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開発陣にインタビュー

「すべてやり切った」。パナソニック渾身の最上位プレーヤー「UB9000(Japan Limited)」はこうして生まれた

公開日 2018/12/08 07:00 インタビュー・構成:秋山 真
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甲野 例えばピーク輝度が1,000nitの有機ELテレビの場合、メタデータが示す輝度ピークが1,000nitであれば、基本的には1,000nitまでの範囲をリニアな明るさで表示しようとするはずです。なので、仮にUHD BDに収録されたメタデータのピーク輝度が4,000nitであっても、UB9000側の高精度演算で1,000nit上限にトーンマップして、さらにメタデータも同じく1,000nitと書き換えてあげれば、トーンマップの二重掛けが防げると考えたのです。

信野 しかし理論上は問題なくても、これまでに前例の無い方法ですので、各社のテレビを集めて慎重に動作検証を行いました。数が多すぎて、研究室の中にテレビをドミノ状に並べて作業していましたね(笑)。

甲野 ちなみにドルビービジョンとHDR10+では、トーンマップ処理は働きません。規格の主旨からしても対応テレビ側で行うことになります。とにかくトーンマップ処理に関しては、現時点で考えつくことは全てやった感じです。その分、ソフトウェア部門にはエライ苦労をかけました。

松井 いろいろな新機能を実装するのも大変ですが、それが商品になった際、ユーザーがどのような使い方をしても、正しく動作させることが何より大切です。

UB9000のソフトウェア開発リーダー、松井健一氏

−− ダイナミックレンジ調整やシステムガンマ調整も、裏では非常に高度な演算処理をしているのに、メニューUI上では直感的でユーザーライクに実装されているのが素晴らしいと思いました。

甲野 ハードウェア部門は今日みたいに “夏休みの自由研究” 的なものをお見せしながら苦労話が出来ますが、ソフトウェア部門はその努力や成果をこういう場でお伝えしにくいんですよ。

松井 甲野からの膨大なリクエストに応えるために、膨大な時間をかけてプログラミングしました。でも、ハードと違って見せられるものが何もないんです(笑)。

一同 (笑)

甲野 我々が目指している次元の “高画質” というものは、ハードウェアを組み合わせただけでは到底実現できません。ハードウェアをどううまく使いこなすか、どういうアルゴリズムで動かすか、そこに重要なノウハウがあります。我々の画質はハードウェアとソフトウェアの両輪で成り立っており、それらがうまく噛み合うことによって初めて、これほどまでの映像表現が可能となるのです。

4K時代の決定版ともいえる製品がUB9000 Japan Limitedという形で結実

−− 画質、音質が素晴らしいのはもちろんですが、私はUB9000の無駄を廃したデザインにも非常に惹かれています。これ見よがしな重厚長大さではなく、澄ました顔して凄いことをやっている感じがたまりません。なんというか “プロ機っぽさ” を感じるんですよね。

甲野 なるほど、プロ機っぽさですか。機能面でもそういった部分がありますし、確かにそうかもしれません。

−− 内部が電源、アナログ、デジタル、ドライブの4ブロック独立構成で、それぞれが隙間なく理路整然とレイアウトされているので、余計にそう感じます。

内部構造。4ブロックに分かれた構造となっている

神園 そのあたりはかなり意識して綿密に設計していますね。

宮本 ケーブルによるワイヤリングがほとんど無いのも、量産品として品質管理をする上では非常に重要でした。ケーブルを使うと製造時の微妙な這わせ方の違いで、音にバラツキが生じてしまうのです。

神園 ネジも100本以上使っていますが、宮本と相談しながらトルク管理まで徹底しています。

ウデーニ 各ブロックをパズルのようにジョイントするためのパーツも、金メッキ処理された高品位なものです。特にドライブのシャーシ部分を貫通して、アナログオーディオボードと繋がるブリッジの部分は、丁度良い高さのパーツをあちこち探し回ってようやく見つけました。これがなければ今の姿にはならなかったかもしれません。おかげで外装担当の濱野とは何度も喧嘩しましたけど(笑)。

濱野 (笑)。組み立て時にコネクタ部分にストレスがかかると、結局それが音にも影響してしまいますからね。

宮本 DIGAでの経験もあって、狭いところにモノを詰め込む技術には、我々は非常に長けていると自負しています。

甲野 これまでも定期的にDIGAでプレミアムモデル的なものは作ってきましたが、システムの基本部分はレギュラーモデルと共通設計の部分も多かったので、プレミアムとしてこだわる部分の開発はもっと少人数でやっていたと思います。ところが今回はたくさんの人が寄ってたかって「良いものを作るぞ!」と突っ走り、そのまま走り抜いた感じがありますね。

こんなことは初めてです。やはり、この先の8Kの時代を前に、UHD BDを使った4K時代の決定版ともいえる製品を作っておかねばという意識が、社内で共有されていたのだと思います。それがUB9000 Japan Limitedという形で結実しました。

濱野 次にやるのは、また20年後くらいになるかも(笑)、というのは冗談ですが、全員がそれくらいの強い思いで取り組み、最後までやり遂げることができました。その分、開発リーダーの岡崎には迷惑もかけましたが(苦笑)。

岡崎 ホント、皆がこだわればこだわるほど、何度も何度もスケジュールを組み直しましたよ(遠い目)。でもこれでようやくパナソニックのフラグシップUHD BDプレーヤーを皆様にお届けできます。

−− 我が家も頑丈なラックを用意しました。受け入れ準備は万端です!

インタビューを行う秋山氏

一同 (笑)

甲野 日進月歩のAV機器の世界で、長く使ってもらえる趣味性の高いプレーヤーに仕上がったと思います。皆様、本当にお待たせ致しました!



口々に「やり切った」と話す開発メンバーたち。UB9000 Japan Limitedの高S/Nな画質や音質にも負けない、晴れやかな笑顔が印象的だった。詳細な画質・音質レビューは近日中にお届けする予定なので、乞うご期待!

秋山 真
20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米を決意しPHLに参加。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はアドバイザーとしてパッケージメディア、配信メディアの製作に関わる一方、オーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を生かし、2013年より「AV REVIEW」誌でコラムを連載中。リスとファットバーガーをこよなく愛する41歳。

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