HOME > インタビュー > 「入魂の中級機」がデノンの矜恃。110周年記念SACD/プリメイン/カートリッジ開発者に聞いたこだわり

【特別企画】フラグシップと比較される中級機

「入魂の中級機」がデノンの矜恃。110周年記念SACD/プリメイン/カートリッジ開発者に聞いたこだわり

公開日 2020/11/24 06:30 大橋伸太郎
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

ロングセラー機だからこそ「大元」にこだわってみる

――それまでのカートリッジは金属製ケースが多かったのに対し、DL-103は樹脂製であることが特徴でした。

岡芹:設計した先輩たちの話では、金属製ケースは共振で鳴くことがあるため、NHK技研と社内で音質研究を繰り返した結果、色付きのない音にするために樹脂の方が好結果だったそうです。

それだけでなく、出力電圧を一定に得るためにアルニコ磁気回路を使うのですが、フェライトに比べ保持力が少ないため、パーミナンスを上げるために磁気回路が重くなりがちです。これは等価質量を一定にする上では不利なので、ヘッドシェルを含めたF0(最低共振周波数)を決める等価質量を一定以下に維持するため、カートリッジ全体を軽くしないといけなかったというのも、樹脂を採用した背景でした。

――ケースに採用するABS樹脂は、DL-103誕生の10年前の1954年に製品化されたばかりの素材で、薄肉でも剛性に優れた特徴があり、採用以来変わりありません。今回のDL-A110の中身は素のDL-103そのものとのことですが、ヘッドシェル一体化により最適化され、音質上の伸びしろがあるようにも思えます。

岡芹:そうですね、サウンドマスターの山内をはじめ、「定番のDL-103の情報量が増え明るい音色になった」という声を聞いています。FM放送の現場の音の入り口として誕生し、70-80年代と、多くの世代が同じ音色を聴いたカートリッジです。スタンダードの音色が今も通用しているのも驚異的ですが、当時のスタジオの音を再現できるのがDL-A110です。

D&Mに展示されている初代DL-103と専用トーンアーム「DA-302」

――レコード全盛時代の一般リスナーの間ではMM型がずっと主流でしたが、MC型隆盛への流れを作ったのが、まさにDL-103でした。私も20代初めの大学生の頃に初めてDL-103を手にして、セパレーションの良さに驚愕したのを覚えています。ステレオ録音はこれだけ鮮明に分離するのか、ああ、ここまで細やかに音が解きほぐされるのか、と。

何万、何十万人の鮮烈な音の原体験を作ったDL-103ですが、私もまさにその一人。アニバーサリーモデルでオリジナルの形態になり、DL-103の音の本質に迫ることができるのは素晴しいことと思います。


岡芹:DL-103はロングセラーの定番である分、これまでにもマニアの方がカバーを変えて音質チューニングしたりと、さまざまな音質上の提案が生まれてきました。それを否定するつもりはありません。しかしこれだけ長い寿命の製品です。逆転の発想でDL-103の大元にこだわってみよう、というのが今回のDL-A110の着想です。

――ひとつ意外に思ったことがあります。CD全盛の80年代にあっても、デノンは一度も中断することもなくアナログプレーヤーを製造し続けました。デノンがアナログ再生の孤塁を守ったから、現在のアナログリバイバルがあるのです。それならば110周年記念のアナログプレーヤーが企画されてよさそうなものではありませんか。もしかして110周年と別に大きなプロジェクトがあるのでは、と勘ぐってしまいました(笑)。

岡芹:いえいえ、アナログプレーヤーまで手が回らなかったのです(笑)。アイデアはあったものの110周年のタイミングでは実現に至りませんでした。

――では、アナログプレーヤーは次の楽しみとしましょう。いたずらに高額品に向かわず、草の根的にエンドユーザーに寄り添うのがデノンです。そうした健全な姿勢があればこそ、声なき声の支持を集め、110周年というアニバーサリーを迎えられたのだと思います。岡芹さん、ありがとうございました。

業務用だった初代機と同様に、専用の革ケースに収められている

次ページ続いてSACD/CDプレーヤー「DCD-A110」インタビュー

前へ 1 2 3 4 5 6 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE