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TAD、“進化より深化”を目指した新フラグシップ「TAD-R1TX」。天童木工とエンクロージャーを共同開発

公開日 2019/06/28 20:09 編集部:押野 由宇
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不可能だと考えていたことを実現、フラグシップにふさわしい仕上げに

発表会では冒頭、同社 代表取締役社長の永畑 純氏が挨拶に立ち、ブランドの歴史について紹介。「1937年にパイオニアが日本初のダイナミックスピーカーを開発し、ここから歴史が始まった。それをTADも受け継いでいる」と述べた。

永畑 純氏

TADは1975年にプロジェクトが発足し、民生用のTADLは2007年に設立し「TAD Reference One」をリリース。2012年にはその第二世代となる「TAD-R1MK2」が発表されたが、今回の「TAD-R1TX」は、そのフラグシップを7年ぶりにモデルチェンジした同シリーズ最新機だ。永畑氏からはブランドのシリーズ展開について「Evolutionは昨年『TAD-E1TX』などを発表したが、今年はReferenceの強化を図っていく」と語られた。

TAD-E1TXの特徴として、天童木工との初コラボレーションで共同制作されたエンクロージャーが挙げられた。「皇族や各官庁への家具の納品でも知られる」など技術力の高さに触れ、その匠の技術を取り入れることで、SILENTエンクロージャーはさらに強固なものに進化したという。

開発を担当した長谷 徹氏によれば、エンクロージャーは「形状の見直しから行った」としており、その方向性としては「進化より深化を目指した」という。MK2での音場の広がりに加え、TXでは3次元的な音場表現を高めることを目標とし、ブランドのサウンドコンセプトでもある「音像と音場の高次元での両立をさらに推し進めた。

長谷 徹氏

天面部に大きなアールを設けることで二次音源の発生を抑制する、ヘッド部の形状変更によって体積を減らすようにモディファイするなど、「実はRreference1の開発当初にやりたかったこと。これが天童木工の高い技術によって実現した。天童木工とは10年前から開発について話をしてきたが、それがようやく実った」としており、今回の共同制作が大きな成果につながったことを明かした。

バッフルやヘッド形状などの見直しが図られた

エンクロージャーの内部構造として、骨組みはバーチで強固に作りつつ、若干やわらかいMDFで周りをダンプすることで鳴かないような構造を採られているが、そこでも極めて高い工作精度により制振効果を向上。また天然木ポメラサペリの突き板を用いた仕上げには、全30の塗装工程が時間をかけて行われているなど、天童木工が「不可能だと考えていたことをその技術で可能にしてくれた」という。

ポメラサペリの美しいカラーバリエーションも高い技術力により実現している

ユニットでは、継続してCSTドライバーを搭載。広帯域幅にわたり駆動ユニットの位相と指向性をコントロールした同軸ユニットとなるが、そのメリットとして音源位置を合わせられることで位相・指向特性にみだれがないことが挙げられた。

一方、ウーファーは低域の微小レベルの応答性向上と、低域特性のさらなる最適化が図られた。Reference Oneで開発されたものがベースとなるが、そもそもが20Hzで90dBを再生できるよう設計されたものとなっており、実際の使用においてはそこまで振れていることがほぼないということから、今回その振幅を削ってでも実使用におけるリニアリティを高めることを目指し手を入れたという。

これまでのサスペンションに対し、ダンパーを変更。また磁気回路も変更し、駆動力を4%向上させた。さらに、ボイスコイルの接着において、接着層を介さず、ボイスコイルがコーンをダイレクトに駆動するように接着しており、ショートボイスコイルでありながら強度を保つことにも成功している。

ボイスコイルの補強材料などにも手を入れ、1グラムの軽量化に成功するなど、細部まで徹底的にこだわった

そしてネットワークフィルターについて、MK2が意識的に位相をずらしてエネルギーを増す方向で作られていたのに対し、今回は位相を近づけて、音場表現を高める方向を目指したといい、クロスオーバー以下のミッドレンジの振幅を抑え、150Hz〜500Hzで-6dBほど歪みを改善したとのことだ。

発表会ではTAD-R1TXのサウンドも確認できたので、簡単にその印象に触れておきたい。なお、その再生システムとして、「TAD-M600」の後継にあたるアンプが用いられた。TAD-M600はモノラルアンプだったが、後継モデルはステレオとモノラルの2モデルをラインナップ予定であるという。

男性ボーカル、女性ボーカルともに、誇張されていない生々しく深みのある声が響き、子音まではっきりと聴き取ることができる。電気的な介入を感じさせないようなナチュラルなサウンド。眼の前の生演奏を聴くのに対しては、録音されたメディアである以上、制作過程で失われた成分があるはずだ。しかし、収録されたすべてを引き出すことができれば、その欠落を意識することはなくなるのだと、その圧倒的な情報量が教えてくれるように感じた。

多数の弦楽器が空気を震わせるエネルギーも、余裕を持って再現。一方で、弓が弦から離れる際のわずかな音も埋もれることなく再生してくれる。これは試聴したのが優秀な録音盤ということも関係しているだろう。言い換えれば、音源の良し悪しも暴き出してしまうほどに高次元な再現性能を有している。

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