海上忍のラズパイ・オーディオ通信(16)

ラズパイ・オーディオでDSDネイティブ再生、DSD 11.2MHzの世界を目指す

海上 忍

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2016年06月16日
■ラズパイ・オーディオでDSD 11.2MHz(DSD 256)対応が遅れている理由

コンポーネントオーディオで急速に対応が進む「DSD 11.2MHz(DSD 256)」だが、残念ながらラズパイ・オーディオではまだこれから。簡単にいえば、Linuxカーネルとサウンドライブラリ(ALSA)、再生ソフトウェアという三位一体での対応が必要なことが理由だ。

DSDの実データ(16bit)に8bitの識別信号を添えた計24bitの信号をPCMのフレームに格納して伝送する「DoP(DSD over PCM)」は、PCMという"枯れた"インターフェイスが存在するだけに、比較的早い段階からサポートされてきたが、完全なネイティブ再生はそうもいかない。カーネルやライブラリといった基礎レイヤーでの対応が必要になるのだ。

DoPでもDSD再生であることは確かだが、8bitの識別信号はある意味ダミーであり、実データのみ転送すれば用は足りる。Windowsを例にすると、DSDネイティブ(非DoP)再生にはASIOドライバを必要とするDACが存在するが、それはWindows標準のオーディオAPI「WASAPI」にDSD用インターフェイスが定義されていないためだ。Macも同様に、OS Xの標準オーディオAPI「Core Audio」の仕様により、DSD再生はDoPが基本となる。

Linuxを利用するラズパイ・オーディオの事情も、基本的にはWindows/Macと同じと考えていい。しかし、WASAPIやCore Audioに相当する「ALSA」はオープンソース −− ソースコードを公開し誰でも開発に参加できるソフトウェア、基本的に自由な改変と再配布が可能だが、変更内容は公開義務を負うとのライセンス条項を持つものが多い −− であり、ユーザコミュニティによる自助努力で道は開ける。実際、DSDネイティブ再生に対応するためのソースコード差分(パッチ)は、以前から有志開発者により提供されていた。

MPDとtelnetで通信し、再生中の楽曲情報を表示したところ。audio欄には、DSD 11.2MHz(DSD 256)を意味する「1411200」が表示されている

それでもDoPに頼らないDSDネイティブ再生が一般化していない理由は、ディストリビューションとしての準備ができていなかったらだ。Linuxの場合、OSの中核であるカーネルのほかに、各種ライブラリやコマンド、ネットワークサービスなど多数のソフトウェアをまとめて配布物(ディストリビューション)に仕上げる。ソフトウェア間には依存関係があることが多く、そのバージョンによって動作する/しないの問題が生じうるため、ディストリビューション開発は時間と人手を要する大変な作業だ。

LinuxディストリビューションにはDebianやRed Hatなどいくつかの系統があるが、いずれもデスクトップPCが開発の本流であり、その支流に位置付けられるRaspberry Piの場合、PC向けディストリビューションを基礎としてソフトウェアの取捨選択を行うことになる。Volumioなどオーディオ用途のRaspberry Pi用OSは、いわば"支流の支流"に相当するわけで、正式版の配布物としてDSDネイティブ再生をうたうまでには相応の時間を要してしまうのだ(開発者のモチベーションや趣味の部分も大きいが)。

今回DSDネイティブ再生のテストに利用した「iFi Audio micro iDSD」。DSD 11.2MHz(DSD 256)の再生にもバッチリ対応する

“DSDネイティブ再生”にこだわる理由とは?

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