HOME > レビュー > ラズパイオーディオにおける音の“揺らぎ”を解決?「リアルタイムカーネル」のメリットと課題

海上忍のラズパイ・オーディオ通信(41)

ラズパイオーディオにおける音の“揺らぎ”を解決?「リアルタイムカーネル」のメリットと課題

2018/03/12 海上 忍
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
コンソーシアム技術説明会を振り返る

3月7日にPHILE WEBに掲載された「ラックスマン、ラズパイ搭載ネットワークプレーヤー「AUDIO OSECHI BOX」披露」の記事、当コラムの読者諸兄には興味を持ってお読みいただけたのではないかと思う。ワンボードオーディオ・コンソーシアムのボードメンバーであるラックスマンが、本格的なトランスを奢ったRaspberry Pi搭載機を試作したことは、陰に陽に関与した我々(コンソーシアム内の部会である)コンポーネントGおよびソフトウェアGにとって貴重な経験だったことはもちろん、共通部分の仕様を固めるうえでのマイルストーンとなった。

説明会数日前の「AUDIO OSECHI BOX」。この時はFOCALの新スピーカー「KANTA N゜2」で試聴した

音質に関していえば、利害関係者である筆者の場合、ポジショントークに聞こえてしまうかもしれないが、正直これまで聴いたどの“ラズパイ・オーディオ”より洗練されていた。DACチップには「DAC 01」と同じTI PCM5122を採用しているため、聴き慣れているはずの音と思いきや、空間表現などディテールが違う。ラックスマンが誇る旗艦プリメインアンプ「L-509X」を使い、昨秋取り扱いが開始されたFOCALのスピーカーシステム「Maestro Utopia Evo」を駆動するという贅沢なシステムを抜きにしても、電源回路にシリーズレギュレーターを使うなど、オーディオメーカーの知見を盛り込んだことが大きく影響しているのだろう。

AUDIO OSECHI BOX(JU-001)の内容

ところで、AUDIO OSECHI BOXと共に、独自ディストリビューション(と大見得を切るほど錬成できてはいないが…)の部分が気になった方も多いのではないだろうか。ここはソフトウェアGの仕事で、筆者が大きく関与した部分だ。今回は連載の場を借りて、技術説明会では語れなかった部分、わかりにくかった部分を補足したいと思う。

「揺らぎ」を抑えるために

「1bc」の前に、改めて「Linuxディストリビューション」という存在について、そして「カーネル」が音質に与える影響について説明しておきたい。

一般的に「Linux」という場合、LinuxというOSの中核プログラム(カーネル)にライブラリやアプリケーションソフトといった付随ソフトウェアを加えた配布物一式を指す。これがディストリビューションで、ウェブサーバーなど基幹業務用なのか、表計算やウェブブラウジングなど個人の作業用なのか、用途により付随ソフトウェアの構成が一変する。

カーネルに期待される役割も変わってくる。業務用サーバーでは安定性や効率性が指向されるのに対し、機械設備の制御システムではリアルタイム性が重視される。だから用途に応じたLinuxディストリビューションが存在し、利用目的に応じたチューニングが必要な場面も生じてくる。

カーネルが音質を左右する要因になるかどうかだが、無関係とは考えにくい。今回のAUDIO OSECHI BOXやDAC 01の場合、22.5792MHz/44.1KHz系と24.576MHz/48KHz系という2系統の水晶発振器を搭載し、そのクロックを入力したRaspberry PiがサンプリングレートをDACに指示する形だが(Raspberry Piはスレーブ動作)、それでもカーネルの割り込み処理に起因する「レイテンシー」に少なからず影響されるからだ。

ノーマルカーネルのレイテンシーをグラフ化したもの

次ページ緩和する方法の一つが「リアルタイムカーネル」

1 2 3 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE