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藤岡誠/山之内正/石原俊がそれぞれの観点から実力に迫る

【レビュー】エソテリック「P-02/D-02」の音質を評論家3名が徹底チェック − 開発陣特別対談も!

公開日 2012/01/18 11:00
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一体型で生まれたアイデアをフルに投入 - 次元の違うモデルの制作を決意


エソテリックがセパレート式ディスクプレーヤーのスーパーハイクラスモデル、「P-02」「D-02」をリリースした。同社は最上級機の「P-01」「D-01」もラインアップしているが、これは一式4筐体で、エクスペリメントモデル的な性格が強い。したがって本ペアは、エソテリックの事実上のトップモデルというポジショニングを背負っているのである。

P-02とD-02

本機の背景にある基礎技術は、連綿と続くエソテリックのディスクプレーヤーの系譜を受け継ぐものだが、わけても昨年リリースした一体型モデルの「K-01」と「K-03」の影響が色濃い。これらを開発する過程で、担当エンジニアたちの脳裏には「あれもやりたい、これもやりたい」という思いが去来していた。しかしながら一体型機に全てのアイデアを盛り込むことはできない。そんなアイデアの数々が、ディスクトランスポートのP-02とDAコンバーターのD-02に込められているのである。

P-02/D-02を開発するにあたって、設計チームはセパレート型の利点を最大限に生かし、一体型とは次元の違うモデルを作ろうと決意した。またK-01/03で評判の良かったミュージカリティの高さをより深化させることも目標となった。これらの課題をクリアするための具体的な方策は、大きく4つに分類することができる。

すなわち、(1)「データ伝送の大容量化」、(2)「時間軸管理の精度向上」、(3)「D/A変換のハイビット領域化」、(4)「許容範囲内での最大の物量投入」である。

こういったデジタル技術におけるグレードアップは、一般人にとって具体性に乏しいのだが、楽器の演奏に置き換えると理解しやすい。

(1)は、古典派の簡潔な作品に馴染んできた奏者がショパンやリストの難曲を弾きこなせるようになるのと似ている。(2)は、テンポの精度の向上と読み替えることが可能だ。(3)は、強弱や音域の拡大と解釈できよう。(4)は、ピアノでいえばフレームやハンマーメカニズムの強化に他ならない。奏者と楽器に以上のような変化が生じると、演奏が良くなるのは自明の理だ。

トランスを8個搭載するなど物量を投入 − 高次元な独自リンク方式も採用


では、技術的な内容を見ていくことにしよう。P-02のトランスポートメカニズムはエソテリックならではのVRDS-NEO。大型の重量級ターンテーブルがディスクを上方から圧着し、常にディスクに対して垂直にレーザーを照射する同社独特のVOSPピックアップが下方からデータ面を読み取る。スピンドルと読み取りメカニズムにはそれぞれ電源トランスが与えられている。

さらにはクロック回路とデジタル回路もそれぞれ専用のトランスを有している。ついでに記しておくと、D-02のデジタル回路、クロック回路、左右のアナログ回路は、それぞれのトランスによって電力を供給されており、システム全体では8基のトランスを擁していることになる。まさに物量投入のかたまりのような構成である。

P-02、D-02では、クロック回路を他の回路ブロックから完全に分離するアイソレーテッド・クロックテクノロジーを採用

P-02、D-02それぞれに内蔵するクロックモジュールは、単体発売されている外部マスタークロックジェネレーターに匹敵する造り込みがされているのも特徴だ

もちろん筐体にも物量が投入されており、その作りは大型のパワーアンプに等しく、大音量時にも不要共振を起こすことはない。

P-02のディスクローディング部は巧妙なシャッターによって保護されており、埃や雑共振の侵入から保護されている。音とは直接関わらないが、このシャッターの上部がライトアップされるデザインは非常に魅力的だ。

P-02にはディスクが入っていることを示すインジケーターランプをフロントに装備。精悍でシャープなディスプレイ周りのデザインにマッチした美しいブルーイルミネーションはトレー、シャッター部の精密な動作をより美しく演出してくれる

