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三極管211で大出力120Wを安定動作

愛好家の憧れと夢を実現したパワーアンプ、エアータイト「ATM-3211」を聴く

公開日 2017/12/15 18:46 小原由夫
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■抜群のトランジェントと臨場感 微細なニュアンスも丁寧に醸し出す

音を出して最初に感じたのは、その佇まいに似た威風堂々とした揺るぎないエネルギーバランスだ。しかもスピーカーをねじ伏せるような振る舞いでなく、悠然かつ伸び伸びと歌わせるような鳴り方に個性を感じる。

AYUKOのクルトワイル集のLPから、B-1の「アラバマソング」を聴いたが、アブストラクトなフレーズを繰り出すベースやピアノ、クラリネットのアンサンブルを背に、時に荒く、時にロマンチックな歌唱がスーッと前に浮かび上がる。本盤は歌と伴奏を同じ室内で同時録音した特殊なものだが、フリーキーなトーンの楽器に決して埋もれず、生々しい空気感、臨場感が音から感じられる。ATM-3211はそれを素直に引き出してくれているのだ。声はどこまでも瑞々しく、滑らかで潤いがあり、微細なニュアンス、節回しのつけ方が実に丁寧に醸し出されている。

『ジェフ・ベック/ワイアード』のUKオリジナル盤の再生では、実に切れ味鋭いベックのギターが堪能できた。ビートもタイトで、ロックをここまで気持ち良く、しかも大音量で聴ける真空管アンプは稀だろう。ギターのディストーションが心地よいのは、真空管特有の第2次高調波歪みとの相乗作用もありそうだ。音量を上げていっても音像が崩れない点にも感心した。

『ステッピン・アウト/ステップス・アヘッド』では、ビッグバンドを統率するドラムの存在感が際立った。キックドラムがリアルな実在感で、そのビートに支えられてサックスやビブラフォンのソロが克明に響く。ブラスアンサンブルの柔らかな響きとリズムセクションの引き締まった音の対比が好ましい。ATM-3211は、そうした柔剛の描き分けが素晴らしい。

ムーティ指揮、フィラデルフィア管の『ムソルグスキー/展覧会の絵』は、ユキム取り扱いのワーナーBOXのなかの1枚。打楽器のトランジェント感が抜群で、和声部の美しさにも引きつけられた。マッシブな低音部のリズムには、ATM-3211の瞬発力の高さがうかがえる。

こうしてみると、480万円(ペア)というのは、額面だけを捉えれば確かに大金ではあるが、ATM-3211の内容を知れば、決して高額ではないと分かる。発表されたばかりのプリアンプ「ATC-5」と組み合わせた時、果たしてどれほど説得力の強い音が聴けるのか。個人的にも楽しみで仕方がない。

(小原由夫)

■開発者から

エイ・アンド・エム株式会社
代表取締役
三浦 篤 氏

エアータイトブランド創業30周年記念を締めくくるATM-3211は、送信三極管の211を使い、プッシュプル動作で100Wを超えるモノラルパワーアンプです。三極管で100Wを超える大出力パワーアンプは、エアータイトの長年の夢でありました。高電圧を扱う211としてあまり前例のないAB級プッシュプルのアンプを作り出すのには、様々なテストを繰り返しながら5年の歳月が必要でした。差動構成の初段、12BH7を用いたパラレル接続の2段目、更にパラレル接続のカソードフォロワーという近代的な手法で211をフルスイングして、大出力と物理特性の両方を追求しております。ATM-3211の最弱音における優美な繊細さと、大音量時に飽和することなく、どこまでも伸びていくクリアなサウンドを存分にお楽しみ下さい。

■使用機材と試聴ディスク

アナログプレーヤー/ラックスマン「PD-171A」
フォノイコライザー/アキュフェーズ「C-37」
プリアンプ/アキュフェーズ「C-3850」
MCカートリッジ/ミューテック「LM-H」
スピーカーシステム/TAD「TAD-E1」

『NAKED CIRCUS』ayuko(オーディオ・ファブ・レコーズ/AFR217)
『JEFF BECK/WIRED』(A&M Records/EPC 86012)
『STEPPIN' OUT/STEPS AHEAD』(Jazzlin/N 78033)
『ムーティ指揮、フィラデルフィア管「ムソルグスキー/展覧会の絵」』(Yukimu CLASSIC LP COLLECTION/YKMLP-0012)

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