HOME > レビュー > 現代のアナログはここまで到達した。ラックスマンの管球式フォノイコ「EQ-500」レビュー

同社初の全段管球式モデル

現代のアナログはここまで到達した。ラックスマンの管球式フォノイコ「EQ-500」レビュー

公開日 2015/07/15 11:51 井上 千岳
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
このほかハイカット、ローカット、バランス接続の位相切り替えなど機能は豊富だ。また使用真空管はスロバキアのJJ製とし、信号が直接通過するカップリング・コンデンサーには、ドイツのムンドルフ製を採用した。

スロバキアのJJ製真空管を採用

カップリング・コンデンサーにはドイツのムンドルフ製を採用

さらに底部には、アルミ無垢材から削り出した高剛性インシュレーターを装備。付属の電源ケーブルは同社の市販品JPA-10000である。

アルミ無垢材から削り出した高剛性インシュレーターを装備

「現代のアナログはここまで到達した」と実感させられた

さて本機は整流も含めて全段管球式である。さぞかし真空管らしい音がするだろうと想像する向きも多いことだろうが、ここで聴くかぎり管球式特有の音を感じることはない。素子や構成の良さはわかるが、いわゆる管球サウンドとは別である。

まずS/Nが高い。輪郭線がまっすぐで揺れがなく、ディテールを極めて明確に掘り出している。このため音数が豊富で切れがよく、シャープな再現性を示す。全てがきりっと立ち上がっているような、活きのよさがある。

「EQ-500」のトップパネルを外したところ。繊細なフォノイコライザー部はケースで覆われている

バロックはアンサンブルの分離がよく、混濁するところがない。空間が広々として余裕がある。それを背景としてオーボエやヴァイオリンのソロが、くっきりと立ち上がっている。その光景が鮮やかで清々しい。どこにも汚れやほこりっぽさがなく、新鮮である。解像度がよほど高いのであろう。

ピアノも静寂で深い。なにより意外なのは音場の奥行がきちんと把握され、そこにピアノの音がぽつんと存在して感じられることだ。周囲の空間が実に静かで何もないだけに、余計楽器の存在感が高まるのである。

アナログのいいところだけを抜き出したような印象

レスポンスが均一で位相が正確でなければあり得ない音の出方で、単なる音色や強弱だけのことではない。また一音々々の彫りの深さと微小レベルの緻密さも、特筆しておかなければならない。演奏の表現力が非常に色濃く引き出されるのである。

音元出版の試聴室に設置したEQ-500

ラックスマンのアナログプレーヤー「PD-171A」と組み合わせて試聴した

オーケストラは峻烈で手触りが生々しく、ここでもホールの静寂感が目覚ましい。音が途切れた瞬間あるいは弱音での響きや余韻が精密なため、周囲の空間が感じ取れるのだが、やはりS/Nに加えて微小信号の正確な増幅ができなければ、こうした再現は不可能である。

また楽器間の遠近もはっきりして、手前の弦楽器と奥に位置する木管との位置感がよくわかる。スピードも大変速く、アナログでこういうのは許されるのかと思うくらいに立ち上がりが鮮烈だ。当然歯切れがよく、張りが鋭く、ダイナミックな抑揚が強い。

ノイズがなければテープのように感じるかもしれない。またデジタルのいいところだけを抜き出したような印象でもある。アナログを非常に良好な条件で再生するとこうなるという、いわば見本のような再現と言っていい。現代のアナログはここまで到達したのである。

(井上 千岳)

前へ 1 2

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE