音の減衰のスピードがPM-12は速いことで(筆者は、音のしゃがみが速い、という言い方をしている)、このあたりのパフォーマンスの高さはかなり耳が気持ちいい。ダンピングファクターとしてはPM-10よりもいいということだが、それが体感できる。

SACDの「カルメン幻想曲」ではこのフォーマットらしい音の細やかさが忠実に再現されており、音像にまとわりつく付帯音の少なさや、音の温度感の適切な感じなど、元のソフトの魅力が良く伝わってくる。

12シリーズを通じて
設計年次が新しい分、フラグシップから進化した要素も

SA-12/PM-12は、評価の高いSA-10/PM-10の設計思想や技術、モジュール、パーツなどを戦略的な価格設定の中に巧みに下ろしてきた印象だ。フルバランス回路をアンバランス構成にして回路規模を半分にしたり、12シリーズの贅沢な部分をコストダウンしている要素はたしかに持っている。

しかし、むしろ設計年次が新しい分、良くなっている要素もある。その内容を把握して実際に音を聴くと、見事な意欲作であり、多くのオーディオファイル、音楽好きの方に薦められる。特に現代的なスピーカー、能率やノミナルインピーダンスが低く、なおかつ分解能やS/N感の高いもの、との組み合わせにおいては値段以上の再生音を楽しめる。SA-12、PM-12という単体の製品としても良くできたコンポーネントとレポートしておきたい。

(鈴木裕)

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