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開発者インタビューも

<IFA>ソニーの“全部入り”ヘッドホン「MDR-1000X」を、音質からノイキャン性能までレビュー

2016/09/03 山本 敦
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業界最高クラスのノイキャン性能をアピール

ソニーが本機で強くアピールしているのは「業界最高クラスのノイズキャンセリング性能」だ。「ノイズ消去率が〇〇%」といった表現方法は最近のトレンドではないので、ソニーも敢えてそういう伝え方はしていない。しかし、本機の開発を担当したソニー ビデオ&サウンドプロダクツ(株)渡辺直樹氏は「ノイズ除去のボリュームが増しているだけでなく、カバーする帯域も広がっている」と説明する。実機で試せばその効果のほどは明らかだ。

従来モデルで評価を得た「デュアルノイズセンサーテクノロジー」は、本機でも踏襲された。これは、イヤーカップの内側と外側の両方に超小型のマイクを搭載して周囲のノイズを集音、デジタル方式のDNCソフトウェアエンジンによってノイズを効果的に低減するという仕組みだ。

イヤーカップの側面に独立して設けられている「NCボタン」を“半押し”するとノイキャン機能をオン/オフできる。確かに消音性能は高く、IFA展示会場の喧噪がすっと聴こえなくなる。特に低音域の消音感が自然で、機能のオン/オフを切り替えてもノイズ成分だけが自然に消えて、しかも耳の奥を突かれるようなノイキャンヘッドホン特有のプレッシャーも少ない。周囲のノイズの種類をヘッドホンが自動で分析して、消音効果を最大化する「フルオートAIノイズキャンセリング」と合わせて賢くノイズから解放してくれる。

側面にNCのオン・オフやアンビエント機能を操作するボタンを配置。指でふれてボタンが区別しやすいように突起を付けている

ソニーにとって最新のノイキャンヘッドホンである本機には最先端の技術が投入されている。その一つが新規に開発された「パーソナルNCオプティマイザー」だ。ヘッドホンを身に着けた状態で、イヤーカップ内側のアコースティックなコンディションを測定。信号の反響を内側のマイクで解析する方法により、ユーザー個々人で差がある「頭や耳のかたち」「髪型」「装着の仕方」などのファクターを計算しながらノイキャン効果をベストな状態に整える機能だ。ちなみに最近のヘッドホン製品では、JBLの「EVEREST ELITE 700/300」が同じようなヘッドホン向け自動音場補正を乗せている。

使い方だが、最初にヘッドホンを正しく身に着けてから「NCボタン」を2秒ほど“長押し”する。直ちに試験信号が聞こえてきて、10〜20秒ほどで測定は完了する。補正の前後で聴こえ方を比べてみると、音のつながりが良くなり、バランスが均等化された引き締まった音になった。自然なノイキャン効果にも磨きがかかり、音楽リスニングへの集中力も高まる。

測定は手軽にできるので、普段使いに活用したい機能だ。女性の場合は髪型をちょっと変えるたびに、あるいは男性もメガネとコンタクトを使い分けた時などに、ひと手間かけて測定しておけば、コンディションに合わせた最良の音楽リスニング環境が得られる。一度測定した値は、次回イコライジングを行うまではメモリーされる。今後のヘッドホンリスニングのトレンドにもなりそうな面白い機能だ。

ノイキャン機能を効かせたまま外部の音が拾える

ノイズキャンセリング機能をオンにしたまま外音も取り込める機能が付いた。ノイキャン機能付きの製品に限らず、ヘッドホン・イヤホンを使ってアウトドアリスニングを楽しむ際には周囲の安全にも気を配りたいもの。パロットの「Zik 3」やJBLの「EVEREST ELITE」シリーズなど、ノイキャン対応の最新機種も積極的には先行して外音(アンビエント音)取り込みの機能を採用してきたヘッドホンがあり、ひとつのトレンドになっている。

MDR-1000Xは「ノーマル」と「ボイス」の2種類のモードを乗せた。それぞれハウジングの側面にある「アンビエントサウンド」ボタンで切り替えながら使える。なお、ノイキャンのオン・オフ切り替えとアンビエントサウンドのボタンはハウジング側面に近接して配置されているが、各ボタンにかたちが異なる突起が付いており、慣れてくれば操作ミスは減らせそうだ。