回路系にも物量は投入されている。言葉で説明するとあまりにも冗漫になるので詳細は割愛するが、信号経路の最短化と各ブロックの電気的・機械的アイソレートを目指した両機の三次元的な基板レイアウトの美しさは、スイスの超高級時計のムーブメントに勝るとも劣らない。

両機は単体での使用も考慮されているので、さまざまなデジタル入出力を装備している。しかしペアで使用するならば、それぞれ2系統あるXLR端子のバランス接続がお薦めだ。

この接続法でCDを再生する場合、「ES-LINK3」モードを選択すると最大176.4kHz/48bit、「DUAL AES 8Fs」モードだと最大352.8kHz/24bitで信号のやり取りをすることができるのである。SACD再生時はネイティブ信号が伝送される(ちなみにD-02を3台使用し、iLINK接続するとSACDのマルチチャンネル再生ができる)。

また、D-02は32bitのデバイスを複数組み合わせることで35bitの解像度でD/A変換を行っている。これは理論上24bitの2048倍に相当するわけで、波形のイメージ図のグラデーションはアナログに近い。

D-02は、32bitDACデバイスを複数個組み合わせることで、35bitの高解像度でPCM信号をアナログ信号へ変換する『35bitD/Aプロセッシング(特許出願中)』アルゴリズムを採用。ビット階調をより細かくすることでアナログ波形の再現性を高めている。デジタルソースの将来的なハイビット化にも無理なく対応。ES-LINK3で伝送されるデータや、内部演算処理で得られる32bitを越えるハイビットデータの階調を活かし、忠実にアナログ変換を行う。理論上、24bitに比較して256倍の解像度を誇る32bitに対して、35bitは、そのさらに8倍(24bitの2048倍)の驚異的な高解像度を誇る。最終的なアナログ出力信号は、きめ細かく滑らかな質感と高い解像度を両立し、極小レベルの音楽信号まで際立つ表現力を誇ることになる(上はイメージ図)

なお、D-02はUSB入力も装備しており、現段階では192kHz/24bitまでの対応となっている。USB端子の電源/信号は本体からアイソレートされているのでノイズが混入する心配はない。

両機はクロックシンク接続をすることも可能だ。通常のモードでは44.1〜176.4kHzで動作するが、PLLレス・ダイレクトマスタークロックLINKというモードを選択すると、D-02が発生させた22.5792MHzで動作する。さらには外部の精密クロックジェネレーター(たとえば同社のG-0Rb)と接続することもできる。

トランスポートとDAコンバーターをクロックによって同期再生し、ジッターを効果的に低減するクロックシンクは、ESOTERICのコアテクノロジーのひとつ。P-02、D-02は全く新しいシステムを投入。それが『PLLレス・ダイレクトマスタークロックLINK』。D-02の高精度クロックモジュールで生成したデジタルオーディオ出力用の基準クロック=22.5792MHzマスタークロックをストレートにP-02に供給し、P-02内部のPLL回路を経由せずにデジタル出力回路のクロックとして利用するシステム。複雑な回路を経由せず、よりピュアでダイレクトなクロック処理を可能とし、曖昧さの無い正確な音像定位と鮮明な音質の獲得に貢献している


従来のワードクロック(44.1kHz/88.2kHz/176.4kHz)によるワードシンク同期再生や、別売のG-0Rbなどの高精度ルビジウムマスタークロックジェネレーターとの接続も可能

10MHz出力の外部クロックシステムとの接続を可能にする10MHzのマスタークロック入力をP-02、D-02それぞれに備えるなど、ハイクオリティ再生のためのクロック接続のオプションを幅広く利用できるようになっている
D-02のアナログ出力段は、クラスA動作のバッファーアンプを4パラレル接続したものだ(これはK-01の倍に相当する)。デジタル回路には高精度なアッテネーターが組み込まれているので、パワーアンプとダイレクトに接続することもできる。バランス出力は2/3番HOTの切り替えができるので、ケーブルに加工をすることなく、あらゆるアンプとの組み合わせが楽しめる。

