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三極管211で大出力120Wを安定動作

愛好家の憧れと夢を実現したパワーアンプ、エアータイト「ATM-3211」を聴く

2017/12/15 小原由夫
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■精緻な設計と高度な技術で優れた表現性と大出力を実現

エアータイトを擁するA&Mは、昨年創業30周年を迎えた。今日の世界的な真空管アンプブームは、同社のような老舗メーカーの地道でたゆまぬ企業努力の賜物といってよい。それは真空管という増幅デバイスに対する信念ともいえよう。矢継ぎ早に新製品を投入するのでなく、ひとつのモデルを長く作り、保守サービスにも万全の対応をとる。そうした姿勢がユーザーとの信頼関係にもつながる訳だ。

ベテランの女性スタッフによる、基板を使わないハンドメイドの絡げ配線とハンダづけが同社製品の特色。シャーシ内部のその様子は芸術的である。それが比較的安価な製品からトップエンド機までまったく変わりがないというのもポリシーだろう。

AIR TIGHT/モノラルパワーアンプ「ATM-3211」(¥4,800,000/ペア、税別)※受注生産

大型直熱3極管UV-211を用いた最新フラグシップのパワーアンプ「ATM-3211」は、プッシュプル構成のモノラルアンプ。01年発表の「ATM-211」は、同種の球をシングル構成として22Wを得ていたが、今回は「100W超のハイパワー×3極管の表現力」を目標に、5年の開発期間をかけて完成させたもの。自ら高いハードルを掲げ、設計精度を突き詰めた結果120Wの大出力を獲得した。

本機に採用されているエアータイト選別品の真空管。左からUV-211、12BH7、12AX7

回路構成としては、トランス結合やパワー管駆動式といったオーソドックスかつ古典的な手法を採らず、オーバーオールの帰還方式を採用。初段部は差動構成とし、2段目は12BH7を用いたパラレル接続、さらにパラレル接続のカソードフォロワーで211をドライブするという回路になっている。その結果、最大出力まで歪みのない広帯域特性と、211ならではの透明感と伸びやかなサウンドの両立を実現したという。

使用パーツにも贅が尽くされた。同社製品ではお馴染みのタムラ製作所の大型出力トランス。電源用トランスは、高圧電源と低圧電源用に分けた2トランス構成である。厳選したフィルムコンデンサー、特注の抵抗器のほか、入力端子やスピーカー端子にはヘビーデューティなドイツWBT社製が奢られた。

基板を使わず、美しく配線された本機の内部。大阪・高槻にある自社工場で、全ての製品が熟練工による手配線でていねいに組み上げられる。高電圧を用いる211の特性を、最大限に配慮したパーツ選定がなされ、抵抗は特注し、フィルムコンデンサーとその素材は厳選したものを適材適所で使用している

本機背面。出力トランスには、大出力時にも低域が破綻しない伸びやかな音を実現するため、タムラ製作所の大型出力タイプを採用。入力端子、スピーカーターミナルには、信頼度の高いドイツのWBT社製を採用。電源部は高圧電源と低圧電源を分けた2電源構成を2トランス構成にすることで、大出力時の瞬時の電力供給に万全を尽くし、なおかつ各電源同士が干渉を起こさないようにしている

シャーシのシンメトリーな外観デザインは、非常に精悍な面構えである。15mm厚のアルミ製フロントパネルは、NC旋盤による削り出しで、先鋭なカッティングが施された大型バイアスメーターが視覚的なアクセントだ。筐体全体はスティールを多用し、内部をモノコック構造とした上で随所に補強を入れてサウンドチューニングを実施。ガンメタリック色の表面には、ネジが一切露出していない点にも注目したい。

15mm厚のアルミフロントパネルはNC旋盤による削り出し。大型バイアスメーターは、出力管の状態の常時チェックと、大出力時の指標としても機能する

内部は溶着したスタッドボス、スタッドボルトを使ってアース/グラウンドを堅持。堂々とそびえ立つような出力管211のソケット部には、豪華な飾りリングがあしらわれている。その後ろにバイアス電流調整用の半固定抵抗が備わり、初段や2段目の真空管12BH7A等の4本は、出力トランスの後ろにひっそりと隠れている。

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