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藤岡誠/山之内正/石原俊がそれぞれの観点から実力に迫る

【レビュー】エソテリック「P-02/D-02」の音質を評論家3名が徹底チェック − 開発陣特別対談も!

公開日 2012/01/18 11:00
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ーートランスポートP-02の技術的な特徴は?

加藤 Kシリーズで確立したスピンドルのドライバーの回路だとか、またメカを積んでいるということでシャーシの構造だとか、外装、天板、底板、サイド、フロントと全ての部分でファインチューニングに近いことをかなり綿密にやっていますね。

P-02/D-02ともにシャーシ内部はダブルデッキ(2階建て)構造。こちらはP-02の天板を外したときの様子

P-02の底板をはずしたときの内部構造

町田 シャーシ構造に関しては、Kシリーズの時に新しくしていますので、従来のP-03とかと比べると全く違うものになっています。今、加藤が言ったように、スピンドル専用のアンプ回路を入れて、VRDSのトランスポートのスピンドルのモーターだけを回す専用回路(VS-DD回路)を形成しています。

スピンドルモーターの駆動用にディスクリート・アンプ回路「VS-DD(VRDS Spindle Discrete Driver)」を採用

ターンテーブル自体が結構重いもので、高速で回転するとイナーシャが非常に大きくなります。これに対応するために、モーターも自社製の3相のブラッシュレスモーターというトルクの強いモーターにしています。

モーターはスピンドルの駆動、ストップとか早送りなど色々やると電流の変動が非常に大きいんですね。それに加えてモーター自体がノイズの発生源になっているというところがあり、これをどうしても他のデジタル回路から切り離したいというのが基本的な設計思想になります。モーター自身の波形を調整してやるとモーターの振動やノイズが非常に少なくなるということが分かったんです。

加藤 どれだけ滑らかな回転を作り出せるかということですね。どうしても出来合いのドライバーの回路を使った場合、サーボ制御とのマッチングもあるのですが、波形に角ができて、滑らかさが少し薄れるということで、モーターに対して理想の波形を作り出すというところからやっているのがこの回路です。

町田 3相のブラッシュレスモーターなので、トランジスターが全部で6個でありますけど、これがワンペアずつ3チャンネルを駆動するパワーアンプのようになっていて、その3相をディスクリートでドライブする。波形自体が滑らかになるとモーターの振動も減り、物理的にも電気的にも良い効果が出てくる。これがトランスポートの部分での一番の肝ですね。

P-02の背面端子部。デジタル出力として、マルチch対応したiLINK出力も装備。バランス出力2本によるES-LINK3で広帯域伝送を実現している。そのほか10MHzのクロック入力も用意されている

加藤 あとはクロック系。クロック信号を一番かっちり使いたいので、どれだけ近いところで引き渡すかがポイントです。クロックを生成しているところから使いたいところに対して最短で持って行くというのがこの構造です。

アナログであればL/Rをきっちり分け、デジタルとも分けるということですけれども、これはデジタルのトランスポートなので、どれだけマスタークロックを無駄に引き回さないかというのが音質的に重要なところです。

町田 デジタルプレーヤーのクロックという部分に力を入れて開発していますが、今回特にトランスポート側で力を入れているのが、電源回路を完全にデジタル回路と分けて持っているというところ。電源回路から完全に分かれたクロックジェネレーターをそのまま内蔵するつくりになっています。

電源の電圧やグランド電位の変動でランダムジッターが発生することが分かったので、アイソレーターという素子を使ってクロック回路自体を他の回路から完全にアイソレートしています。

加藤 電源グランドを完全に分離させています。

町田 1台の中に単独のクロックジェネレーターが内蔵で保存されているというイメージ。クロックへのさらなるこだわりがトランスポート側に入っている技術になりますね。

P-02、D-02では、クロック回路を他の回路ブロックから完全に分離するアイソレーテッド・クロックテクノロジーを採用。P-02、D-02それぞれに内蔵するクロックモジュールは、単体発売されている外部マスタークロックジェネレーターに匹敵する造り込みがされているのも特徴だ

ーーそれでは、DACのD-02の特徴を教えてください。

加藤 先ほどの多ビット化というのは、ハイレゾリューション音源の話にも関係があります。さらに進んでくると、実際DSPなどの中で音楽信号を処理する場合には、少なくとも32bit以上のビット数でやっており、48bitで行う場合もあります。そういう高いレートが出てきた時にどこまで対応できるか、というのを考えておいた方いいんじゃないかと考えました。このような仕様にしておけば、今後にも対応できるだろうというのが、ひとつですね。

あとは音が出る機械なので、そういう中でDACとしてエソテリックが打ち出す部分としてクロックの部分をどうしようかと考えました。クオリティを良くするということと、それ以外に微妙に変化する設定ができるようにしてあるので、それを楽しんで頂きたい。

D-02の内部もP-02同様のダブルデッキ(2階建て)構造。こちらは天板をはずしたときの様子

底板をはずしたときの様子

町田 全ての設定を試すと1週間か2週間くらいかかると思います。そういった形でいじれるパラメーターを増やしているというのは、趣味として面白いものでしょう。アナログプレーヤーだとトーンアームを何にするかとか、カートリッジをMMにするかMCにするかとか、そういったものがオーディオをやっていく上で非常に重要な部分かなと思います。

