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"ハイレゾ対応"新SOLID BASSを聴く(2)

オーディオテクニカ「ATH-CKS1100」レビュー:豊かな空間表現と重低音再生を両立させた会心作

2015/11/02 高橋 敦
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ハイレゾの流行と共にモニターライクなフラットバランスのオーディオに注目が集まってきたことも理由ではないかと思うのだが、隆盛を誇った「低音系」のイヤホンやヘッドホンは近年、その勢いを失いつつあった気がする。個人的な音の好みとは別なのだが、多様性の維持という観点からすると、そこに少しの不安や寂しさを覚えていた。

そこにまさに先ほど述べた「低音」と「ハイレゾ」をまとめ上げることをコンセプトに掲げて登場してきたのがこの度「新・SOLID BASS」のイヤホンのトップエンド「ATH-CKS1100」だ。

ATH-CKS1100

技術面での最大の注目は「デュアルフェーズ・プッシュプル・ドライバー」だ。去年4月発売の「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」で初採用された新たなドライバー技術であり、本シリーズにおいてはトップエンドのこのモデルのみが搭載する。

簡単に説明すると、ふたつのダイナミック型ドライバーを向かい合わせに配置して逆位相(正負や表裏の関係と想像してみてほしい)駆動することで、高い駆動力や俊敏な応答力といった要素を歪みを増やさずに高められるという技術だ。ドライバーの数を倍に増やせばパワーも倍になるだろ? という単純な力任せの技術ではない。

専用設計のφ12.5mmドライバーを向かい合わせに2基配置。向かい合う2つのマグネットで磁気を強め、重厚な低域再生を実現する。2基の対向配置ドライバーはそれぞれ逆位相で駆動するので、歪みを抑え伸びやかなサウンドを実現するという

なおドライバーは新規開発品で、ATH-CKR9および10よりも振動板の径が少しだけ小さく、耳に近い側のドライバーの振動板は「マルチトランジションDLC振動板」となっている。「DLC」は「ダイヤモンドライクカーボン」の略とのことだ。名前の通りダイヤに近い硬度を備えるそれが振動板にコーティングされており、共振ポイントを分散する効果があるという。重低音再生の鮮明さを高めることが主な狙いとのことだ。またそれとは逆の側のドライバーはマグネットを大きくして磁力を強化してある。

技術面でもうひとつの大きなトピックは「デュアルエアフローベース・ベンティングシステム」。ベント、つまり空気孔で音響を調整することそれ自体はオーディオ機器のチューニングにおける一般的な手法だ。だからこそ、どういう音の方向にどういうやり方で向かわせるのかに各社の基本的な考え方や技術力が現れる。

ドライバー特性に応じた最適な位置に2つのベントを配置して、筐体内部の空気の“バネ性”をコントロール。低音出力を効率的に高めながら、レスポンスに優れた再生音を実現する

ここで話を戻すと、このモデルのコンセプトは「SOLID BASSならではの重低音×ハイレゾの解像感」。それこそがこのモデルのチューニングの方向性ということになる。それに沿ってその実現のために用意されたのがデュアルエアーフローベース・ベンティングシステムというわけだ。あくまでもコンセプトが先にあり、その実現のために新技術が開発されたということも理解しておきたい。

具体的には筐体の二箇所にベントを設置して筐体内部の空気バネの弾性を制御しているのだが、その調整に投入されているステンレス製の音響抵抗材が目に留まる。技術的に目に留まるというのもあるが、筐体から微かに覗くそのメッシュの緻密さが、デザイン要素としても魅力的なのだ。実物を目にする機会があればぜひ目を凝らして見てほしい。

なお筐体はアルミからの切削とのこと。前述のドライバーを搭載するので、全体として大柄ではある。

ハウジングはやや大ぶり。切削無垢アルミニウム材を採用している

ケーブルの着脱端子は、オーディオ専用設計とした独自の「A2DC」コネクタ。MMCXのようにクルクル回転してしまうこともなく、接触の良さと耐久性を兼ね備える

また、ケーブルの着脱端子はこちらも新たに用意された「A2DC」コネクタになった。一般的なMMCXと同じく超小型同軸端子だが、汎用規格を流用したMMCXとは異なりオーディオ専用設計とのこと。実際に着け外ししてみるとその感触の良さは確かに伝わってきて、確実な接触と耐久性を期待できそうだ。今後の同社製品に共通して採用され続ければ、ユーザーからの信頼を得て定着するかもしれない。

次ページハイレゾの解像感とSOLID BASSならではの重低音を見事に両立

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