<ヘッドフォン祭>「中国国際ヘッドフォン展 in JAPAN」で国外のオーディオ文化を肌で感じる/コンプライ初のイヤーパッド、MEMSイヤーカフも
11月1日に開催された、フジヤエービックが主催のポータブルオーディオ展示会イベント「秋のヘッドフォン祭 2025」。本イベントにて、ほかとは少しばかり毛色の違う出展となったのが「中国電子オーディオ協会」のブース。中国のオーディオ業界団体に所属する、日本で代理店が付いていない7ブランドが来日し、「中国国際ヘッドフォン展 in JAPAN」と題して日本のリスナーが滅多に聴く機会のない製品を展開したのだ。
1メーカー/1ブランドごとではなく、中国のオーディオ団体としての出展というやや珍しい形式になったのは何故か。その背景を説明してくれたのが、カスタムIEMブランド FitEarでおなじみ須山歯研の須山慶太氏。須山歯研は2014年ごろから幾度も中国のオーディオ展示会に出展しており、その縁で今回の取り組みをサポートすることになったそうだ。
中国電子オーディオ協会(CHINA AUDIO INDUSTRY ASSOCIATION, CAIA)は1983年に設立された、現時点で中国全土あわせて400社以上の企業が加盟しているという業界団体。日本でいう公益社団法人のような役目を持ち、業界から政府に対して提言を行ったりもするのだという。
その中国電子オーディオ協会において、ポータブルオーディオ市場の急速な成長にともない「ヘッドホン分科会」が新設されたのが、2017年のこと。中国の一大オーディオコミュニティ erji.net(アルジ・ネット)を母体とする格好で成立したそうだが、このerji.netが立ち上げたイベントこそが、いまでは中国7都市(来年には8都市に拡大予定)をまたいで開催される「中国国際ヘッドフォン展」なのだとか。
ヘッドフォン祭を主催するフジヤエービックは、2019年からヘッドホン分科会との交流を持っていたのだが、コロナ禍により一時中断を余儀なくされていた。2024年末からようやく交流を再開したところ、中国電子オーディオ協会およびヘッドホン分科会の幹部から「中国ポータブルオーディオメーカー有志による『ヘッドフォン祭』への出展」を打診され、この度の出展につながったとのことだ。
今回の出展にあたり来日した、中国電子オーディオ協会 執行副会長 兼 ヘッドホン分科会会長の陳 立新氏は、中国のオーディオを日本のユーザーへもっと知ってもらうと同時に「日本のヘッドホン産業から学ぶために来た」と挨拶する。
「中国のヘッドホン産業は猛スピードで発展してきました。世界のオーディオ製品の約8割は中国で製造しており、それだけでなく中国独自のブランドも続々立ち上がっています。協会としては喜ばしく思っていますが、しかし中国独自のブランドはまだ弱いと考えています。
日本のヘッドホンメーカーは世界のトップクラス、ハイエンドのブランドとして名を連ねています。ですから、今回我々は中国企業をつれてヘッドフォン祭に参加することで、日本のヘッドホン業界の皆さんから勉強するつもりで来ています」
今回のヘッドフォン祭への出展では、30を超える参加希望企業の中から、現在日本国内に代理店が無く、中国電子オーディオ協会が特に自信をもって紹介できるという7ブランドが来日。
中国のオーディオ展示会ではリファレンス機器として用いられるほど名の通った製品や、日本のポータブルオーディオシーンではあまり見られない大口径振動板を搭載したイヤホン/ヘッドホン、インナーイヤー型(イントラコンカ型)イヤホンの数々が集い、「海外のオーディオ文化」を色濃く感じさせた。
「EPZ」は軍事用ヘッドホンの製造から始まり、3Dプリント技術や新素材の導入に意欲的なブランド。1ダイナミック+2BA+2平面ドライバーのハイブリッドイヤホン「P50」などを展示。
「GOLDPLANAR(ゴールドプラナー)」は平面磁界ヘッドホンに特化したブランドで、他社製ヘッドホンのOEM/ODMも手掛けている。ブースでは、28mmという大口径の平面磁界ドライバーを搭載したイヤホン「GL30」や、カーテンのひだのような振動板形状をしたAMTドライバーを搭載する珍しいイヤホン「GL-AMT16」が目に止まった。
「Matrix Audio(マトリクスオーディオ)」は回路などのハードウェアからソフトウェア/アプリまで一貫して開発できる技術力が自慢のブランド。ブースでも、ヘッドホンアンプを兼ねるストリーマー「TS-1」などソフト/ハード両面の技術を感じられる製品を出展した。
「QIGOM(チーガム)」はヘッドホン用ドライバーユニットのOEM事業で培った技術を基盤とするヘッドホンブランド。110mmという特大の平面磁界ドライバーを搭載するヘッドホン「妖聖」を展示した。なお、同社のヘッドホン用ドライバーはFitEarブランドでも採用しているそうだ。
「QLS(Quloos)」は、オーディオプレーヤーやヘッドホンアンプを中心に手掛けるブランド。中国ブランドの中ではHi-Fiオーディオの研究開発にいち早く取り組んできたそうで、デスクトッププレーヤーの「QA390」やDAP「QA360」は中国オーディオ展示会のリファレンス機器としてよく使われるほど業界内からの評価も高いとのこと。
「Temperament(テンペラメント)」は、インナーイヤー型イヤホンを専門に手掛けるブランドで、日本円にして約17万円のチタン筐体モデルから、約6,000円のエントリーモデルまで幅広くラインナップ。平面磁界ドライバーの研究開発も一貫して行う体制を整えているそうで、ハウジングが鈴型の “BELL -鈴- シリーズ ” として展開している。
