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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第112回】高橋敦の “オーディオ木材” 大全 〜 音と木の関係をまるごと紹介

2015/01/16 高橋敦
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●エボニー

日本では「黒檀」とも呼ばれる。その名前の通りにローズウッドよりも全体に色が黒い傾向で、黒い個体が好まれる傾向も強い。楽器ではヴァイオリン属の指板材として有名。ギター属では高級モデルでの採用例が目立つ。ギターよりもヴァイオリンで一般的というのは、ローズウッドよりもさらに硬いので指が直接指板をこするヴァイオリンには適している一方、ローズウッドより欠けやすいので、フレットの保持や打ち替えにおいての粘り強さも必要なギターの指板としては少し扱いにくいというのがあるのかもしれない。なおこちらはローズウッドよりさらに比重が高く、おおよその個体は水に沈む。

山本音響工芸の木材素材キューブベース「QB」シリーズのエボニー採用モデル。アサダ桜モデルも用意されている

と話がまた完全にギターに脱線したように見せかけて、その「硬くて欠けやすい」というのがオーディオでの採用例もあまり多くはない理由だろう。加工性が低いのだ。また高級材でもあるので、例えばスピーカーのキャビネットを全てエボニー無垢材で作るなど考えるにも恐ろしい。音質的にもかなり癖が強くなるだろうし。逆に言えば精密な造形や材の量が必要ではないところにピンポイントで投入すればエボニーは力を発揮する。重さと頑強さを生かすならインシュレーター等の制振アイテム、その外観や手触りを生かすならボリュームノブ等だ。

●桜

ご存知、あの桜だ。日本の木のセンターであるあの咲良…じゃなくて桜だ。宮脇プロとは関係ない。やや硬めで重めの割に加工性も悪くなく、扱いやすく、木目にも癖がない良材で、日本では建築から家具まで幅広く活用されてきたとのこと。何しろ桜なので親しみやすい。現代のオーディオ趣味の日本人にもなじむことだろう。採用例としてはヘッドホンのハウジング、インシュレーター等の制振アイテムが主。「アサダ桜」というものが特に利用されているようだ。採用例があまり多くないという意味ではここでピックアップする必要はなかったのかもしれないが、何しろ桜なので無視はできない。さくら咲け!

オーディオテクニカの記念モデル「AT-W3000ANV」はアサダ桜ハウジング

●バーチ

樹種としては桜や樺(カバノキ)に近い仲間。様々な気候に適応し世界に広く分布するが、寒冷地産のものが特に利用されているように感じられる。特性や外観は類縁の桜に近いとのこと。日本で「カバザクラ」とされている材と近くほぼ同じものとして扱われ、桜の代替としても多く使われているようだ。楽器においてはドラムのシェル(胴)の素材として一般的。オーディオにおいてもだが、目立つのは合板や積層材(共に後述)という形での利用。バーチ材は合板や積層材への加工性が高いのかもしれない。スピーカーキャビネットへの採用は、合板や積層材ならではの頑強さ、適度な制振性を見込んでのことだろう。なおアイスランド語で「カバノキ」を意味する語は「Bjork」。

超ハイエンドスピーカーTAD「TAD-CE1」はキャビネットのフレーム(骨組み)にバーチ合板を採用

PENAUDIOの名機のアップデート版「Charisma (BASIC)」は見ての通りのバーチ積層。積層は接着剤成分も含めてか制動効果が高いようだ

●パイン

これは楽器でもオーディオでも採用例は少ないのだが、特に身近な木材のひとつなので触れておいたほうがよいだろう。例えば「無印良品」あたりの家具コーナーを見てもらえれば、パイン材の家具が定番であることがわかると思う。他、フローリング材としても一般的だ。というかパインは日本で言う「松」だと言えば、その身近さがすっと伝わるだろう。
安定して供給されているようで比較的安価。特に後述のマルチピース集成材は東急ハンズとかホームセンターなどでも広く販売されており、やっぱり身近な木材と言える。建築材にも使われているので強度等も十分だろう。

当時のビクターから発売の「HP-DX700」はラジアータパイン材をオーディオに採用した珍しい例

しかし音響分野での利用例としてぱっと思いつくのは、フェンダーのビンテージ期やその復刻品のギターアンプおよびベースアンプのキャビネットくらいだ(それらのアンプはスピーカーとの一体型となっており、アンプのキャビネットはスピーカーのキャビネットでもある)。

次ページ残念ながら樹種の世界は次頁で最後。「オーク」「スプルース」「チーク」「竹」

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