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ハイレゾ音源からCDリッピングまでの音質を検証

マランツ「HD-DAC1」レビュー(前編):USB-DACとしての実力を山之内 正が聴く

公開日 2014/10/10 10:07 山之内正
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その透明感はもはやハイエンドオーディオの表現領域に迫る

リッピング音源はどうだろう。ウッドベース1本の伴奏でペトラ・マゴーニが歌う「Bach Aire」は録音もとてもシンプルで、僅かなリバーブ以外に特別なエフェクトは使っていない。澄み切った声の感触とピチカートでリズムを刻むベースの関係が自然で、どの音域にも強調感がなく、大きめの音量で聴いてもまったくストレスを感じなかった。

マランツ音質担当の澤田龍一氏からHD-DAC1の製品説明を聞く山之内氏

加藤訓子の『CANTUS』からは「アリーナのために」を聴く。完全な静寂のなか、マリンバの深い響きに乗ってクロタルの澄んだ音が立ち上がる。静寂を破るというより、次なる静けさにつないでいくような密度の高さがあり、無音の世界を豊かな響きで満たしていく。スカスカの空虚ではなく、温かみを感じさせる静かな空間。その違いを精妙に描き分ける本機の能力は期待を大きく上回るもので、ハイエンドシステムのなかに組み込んでも見劣りすることがない。

左よりMUSICA NUDA『Complici』(CDリッピング)、KUNIKO『CANTUS』(192kHz/24bit Linn Records)、The Bill Evans Trio『Waltz For Debby』(192kHz/24bit e-onkyo music)

次に聴いたのはビル・エヴァンストリオのワルツ・フォー・デビー(192kHz/24bit)。ハイレゾならではのピュアなハーモニーと3つの楽器の実在感の高さはこのクラスの水準を大きく超えていると感じた。ピアノの響きの美しさは特に重要な聴きどころで、本機を選ぶ理由の一つになりそうだ。ベースが沈みすぎず、ラファロの自在なプレイでテンションが上がっていく様子が鮮やかに浮かび上がることにも感心した。

ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団の演奏によるショスタコーヴィチを聴く(DSD 2.8MHz)。ステージの一番奥に位置するパーカッションから手前の弦楽器群まで、各楽器が扇型に並ぶパースペクティブが広々としていて、余韻も壁を超えて大きく広がる。左右スピーカーの外側や背後のスペースまで高密度に満たす描写はヘッドホンでは再現できないものだが、本機をUSB-DACとして再生システムに組み込めば、ここまでの表現が可能になるという良い例だ。

左よりMariinsky Orchestra, Valery Gergiev『ショスタコーヴィチ:Symphonies Nos 1 & 15』(2.8MHz DSF e-onkyo music)、塚谷水無子、菅哲也『天上のオルガン〜 』(DSF 5.6MHz e-onkyo music)

ハイレゾ音源との組み合わせで本機のポテンシャルの高さを実感した例として、ミューザ川父Vンフォニーホールで録音されたオルガンの音源も紹介しておこう(『天上のオルガン』、192kHz/24bit)。楽器から出てくる音をダイレクトに伝えつつ、ホールの自然なアコースティックを素直に再現する。そのブレンド具合が絶妙で、しかも一つひとつの音が鮮明な粒立ちを見せ、混濁感がない。この透明感はもはやハイエンドオーディオの表現領域に迫っていると言っていい。

試聴の最後に、HD-DAC1のヘッドホンアンプとしての実力も確認した。次のページではその音質を紹介しよう。

次ページハイエンドヘッドホンの潜在能力を自在に引き出す駆動力

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