「DAART(ダート)」は、Hi-Fiオーディオブランド「YULONG AUDIO(ユーロン オーディオ)」から派生したブランド。ベテランミュージシャンの協力を仰ぎ、音質だけでなくスタイリッシュなデザインと手頃な価格も兼ね備えたオーディオ機器を展開しているとのこと。ブースには、ネットワークストリーマーの「D39」とヘッドホン/プリアンプ「A39」が登場した。
中国オーディオ以外にも注目製品は盛りだくさん!国内導入検討中のブランドも
フォーム型イヤーピースの老舗とも言うべきコンプライからは、ついにヘッドホン用の「プレミアムメモリーフォーム・イヤーパッド」が登場した。BOSEのノイズキャンセリングヘッドホン「Quiet Comfort Ultra」用モデルで、11月末に1ペア6,000円ほどで発売予定だ。
イヤーピースと同様の独自のフォーム素材を採用しており、体温で温められると一層柔らかくなる。加えて耳のまわりの凹凸に合わせた立体的な形状になっているため、まさに吸い付くような着け心地を味わえる。
コンプライを使ったことがある方なら、「スポンジのようなフォーム素材なんかでイヤーパッドを作ったりして、汗や皮脂をどんどん吸い込んでしまうのでは……?」と懸念するかもしれないが、そこはご安心を。「スマートスキン」という技術を取り入れることで、表面はコーティングされたかのようにツヤツヤとしている。水分や皮脂を通しにくく、耐久性や寿命も従来のフォーム素材以上になっているそうだ。BOSE用モデルが好評なら、他のヘッドホン用モデルも検討するとのことなので期待したい。
Pentaconnブースでは、金属コア入りイヤーピース “COREIR(コレイル)シリーズ” やPentaconnブランド/slofloブランドのイヤホンとともに、試作品のケーブルが参考出展された。導体は高純度無酸素銅のPCUHDと銀メッキPCUHDを撚り合わせた8芯構造で、鮮やかなブルーの被覆が印象的。コネクターはPentaconn ear、プラグには電気抵抗を徹底的に抑えるダイレクト銀メッキ仕様の4.4mmバランスプラグを採用している。
NUARLは、現在開発中のイヤーカフ型完全ワイヤレスイヤホン「vClip」 を参考出展した。イヤーカフ型はもちろん、一般的なカナル型の完全ワイヤレスでもまだ珍しいダイナミック型とMEMSのハイブリッド構成を採用。中低域を担うダイナミックドライバーは独自開発の10×15mm「NUARL DRIVER」、広域を担うMEMSドライバーはxMEMS社の「Cowell」を搭載している。
開発中ではあるもののすでに試聴できる段階にあり、MEMSのくっきりした高音と豊かに膨らむ低域でメリハリの聴いたサウンドが楽しめた。機能的には、物理ボタンと振動センサーの2通りの操作系を備えるのが特徴的だった。為替の影響次第で大きく変わる可能性も残るが、1 - 2万円ほどの価格で年内に発売したいとのことだった。
ブライトーンブースでは、ZMF headphonesブランドから新たに発売したばかりの “セミポータブル” の開放型ヘッドホン「Bokeh Open」(約19.2万円)が展示。セミオープン型モデル「Bokeh」をベースに、同ブランドの技術とサウンドを携帯しやすく、ポータブル機器や小型アンプでも再生しやすくコンパクトにまとめた開放型モデルとなっている。
これに加え、取り扱い検討中の新ブランド Luxsinから、DAC内蔵ヘッドホンアンプ「X9」をお披露目した。Luxsinは、すでに同社が取り扱っているEversoloブランドと同じZidooグループに属するヘッドホンアンプブランドだそうで、さまざまな先進機能を製品に搭載している。
今回参考出展したX9も、HDMI ARCを含む多彩な入出力、R-2R方式の高精度なボリューム回路、接続したヘッドホンのインピーダンスに応じてゲインを自動で最適化するスマートチェック機能が搭載。現在の為替では、日本円にして40 - 50万円ほどのモデルになるという。今回の出展のフィードバックも踏まえて、取り扱いを考えるそうだ。
ピクセルブースでは、10月31日に正式発表されたMADOOの新イヤホン「Typ930」(約38.8万円)がさっそく登場。試聴は整理券方式で行われたが、昼ごろには配り終えてしまう盛況ぶりだったようだ。
ブランド独自の平面磁界ドライバー「Ortho」を大型化し、さらに背面にパッシブラジエーターを装備した「Ortho Dual Motion」を搭載。これに超高域用のスパウトレス構造のBAドライバーを加えたハイブリッド構成で、空間の広がりや音との距離感に焦点を当ててチューニングしているという。
ミックスウェーブでは、Campfire Audioから「Andromeda 10 SE」を参考出展した。Campfire Audioの “Andromedaシリーズ” といえば、鮮やかなエメラルドグリーンのハウジングが印象的なマルチBAイヤホンだが、今回展示されたAndromeda 10 SEはブランド10周年記念を兼ねたスペシャルエディションとのことで、外装は特別仕様。つややかなステンレスシェルと縞のある金のフェイスプレートで飾られている。ドライバーユニットは片耳あたり10基のBAを搭載。
また、米ハイエンドヘッドホンブランド・ABYSSの製品が同社ブースにて参考展示。ABYSSはすでに国内で流通しているブランドだが、新たにミックスウェーブが代理店となることが検討されているそうだ。ブースには、いずれも自社開発の大型平面磁界ドライバーや、上質な金属/皮革素材が奢られた3モデル、「AB1266 TC」「Diana MR」「JOAL」が展示された。



