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【特別企画】フラグシップと比較される中級機

「入魂の中級機」がデノンの矜恃。110周年記念SACD/プリメイン/カートリッジ開発者に聞いたこだわり

公開日 2020/11/24 06:30 大橋伸太郎
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●DCD-A110

SACD/CDプレーヤー「DCD-A110」:¥280,000

ミドルクラス帯で入魂の製品を作ることに、デノンの110周年らしい意義がある

――それでは、SACD/CDプレーヤー「DCD-A110」について伺いましょう。デノンは1972年に世界初の業務用PCMレコーダー「DN-023R」を開発し、レコードに引き続きNHK-FM放送とデジタル録音の扉を開きました。1975年にはDENONレーベルを創立し、1981年に業務用CDプレーヤー「DN-3000F」を開発、翌年に民生機「DCD-2000」を発売。光学ディスクの実用化と普及に大きな役割を果たしました。

今回のDCD-A110、そしてベースとなった「DCD-2500NE」はUSB入力を持たないディスク専用機です。ストリーミング全盛、さらにクラウド化の進展でディスクの時代が終わったという論調があり、ディスクメディアをオーディオにこれからどう位置付けるかが問われている今、DCD-A110にはディスクメディアについての現在から未来へのメッセージがあるように思われるのですが。


Product Engneering Core Business 3 飯原 弘樹氏(以下、飯原):音楽をネット上でダウンロードし、自分でアルバムやプレイリストを作るのが一般的な中で、ディスクを入れ替えてジャケットを触って眺めながら、どういう曲がどういう順で並んで一つの世界を構成しているかを楽しむ、いわば儀式に似た行為が音楽を聴く上で見直されるのではないかと思います。レコード復権のムーブメントも同じ流れなのではないでしょうか。

そういった、クリエイターが構成したひとつの世界を楽しむことは、今もこれからも変わらないと思います。アニバーサリーにあたり、改めてディスク再生に本気で向き合うために、「優れたディスクプレーヤーを送り出すのはデノンの使命である」ということが、光学ディスクの歴史を見てきた我々の考えです。

DCD-A110開発メンバーで、D/Aコンバーター開発の中心人物でもある飯原 弘樹氏

――最上位の「DCD-SX1 LIMITED」でなく、ミドルクラスのDCD-2500NEをベースモデルに選んだ理由は?

飯原:“1000番台”“2000番台”のミドルクラスの製品こそが、多くのお客様に楽しんでいただいているデノンのディスクプレーヤーの中核、いや、このクラスがあるからデノンがあるといっていいほど大事な存在です。だからこそ、この価格帯でモデルを作ることに意味があると考えたのです。フラグシップではなく、“ちょっと背伸びをすれば買える価格帯”で特別な入魂の製品を作ってこそ、デノンの110年らしい意義があると思います。

――DCD-A110の内容面で特徴的なのが、デノンが1993年から営々と続けてきたアナログ波形再現技術「AL Processing」の最新バージョン「Ultra AL32 Processinng」です。こちらは一体どういったものでしょうか。

最新のアナログ波形再現技術「Ultra AL32 Processinng」では、従来モデルの2倍となる1.536MHzのアップサンプリングを実現

飯原:今回の「Ultra AL32 Processinng」では、補間処理帯が倍加されています。例えば48kHz系の信号の場合、アップサンプリング後の周波数は1.536MHzになります。DCD-2500NE搭載の「Advanced AL32 Processing Plus」の768kHzに対して倍の値です。
これはシンプルに、デノン独自の補間技術によって、飛び飛びのデジタル的な波形が原音の連続したアナログ波形へ、より近付いたものと考えて下さい。

次に、動特性とは時間軸で振幅や周波数がダイナミックに変化するような条件の特性を指すもので、それに対して静特性は、S/NやTHD+N特性(高調波歪)やダイナミックレンジといった、振幅や周波数などの条件を固定したときの数値で規定できる特性を指します。

デノンの音作りは常に試聴をベースにして進めています。今回の「Ultra AL32 Processinng」の開発でも、様々なパラメーターはサウンドマスターの山内による試聴で決定していきました。聴感評価による良い音の追求は、つまり人間が好むような動特性の改善に他ならないのですが、一般的に試聴の評価を優先した結果、静特性を犠牲にすることはよく起きると思います。

しかし、今回アニバーサリーモデルを作るにあたり山内と音質を突き詰めていくと、山内のイメージする音質がこの静特性と深い相関性がありました。静特性の改善がすなわち純粋に音質の改善につながったので、そういったアプローチでも色々と手が入っています。

あえてDACチップにPCM1795を使い続ける理由は?

――CDプレーヤーの音質を左右するのがDACです。テキサスインスツルメンツ(TI)の2回路構成のDAC「PCM1795」を1チャンネルあたり2個、合計4基使用するクアッドDAC構成を新たに採用しました。DCD-2500NEと同じDACですが、使い方が異なります。贅沢な使用法ですね。

飯原:DCD-SX1 LIMITEDと比べた場合も1チャンネルで並列化した数が倍増しています。PCM1795の特徴は、エネルギー感があることです。最初のプロトタイプを山内と試聴していくうちに発見したのですが、このチップを並列化することでデノンの求める音の力強さがより鮮明に出てきます。並列化で静特性が向上するだけでなく、音空間が精密になることもわかりました。

DACチップ単体だとL/Rの差やチップ自体のばらつきが音に出ますが、今回4基のDACを並列化したことで微細な差が平均化されて、L/Rのレベル差や歪みの現れ方が是正されて音の特性がきれいに揃う、つまりは音空間が精密に再現されます。PMAの「UHC-MOSシングルプッシュプル」とは真逆の方針ですが、小信号を扱うDACの場合、並列化のメリットがそこに現れるのです。

DCD-A110の背面図。オーディオアウトとIRコントロール端子のみ搭載と、まさに“CD再生専用機”となっている

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