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【特別企画】フラグシップと比較される中級機

「入魂の中級機」がデノンの矜恃。110周年記念SACD/プリメイン/カートリッジ開発者に聞いたこだわり

公開日 2020/11/24 06:30 大橋伸太郎
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フラグシップに肉薄するサウンド。フォノイコもこだわり仕様

――デノンのプリアンプ、プリメインアンプの特徴の一つが、フォノイコライザーの音質のよさです。私もかつて「PRA-2000ZR」というプリアンプを長く愛用していました。フォノイコの音質が抜群によかったのです。

新井:私は今でも使っていますけどね(一同笑)。

――1980年代当時は現在のように独立したフォノイコライザーはなく、プリアンプの一部分でありアンプの音質の決め手でした。今回のA110は、フォノイコの音質にもこだわったようですね。

新井:SX1 LIMITEDやSX11についてはCR型イコライザーを搭載しましたが、2500はNF型でした。一般的なNF型はアンプの低域でフィードバックを減らし高域で増やすため、周波数によってフィードバック量が異なり、それが聴感上で緊張感や圧迫感を感じさせることがあります。対してCR型のアンプ部分では低域から高域までフィードバック量が一定なため、素直で伸びやかな音質が得られやすいのですが、コンデンサと抵抗だけで構成するシンプルな方式ゆえ、構成部品の品位が問われます。

PMA-A110は、アナログリバイバルの真っ只中に発売される記念モデルなので、あえてCR型を採用しました。ただし、SX1 LIMITED、SX11はMM/MC型カートリッジ別の専用ヘッドアンプを持つ独立回路構成ですが、今回はそこまでは出来ず、ヘッドアンプのゲインを切り替えることでMM/MCに対応しています。

――CDプレーヤーのDCD-A110があえて持たないUSB入力が、本機には搭載されています。システムとしての考え方についてお話ください。

新井:音楽をディスクでなくデータで購入して聴く方が増えているのは事実であり、そうした聴き方にはプレーヤーでなくアンプの方が対応するのが正道に思えます。そういう理由から本機の方にUSB対応のD/Aコンバーターを搭載しました。

PMA-A110の背面図。DCD-A110には搭載されなかったデジタル系統の入力端子を装備している

――スピーカーターミナルやフット、トップカバーのパーツ、リレースイッチの材質までこだわり、SX1 LIMITED同等の部品が投入されています。その分音質の大きな差分が生まれたのですね。

新井:SX1 LIMITEDは出力こそ小さいですが、スピーカーを駆動する能力が高く支配力のあるアンプです。そこに大分近づけたのではと思っています。

――私も日進町のD&Mホールディングスで、DCD-A110とPMA-A110の組み合わせでCD/SACDソースを聴きました。デノンらしい鮮度とエネルギーに加え、骨太で晴れ晴れとさわやかな音調が加わり感銘を受けました。ぜひシステムで聴いていただきたい製品です。

「今後の10年に繋がる技術」の意味するものとは

――さて、今回の110周年アニバーサリーは次の10年につながる技術がふんだんに投入された、チャレンジングな製品だと聞きました。ここまで伺った技術要素がこれからデノンのオーディオコンポーネントに順次採用されていくのですね。

今回の110周年モデルで培われた技術は、今後のデノン製品に採用されていくという

新井:今回、フルサイズのプリメインで初めて電子ボリュームを採用しました。同じグレードのパーツや回路が使えるかは分かりませんが、A110で開発した回路が今後の基準になっていくと思います。

飯原:プレーヤーも次の10年を見据えてデジタルの処理に関して大幅なアップデートを果たしています。私はDCD-A110を到達点でなく一つの通過点と考えています。Ultra AL32の演算部は外部からは見えませんがフィルターの特性を切り替えできたり、処理の規模に関しても仕様に応じて色々と対応できる柔軟なコンセプトで設計されており、今後10年のデノンの音作りの根幹をなす技術のひとつになるでしょう。

――Ultra AL32 Processinngも、これから上位機種に搭載されていくのでしょうか。

飯原:従来のAdvanced AL32 Processing Plusと比べ、ソフトウェアのチップの値段だけみてもコストがかかりますので、搭載製品についてラインナップのどこで線引きするのかは議論の最中です。

――Ultra AL32 Processinngでは前モデルの2倍という1.536MHzのアップサンプリング周波数を実現しましたが、近い将来にはさらに倍の数値の実現もあり得るのでしょうか。

飯原:あり得ます。今の時点では1.536MHzですが、世の中のアナログ信号を生成できるデバイスの動作速度はもっと上なので、後段のチップ次第では発展するでしょう。今のTIのデバイスに合わせた結果が2倍なのです。

国内営業本部 営業企画室 田中清崇氏(以下:田中):我々デノンは技術者の集団なので、常に技術は進歩していきます。大いに期待して下さい。

――さて、コロナ禍で試聴会も開きにくく、エンドユーザーやオーディオファンに直接音をお聴かせする機会が少ないのがもどかしいのでは?

田中:そうですね。コロナ禍で試聴会が出来ない反面、発売前から全国の販売店様にご試聴いただいていますが、すこぶる高い評価を頂戴しております。特にDCD/PMA-A110などは、比較対象がベースになった2500NEでなくフラグシップのSX-1 LIMITEDであることが、本機の位置付けと性能をはからずも語っているのではないでしょうか。「SX-1 LIMITEDより45万円も安いのに、デノンの今の音作りがはっきりと現れているね」というお声をいただいています。

――フラグシップに迫るミドルクラス誕生、かもしれません。

田中:前回の100周年記念モデルの時は台数限定でしたが、発売時点で完売してしまい、手にすることが出来なかったユーザーの方がいらっしゃったことを踏まえ、今回はあえて生産台数や販売期間の限定はしていません。しかし、レギュラーモデルのように5-6年に渡って販売を続けることは想定していません。あくまで記念モデルとしての位置付けです。試聴会解禁のあかつきには、開発に関わった者全員、いえ、デノン全社でご来場をお待ちいたします。




100万円を越えるコンポーネンツが続々登場するなか、一見するとデノンの110周年記念製品群はいささか地味である。しかし、十分な準備の時間をかけて新技術の仕込みを行い、その中身が濃密であることが分かった。ICチップを固定するネジの材質まで吟味して交換する、妥協というものを知らない一途で愚直な音質探求に迫力さえ感じる。

思えばデノンというブランドは、いつの時期もオーディオファンに寄り添いつつ、地に脚をつけ歩み続けたひたむきなオーディオの探求者だった。この地道で着実な足取りがあればこそ、110年のアニバーサリーを迎えることができたのだ。デノンの旅はこれからも続く。

(協力:D&Mホールディングス)

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