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「情」と「意」をあわせもつ良作 − 『愛を読むひと』の魅力を引き出すテレビとは

公開日 2010/02/03 18:46 大橋伸太郎
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■「情」と「意」を併せ持つ力強い作品

私はあいにく映画館で『愛を読むひと』を見逃し、最初に自宅プロジェクター+スクリーンで、次に日立「P50-XP035」で見たが、二度目で実に多くのことを考えさせられた。

筆者宅のレファレンスディスプレイとして活躍中の「P50-XP035」

次に、私にとってSさんの思い出は過去のものだったが、Sさんばかりでなく、戦場での体験を語って聞かせてくれたすでにこの世を去った幾人もの人たちの苦しげな顔が浮かんできた。『愛を読むひと』は国境を越えて戦争と個人の関係について普遍的に私たちに訴える。強い意志が映画の背後に見える。同時に痛ましく苦いラブストーリーである。

つまり、「情」と「意」を併せ持つ力強い作品だから、どのようなディスプレイ(テレビ)で見ても本作の中核は伝わるのだが、確かな映像表現力を備えたディスプレイで見るほど、一つ一つのシーンに込められた哀しみやそこに射す歴史の影が伝わってくる。もし、本作をすでにご覧になってあまり印象に残らなかったなら、発売されたばかりのブルーレイディスクを「P50-XP035」でもう一度ご覧になってほしい。心の琴線に触れるものが今度こそあるはずだ。

私は映画のあらすじを書くことが嫌いで、読者ご自身が見て初めて知ってほしいので、今回も最低限にとどめておくが、終戦から十年が経った1955年の春、西ベルリンの中流家庭の少年マイケルが、路面電車の女車掌ハンナに急病を救われ、歳の離れた二人はそのまま恋仲になる。

奇妙なことに、ハンナは情事の前にマイケルに本を読んで聞かせるようにせがむ。二人の関係はその年の夏中続いたが、ある日、彼女は何も言い残さず少年の前から姿を消す。マイケルが法科大学に進んだ十年後、思いも寄らぬ再会を果たす。ゼミの教授に引率されて傍聴した戦犯裁判の被告人席に彼女がいたのである。アウシュビッツの冷酷な女看守として多くのユダヤ人を死に追いやった罪が、終戦から二十年経って裁かれようとしていた。

アウシュビッツのユダヤ人虐殺について書いた『夜と霧』という名著がある。書物によると、ナチスはアウシュビッツの看守をドイツ中の下層階級から集めて囚人の管理をさせた。

Sさんにその話をしたことがあって、すると「それは満州の中国人収容所だって同じだよ。世の中に怨みを抱いている奴ほど残酷だし、権力にとって操りやすいからね」と彼が答えたことを覚えている。映画ではハンナもそうした下層階級の女の一人と設定されている。少年はハンナの人に知られたくない秘密を知っていた。一度はハンナに有利な証言をしようと考えるが、ショックをきっかけに彼の中に生まれつつある何かが邪魔して出来ない。ハンナは罪状を認めて無期懲役刑に服し、少年は刑務所での面会を決意するがやはりそれも出来ない。代わりに、二人の間にかつての「朗読」が刑務所の塀を越えてテープで蘇る。そうして、二十年の月日が経っていった。

マイケル少年の成長した姿であるバーグ弁護士は、かつての情人が一身に引き受けた罰が重過ぎて人間として苦しむ。しかし、「無知」なハンナが犯した罪の恐ろしさに慄然とし、許しは決して与えられないことを悟る。彼に目を開かせたのが法学教授ロールであった。一方のハンナは自分を心身共に知るバーグなら許しを与えてくれるものと信じ続けた。この断層が第二の悲劇を生む。

映画はさらに戦争の最大の被害者であり、母と共にアウシュビッツから生還したユダヤ人女性マーサーを最後に登場させる。マンハッタンの高級アパートで裕福な生活を送る彼女を訪ねたバーグ弁護士に冷たく言う。「無知が言い訳になると考えているの?」

彼女と同胞の中で、ナチスの犯罪はたとえ百年が経とうとも情状酌量することはできない。映画は、バーグ弁護士がずっと離れて暮らしてきた娘に、その成長をきっかけにハンナの思い出を語り始めて終わる。

ハンナの犯した罪をどう考えるかは観客に委ねられている。しかし、罪は実在する。愛がそれを雲散霧消などしない。数百万人が死んだのだから。人間の過ちは冷厳に伝承されなければならない。本作には甘さがない。メロドラマに堕さない「強い意志」はそこにある。しかし、ひと夏の間愛し合った一組の男と女の記憶が一方で生き続ける。それが本作を優れた映画(人間の感情と行動を描く芸術)の一本にしているのである。

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