想像をはるかに超えた音に茫然 − まさに音楽がそこにある


開発チームにお話を伺った後、両モデルの音を聴かせていただいた。アンプは同社のC-03/A-02、スピーカーはタンノイのキングダムロイヤルである。

今回の試聴風景。アンプにはエソテリックのC-03とA-02、スピーカーにはタンノイのKingdom Royalを組み合わせた

背面の接続状況を確認する石原氏。今回はXLRケーブル2本を使用したES-LINK3で試聴した

一聴、茫然とした、というのが正直な感想である。ES-LINK3モードを選択したのだが、いわゆる音場・音像という概念では説明できない種類の音なのだ。音像と音場の境目がない、とか、音像の輪郭線がない、といった領域をはるかに超えているのである。もしかしたら音場・音像という言葉は、ロービット/ローサンプリングの時代に便宜的に使ったサウンド解説用語だったのではあるまいか。

では、具体的にどういう音なのかというと、音楽がそこにあるのである。もちろん録音ロケーションの状況は伝わってくるのだが、そこに従来のノイズっぽさは感じられない。

ジャズはこれまでになかった表現だ。ミュージシャンの発する音のエネルギーがスピーカーからダイレクトに飛んできて、リスナーの耳元を直撃する。いかに複雑な演奏状況でも和声やリズムが混濁することはなく、それぞれの楽器の音が的確にブレンドされている。

では、ウェルバランスな再生音なのかというと、それは少し違う。リーダーやプロデューサーの意向までが透けて見えるので、その人物が意図した方向にサウンドが引っ張られるのだ。とはいえ、これはなかなかスリリングな感覚である。

ヴォーカルは完璧! それ以上の言葉を筆者は思いつかない。

それぞれアイソレートされた回路ブロックの説明を受ける石原氏。投入された開発ポイントの多さに感心しきりであった

ここまではCDを聴いてきたが、クラシックはエソテリックが復刻したSACDを用いた。

同じベルリン・フィルの演奏で、1959年にカール・ベームが振ったブラームスの交響曲第1番と、カラヤンが1974年に録音したワーグナーの「トリスタン」前奏曲を聴いたのだが、ベルリン・フィルという世界最高のオーケストラの特徴もさることながら、指揮者によるサウンドの差異が鮮明に表現された。この瞬間、私は指揮芸術の秘密を探り当てたような気がした。オーディオ的にも音楽的にも、それほど完成度の高いモデルである。

P-02/D-02の開発に関わったメンバーが揃って記念撮影。その顔にすべてをやりつくした達成感と安堵感がみなぎっていた。写真左から渡辺孝雄 氏、谷嶋敬夫 氏、仙土和弘 氏、加藤徹也 氏、中村 素央未 氏、根岸正生 氏(以上、開発課)、町田裕之 氏(販売部)

<<本機はどんなファンにお薦めできるか?>>
実力に合わせ将来性も見越した構成となっていて
プレーヤーの終着点を探している方に最適である

本機は実質上、セパレート式ディスクプレーヤーの最高級機である。本文には記さなかったが、将来のバージョンアップを見越したつくりになっているので、ソフト環境の変化にも長きにわたって対応することができるはずだ。

USB端子によるネットオーディオへの対応も含めて、このジャンルの製品に求められるあらゆる要素が網羅されている。ディスクプレーヤーの終着点をお探しの方には、ぴったりのモデルである。

また、自らのオーディオの最終地点を模索している方にもお薦めしたい。本文にも記した伝送モードやワードシンク接続モードの他、本機は4種類のデジタルフィルターとデジタルフィルター・オフ・モードを選択することができる。これらの順列組み合わせと伝送ケーブルの選択によって、無限とも言えるほどのサウンド・バリエーションがユーザーに開放されているのだ。

そのオーディオ的・音楽的実力に加えて、この自由さが約束されているのだから、プライスタグの数字は決して大き過ぎない。



【筆者プロフィール】
石原 俊 Shun Ishihara
慶応義塾大学法学部政治学科卒業。音楽評論とオーディオ評論の二つの顔を持ち、オーディオやカメラなどのメカニズムにも造詣が深い。著書に『いい音が聴きたい - 実用以上マニア未満のオーディオ入門』 (岩波アクティブ新書)などがある。


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