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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第112回】高橋敦の “オーディオ木材” 大全 〜 音と木の関係をまるごと紹介

公開日 2015/01/16 10:44 高橋敦
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■木材の主な特性

そういった諸々の理由でオーディオ機器に木材を使うとき、様々な木材の中からどんな木材を、どんな理由、どんな要素を考慮して選ぶのか。その要素をいくつかに大別して考えてみよう。

●比重
●強度全般
●加工性
●入手性
●外観等


●比重

同一体積での重さ軽さ、つまり密度は、木材の種類によって大幅に異なる。例えばコンビニ弁当の割り箸と立派なデパートの食器売り場で売られているようなお箸を持ち比べてみれば容易に実感できるだろう。それを数値としてわかりやすく表すものが「比重」だ。これは水の密度を1とした場合の相対的な数値で、「比重が1より大きい物質は水に沈み、1より小さな物質は水に浮かぶ」ということで感覚的に把握しやすい。ちなみに比重が1を超えていて水に沈む木材も存在する。

さてこの比重からは、基本的に「比重が高い木材は重くて硬い」と推察できる。「軽いわりに強い木材」とかもあるので常に当てはまるわけではないが、頑丈に作りたい機器、箇所に比重の高い木材を使うのは自然な選択だ。例えば弦楽器の指板は、指で擦られたりフレットの打ち込み打ち替えの土台となるため、様々な面での強度が求められる。そこに使われる木材で一般的なのは、比重が1弱〜1超のローズウッドやエボニーという樹種だ。そのローズウッドやエボニーはオーディオだとインシュレーターなどによく利用されている印象だが、これはその重さや密度で制振性を稼ぐ狙いだろう。なお、もちろんヘッドホンやポータブル機器の場合は、重さは装着感や携帯性にも大きく影響する。

●強度全般

ということで「比重」と深く絡む要素だが、「強度全般」も用途に応じたものが必要とされ、木材の選択基準になる。強度「全般」という曖昧な言い方をしたのは、木材の強さにはいろいろあるからだ。強度としてわかりやすいのは「硬さ」だが、他にも「曲げに対する粘り強さ」「弾性の強さ」とか、「経年や気候変化での狂いの少なさ、耐久性」なんてのも強度と言えば強度になる。「ガチガチに硬くて曲がりにくいのだけれどある程度を超える力が加わったときにはバキッと折れやすい」みたいな材もあるので、そういった強度特性全般を踏まえての適材適所が必要なわけだ。

例えばエレクトリックギターやベースのネック材として一般的なメイプル材は、曲げに対する強度が特に高い。金属の弦を強く張るギターやベースにおいてその張力に負けないためにメイプル材というのは実に妥当な選択だ。しかし実は、ギターの世界では曲げに対しても含め、強度が全体的に低めのマホガニー材も、ネックに多用されていたりする。これは音質面も含めて伝統的な理由が大きいようだ。

なお「比重」「強度」は、その木材の「音色」「響き」に直接的に大きく関わる要素でもある。しかし楽器だと「この材を使ったモデルはこういう音に”寄る傾向がある”」程度は言えるだけの情報の蓄積が伝統としてあると思うのだが、オーディオにおいては前述のようにそれが乏しい。なので今回は材質ごとの音の個性については、折々で簡単には触れるが、あまり深く触れたり比べたりはしていない。

次ページ続いて残りの「加工性」「入手性」「外観等」の特性について

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