もちろんユーザーが迷わないようにリファレンスの設定はありますけど、これだけ高額な機器を買って頂いた以上は、じっくりと時間をかけ、お好みに合わせて存分に楽しんで頂きたいと思います。フィルターの設定とか、クロックの設定オプションを極力多く入れてあります。

ただ音質に影響のある部分というのはシンプル&ストレートに設計しています。DSPとかいった部分は極力シンプルに作っていますので、機能が多いからといって回路がいっぱい入っているといったことではありません。

加藤 またDACがいっぱい入っていて、いろんな使い方をしています。また、XLR、RCA出力に対してどのようにアナログ的なアンプを使っていくか、それが重要ですね。

今回は2チームに分かれています。いわゆるパラレルバッファー構成ということで、2つのアンプがパラレルに動作しています。この2チームを同相で動かし、加算するとアンバランス出力になります。また逆相で動かし、HOT、COLDとすると、バランス出力となります。

町田 DACの出力のところから、プラス-プラスで出すかプラス-マイナスで出すか。

加藤 この部分をデジタル的に作るとアナログ回路での切り替え回路が非常に少なくすることができます。いかに潔く作り、音楽のエネルギーを後段のクラスAのバッファー回路でしっかり出力するか、というのが今回のテーマですね。

町田 アナログの部分ですので、これが音質に関わってくる重要な部分です。物量を投入して片チャンネル4パラレルのクラスAバッファーアンプをディスクリートで組んでいます。K-01の方はサイズの制限がありますので、半分の規模となる片チャンネル2バッファーアンプになっています。

加藤 マスタークロックの伝送も高品位を重視して、高周波伝送の専用ケーブルを使って伝送したりとか、根本になるところはきちんとしています。伝送用の同軸ケーブルも特注でつくったもの。

あとはエソテリックの最近の製品は内部を見ていただくと、トランスのカバーをしていません。これには、2つの理由があります。1つは、カバーの中にトランスを入れるには、現在のトランスの大きさよりも2廻りほど小さなトランスしか搭載できないということ。

もう1つは、カバーの中にトランスを入れ、固めてしまうと、音が死んでしまうんです。見栄えよりも音を選んでのことです。また、ハイレゾリューション音源に対応して、拡張性も考えています。

町田 フロントディスプレイの右端に黒いスペースがありまして、将来的に入力のオプションを増設した際にLEDが付けられるようになっています。背面にはリザーブドというスペースも残しています。ここはこんな機能が欲しいといったところを調査しながら考えていく部分ですので、具体的にはまだ決まっていないんですが、要望に合わせて拡張したいと考えています。

今回はUSB端子もあり、192kHz/24bitのアシンクロナス伝送にも対応しています。USB基板自体も他の基板とは分けてつけていますので、アップグレードしやすいように設計しています。あとiLINKの端子もつけていて、これによってSACDのマルチチャンネル再生ができるようにしてあります。こちらにD-02を3台使用することで、挑戦して頂きたいですね。

D-02の背面端子部。デジタル入力は、ES-LINK3に対応したバランス端子、RCAが2系統のほか、192kHz/24bitのアシンクロナス伝送に対応したUSB端子、iLINKなど、豊富に装備される。また10MHzのクロック入力や、拡張性を視野に入れた予備端子も用意されている

ーー完成した時の満足度はいかかでしたか?

加藤 常にもっと色んなものを試したいという欲望が出てきます。設計の人間というのは薄情で、作ってしまったら過去の機種になってしまうので、次はどういうことをやったらお客様が喜んでくれるのかなって…。あそこはこうしておいた方が良かったかなとか、それを次の機種でどう高めて行こうかと。技術的な部分で言うと常にアップデートしていっている気持ちでいますね。

町田 今回のモデルは、ある意味ブランドの顔。それで本当に技術者としてトップを目指すように作らなきゃいけないですからね。加藤はそれを本当に楽しんでいる。

加藤 もちろん苦しい時も非常にありますよ(笑)。例えばこういうセパレートの商品って、ハイできました、音が鳴りました、初めて音を聴きました、その時はろくな音じゃない…。ということが多いんですよね。頑張っちゃって、色んな思い入れ、色んな技術的な要素がいっぱい入っていたりすると、逆に収拾がつかなくなって。

一瞬途方にくれてしまうんですが、そこから僕らの仕事が始まるって感じです。この後が、本当の勝負かなと思います。来る日も来る日も何かを変えて音を聴いて…。

ーー最後に企画と開発の立場から読者へのメッセージをお願いします。

町田 とにかく音楽を楽しんで下さい。そのための機器なのです。機器は手段に過ぎませんから、お客様の音楽に対する感動が高まることが、我々として一番望むことです。

加藤 いつまでも男の子でいたいですね。趣味にぐっとのめり込んでいる時は、大人も男の子になれるじゃないですか。私たちはそんな男の子の味方となりたいです。私も男の子ですので、製品を作りながら、のめり込み、楽しんでいます。ぜひ、お客様ものめり込んで、楽しんで頂きたいです。

ーー本日は有難うございました。

今回の対談でも分かるように、P-02/D-02は、これまでの経験と、最先端のテクノロジー、そしてアナログ的な手法が見事に融合することで完成させ、新しい次元の高品位な音を実現した真のハイエンドモデルといえるだろう。音楽を満喫でき、さまざまな楽しみ方もできる、まさにオーディオファイルの心をくすぐるセパレートプレーヤーがここに姿を現したのである。

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