「ノーマル」は周囲の音を多めに取り込むモードで、ノイズキャンセリング機能は低域に薄くかかっているだけの状態になる。密閉型ハウジングでノイキャン機能付のヘッドホンを使いつつも、外の音も聴きながら音楽を楽しみたいというケースに実用性を発揮する。「ボイス」は独自の演算処理により人の声にズームできるモード。例えば駅や空港、ショップの店内などでアナウンスにも気がつける状態にありながら、音楽も集中して楽しみたいという場合に最適だ。ざわめきにあふれているIFA会場の中でも、人の声だけを正確にピックアップして聴かせてくれた。

右側イヤーカップの表がタッチセンサーになっている

両モードは機能を有効にしている間は適用され続ける設定だが、例えばコンビニで買い物をして、レジでのやり取りの間だけ店員さんの声を一時的に聴きたいこともあるだろう。そんな場面では「クイックアテンション」機能が有効だ。

MDR-1000Xは右側のイヤーカップにタッチセンサー式のリモコンを内蔵している。イヤーカップの表側を手のひらで覆い隠すようなジェスチャー操作で「クイックアテンション」が起動。アクション中はノイキャン効果をぐんと抑えて、外音を取り込みながら周囲の音が聞ける。

同様の機能をハウジングやケーブルに搭載するリモコンのボタンで操作するヘッドホンもあるが、本機ではソニーが得意とするセンサー技術を使って、シンプルなジェスチャー操作でこれを実現した点に着目したい。耳に手を当てるという自然な動作で機能が立ち上がるので、ふだん使いの機能として習慣化がしやすいと思う。ヘッドホンを着けたまま会話をしなければならない時でも、見た目にもややオーバーなアクションで「あなたの声も聞いていますよ」というがポーズが示しやすいのではないだろうか。

4つのリスニングスタイルが選べる

ソニー歴代の“全部入り”ヘッドホンと同様に、本機もケーブルを接続した状態の有線リスニングを含めると、「BT+NCオン」「BTのみオン」「NCのみオン」「BT+NCオフ」と4つのマルチなリスニングスタイルが選べるヘッドホンだ。有線リスニング時には、ハイレゾ対応ヘッドホンとしての真価も発揮するが、「ソニーとしてはNCオンの状態で音づくりをしている製品であり、この状態でのハイレゾ再生を推奨している」と渡辺氏は語る。ケーブルは着脱式で、端子形状は3.5mmステレオミニ。MDR-1Aのオプションとして販売されているバランスケーブルには非対応だ。

タッチ操作はスマホ連携を強化

MDR-1ABTと同様、右イヤーカップの側面にタッチセンサー式のリモコンを内蔵。指によるスワイプ操作で音楽再生、ボリュームのアップダウン、ハンズフリー通話ができる。今回のモデルから新しくiOS/Androidの音声アシスト機能にも対応した。ハウジングの中央を長押しすると音声アシストが起動。iPhoneのSiriなど声で操作ができる。

バッテリー性能はh.ear on Wireless NCと同等。充電時間は短縮

Bluetooth+ノイズキャンセリングの状態での連続音楽再生は最大20時間。ソニーの全部入りヘッドホンである「MDR-100ABN」と同じスペックだ。ノーマルなmicroUSBケーブルによるUSB充電に対応。フル充電に約4時間がかかるが、MDR-100ABNの約6時間よりも短縮されている。

MDR-1000Xは機能面で他のヘッドホンを寄せ付けない圧倒的な充実ぶりであるが、唯一、連動するスマホアプリが無いのは残念。ボーズの「QC35」のように、アプリの画面で本体のバッテリー残量を確認したり、ペアリングをサポートしてくれたら、なお良かった。ノイキャン効果の自動調整機能である「パーソナルNCオプティマイザー」の動作状態、アンビエント音取り込み機能の切り替えなど、本体ボタンが小さくて操作しづらいという向きもありそうなので、スマホの画面から視覚的に操作できたら…と少し残念だ。その点はパロットの「Zik 3」やJBLの「EVEREST ELITE」シリーズのアプリは使いやすくできている。

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