HOME > インタビュー > 記事

インタビュー

【特別企画】フラグシップと比較される中級機

「入魂の中級機」がデノンの矜恃。110周年記念SACD/プリメイン/カートリッジ開発者に聞いたこだわり

大橋伸太郎

前のページ 1 2 3 4 5 6 次のページ

2020年11月24日
2020年は多難な年だったが、オーディオ製品の販売はすこぶる堅調だという。単に自宅で音楽を聴いて過ごす時間が増えたというだけではない。それまでの喧噪に満ちた毎日の中で、音楽にも効率や手軽さばかりを求め、現代人の多くがいつのまにか、音色や響きへ虚心に耳を傾けることを忘れていたのではないだろうか。

聴く、は人間の五感の中で最も鋭敏である。コロナ禍の自粛要請がもたらした静まりかえった日常にあって、美しい音で聴く音楽が心に沁み入って平安をもたらすことに人々が気付いたのである。

そうしたさなか、デノンから110周年アニバーサリー製品が発売された。現在の同社のルーツのひとつ、日本コロムビア株式会社創立から今年で110年となることを記念したプロジェクトで、ラインナップはSACDプレーヤー「DCD-A110」、プリメインアンプ「PMA-A110」、AVアンプ「AVC-A110」、そしてカートリッジ「DL-A110」の4製品である。

AVC-A110は別にして、ピュアオーディオ製品はいずれも高額なサミットモデルでなく、ミドルクラスの製品がベースであることに注目したい。マニアを釘付けにして、オーディオジャーナリズムを席巻するサミットモデルだって作れたはずだ。しかし、デノンはあえてそれをしなかった。

民生機に進出して50年。いつの時代もユーザーに寄り添い、健全なオーディオホビーの文化を作り上げてきた、日本で最も歴史あるオーディオメーカーの矜持と真骨頂をそこにみる。

今回はファイルウェブのスペシャルコンテンツとして、110周年アニバーサリーのオーディオ製品を設計した3名の技術者たちにリモート形式でご参集していただき、各製品に搭載された最新技術とそれぞれの思いのたけを語っていただいた。

●DL-A110

フォノカートリッジ「DL-A110」:¥62,000(税抜、以下同)

現代に至るまで“標準”のカートリッジ。そのオリジンを体験してほしい

――Hi-Fiの110周年アニバーサリーモデルは高額なサミットモデルでなく、ミドルクラスをベースにしたことで共通しています。フォノカートリッジ「DL-A110」は50年前にNHKに納品した「DL-103」の原器そのものを再現していますが、ロングセラーDL-103は内部配線材を変えるなどしたバリエーションモデルも過去に多く出ており、高価なパーツを使った高額なスペシャルエディションも容易に作れたはずです。あえてそれをしなかったのはなぜでしょう?

GPD Engineering Special project Senior Manager 岡芹 亮氏(以下、岡芹):カートリッジの中でいまやDL-103は安価な部類にあります。デノンのカートリッジのあり方、ポジションは、元来スーパーハイエンドでありません。元々業務用途から生まれた出自もあって、趣味性を究めるというより、ステレオLP再生のリファレンスをリーズナブルなコストで提供する製品なのです。

今回、DL-103をベースに110周年記念を製品化するにあたり、DL-103を普段お使いの方にオリジンがどういうものかを体験していただきたかったのです。スーパーハイエンドでなく、レコード再生の入門でもあり、現代にあっても再生の標準のカートリッジとしてDL-A110を企画しました。

DL-A110開発の中心人物である岡芹 亮氏

――レギュラーモデルのDL-103との違いはヘッドシェル付であることですが、元来NHKに納品していたモデルはヘッドシェル一体型だったと伺いました。これは振動系にまつわる等価質量調整を不要にして、再生音質を常に一定にする狙いですね?

岡芹:はい、アナログの振動系というものは、本来はトーンアームまで含めて一緒に語るべき問題です。当時のNHKのターンテーブルのトーンアームはNHK技研の協力により、仕様書に基づきデノンが設計し製造・納品したものです。DL-103しか付かない専用トーンアームで有効長282mm(12インチ)のJ字型、カウンターウェイト調整もなければ、一般民生機のアンチスケーティング機構も、ラテラルバランス等の補正も付いていませんでした。

ピックアップ部(DL-103)はヘッドシェル一体型で、それを再現したのが今回のDL-A110です。ボディの塗色は違いますが、質量等もNHK仕様として作られた、まさにそのものです。

ロングセラー機だからこそ、大元にこだわってみる

前のページ 1 2 3 4 5 6 次のページ

関連記事