HOME > レビュー > ラズパイオーディオにおける音の“揺らぎ”を解決?「リアルタイムカーネル」のメリットと課題

海上忍のラズパイ・オーディオ通信(41)

ラズパイオーディオにおける音の“揺らぎ”を解決?「リアルタイムカーネル」のメリットと課題

公開日 2018/03/12 11:18 海上 忍
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

独自ディストリビューション「1bc」の今後

このように書くと、リアルタイムカーネルの採用は夢のようなアイデアに思えてしまうかもしれないが、音楽再生システムとして一般向けに公開するためにはクリアすべき課題が山ほどある。

まず、安定性の確保。ノーマルカーネルと比較するとテスターの数が少なく、不具合が隠れている可能性がある。リアルタイムカーネルのソースコードはRaspberry Pi専用ではなく、他のコンピュータ/CPUと共用の部分が多いため、テスターはさらに少ない。Linuxカーネルのソースコードは日々進化しており、不具合が少ないバージョンを選び出すのはひと苦労だ。今回は2月時点における最新バージョン(4.9.79-rt61)を採用したが、I2Sで384kHz/32bitを出すことが理由であり、音質と安定性の観点では以前のバージョンを選びたかったという本音を白状しておく。

音質チューニングも悩ましい問題だ。他のオーディオ用ディストリビューション同様、「MPD」を軸に再生システムを構築するが、前ページに掲載したグラフから分かる通り、4基あるCPUコアそれぞれでレイテンシーの状況が若干異なる。そこに複数のパラメーターを持つリアルタイムカーネルが絡んでくるのだから、音決めに時間がかからないわけがない(今回も相当の期間を試聴に費やしている)。ソフトウェアの設定とはいえ音質に影響するのだから、メーカーが担うべき領分であり、コンソーシアムとしてどこまでやるかという決定も必要になるだろう。

もちろん「Music Plug&Play(挿す即再生)」はどのような環境でも動作する

安全対策もある。1bcはRaspberry Pi財団公式Linuxディストリビューション「Rasbian LITE」に手を加える形で開発しているため、セキュリティホールに対するパッチの提供などはそちらに頼れるが、どのような手段にするか(まさかコマンドを叩いてくれとはいえない)、どのようにしてユーザーにアップデートを促すかは、早急に決めなければならない。

他にも、音質設定用インターフェイスを用意するかどうか、スマートフォンアプリを提供するかどうかという課題がある。OSのイメージファイルは圧縮しても数百MBに達するため、サーバーの手配も欠かせない。技術説明会で初披露した「Music Plug&Play(挿す即再生)」のブラッシュアップと仕様定義も必要だ。MPDに代表される再生ソフトの設定および最適化、オーディオとは無関係な機能の削ぎ落としなどなど、挙げ始めるとキリがない。

リアルタイムカーネルのレイテンシーをグラフ化したもの

一つ、確実なことは……オープンソースのライセンスを遵守すること。特定の製品を購入した人しかダウンロードできない、明らかにソースコードに変更を加えているにもかかわらず差分が公開されない、という事態には決してならないので、どうか温かい目で見守っていただきたい。

前へ 1 2 3

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE