開発と生産の一気通貫、ラックスマンの“ものづくり”の強さ。品質管理にこだわる横浜事業所を訪ねる
山之内 正ラックスマンの新世代を予感させるパワーアンプ
創業100周年の偉業を成し遂げたことをトリガーに、ラックスマンの製品開発が勢い付いている。6月に発売されたモノラル・パワーアンプの「B-100 CENTENNIAL」(以下B-100 C)は、その勢いを象徴する重要な製品で、一連の記念モデル群のなかでも存在感は別格だ。
往年の銘機「B-10」を思い出させる威容とともに、独自技術とノウハウをフル投入して実現した次元の高い再生音は目を見張るものがある。
特に、聴き慣れたスピーカーを別物のように鳴らす強靭なドライブ力は圧巻だ。ラックスマン試聴室常設のFOCAL「Scara Utopia Evo」だけでなく、ウィーン・ハイエンドの同社ブースで聴いたMARTENの「Parker Quintet Diamond Edition」でもそれを強く実感した。
音楽の躍動と高揚が半端ではなく、音に生命が宿るとはこのことかと感嘆させられる。大量の空気を一気に動かす瞬発力に加え、静寂の底の深さも比類ない。ノウハウの蓄積が実を結んで新たな表現領域に到達し、新世代を予感させる音が誕生したのだ。
品質管理にこだわる新しい生産拠点
B-100 Cの完成度を高めるうえで少なからず貢献しているのが、旗艦モデル群の生産拠点として2023年に操業を開始したラックスマン横浜事業所だ。ラックスマンは創業以来、部品の調達から基板の製造まで、複数の協力工場との間に築いた緊密な関係を軸に国内生産にこだわり続けている。
その協力関係を維持しつつ、国内外で拡大する需要への対応を視野に入れて新たに開設したのが横浜事業所なのだ。
あえて工場と呼ばないのは理由がある。本社開発部門との連携を基盤に効率的な生産環境を構築するのはもちろんのこと、生産現場ならではの視点を活かし、品質改善に直結する連携や作る側からの提案にまで踏み込む。そこで得た知見を協力工場と共有し、製品の品質を高めることも重要な役割のひとつだ。
操業開始からまだ3年ほどだが、すでに本社開発部門と協力工場の間をつなぐブリッジとしても有効に機能しているとのこと。
事業所所長の栗田氏は製造現場のマネージメント業務での豊富な経験を活かし、「この事業所でなければ作れない製品作りを目指しています」と意気込みは力強い。
柔軟性の高い生産ができるセル方式の採用は開設時から変わらぬ基本方針のひとつだ。その時点での需要に応じて生産する製品を選び、生産台数もコントロールしやすい。
6月下旬の取材時には発売を直前に控えたB-100 Cの生産が佳境に入っていたが、基本的には3つの異なる製品を同時に生産できるキャパシティがあるという。
B-100 Cを集中的に生産する直前までは、「M-10X」「C-10X」「NT-07」「MQ-88uC」「SQ-N150」を中心に生産を進めていたが、アンプやネットワークトランスポートだけでなく、ディスクプレーヤーを作っていた時期もある。
国内向けだけでなく、電源回路などが異なる海外仕様の生産にも対応しているため、同時期に複数の仕様を手がけることも多く、当然ながら工程はかなり複雑になる。製品への理解と十分な知識が要求されることはいうまでもない。
全員ができるだけ多くの工程に習熟することを目指しているため、自然に生産技術が向上し、それが結果として品質改善につながるという。
熟練の職人たちが手作業で組み上げていく
セル方式は可動式の台車を利用して組立てや調整を行うため、ベルトが流れる一般的な生産方式に比べると一人が受け持つ工程が多い。加えて、手作業でじっくり組み立てるため、それなりに時間もかかる。さらに、完成時の質量が60kgを超えるB-100 Cの場合、他の製品とは異なる苦労があるという。
「合計16個のブロックコンデンサーを上下反対方向に取り付けたり、極太のワイヤーを用いて出力回路や電源回路の配線を行う必要があり、それぞれ慎重な作業と正確さが求められます。組み上げる工程で上下をひっくり返す回数を減らすなど、生産現場でなければ気付きにくい課題を開発部門と連携しながら一つひとつ解決しています。
モノラルアンプなので、アッセンブルから調整まで、必ずペアで工程を管理していることもB-100 Cならでは取り組みですね。そのために長時間通電するための電源装置を新調するなど、B-100 C用に特別な準備も進めました」(栗田氏)。
B-100 Cは既存モデル以上に伝送系の低インピーダンス化を徹底し、1000を超えるダンピングファクターを実現。LIFES ver.1.1をはじめ、再生音に直結する技術は枚挙にいとまがない。
必然的に部品は大型化し、配線材は太く硬くなる。チップ部品を基板に自動挿入したり、はんだ槽に基板を通す工程など、大型の設備が不可欠な工程は協力工場で進めるが、立体的に設計された個別の回路ブロックを組み立てたり、基板と大型部品の間の配線など、手作業で進める工程の大半は横浜事業所が責任を追う。
究極のアナログ的アプローチが音質に効く
手作業ならではのこだわりとして注目したいのが、配線材の色を揃えたり、引き回しを工夫して美しく仕上げるなど、マシンには真似のできないきめ細かい配慮だ。言われて初めて気付いたが、基板に縦に挿入されている抵抗はカラーコードの向きまで揃っているし、隣り合う他の素子と角度にぶれがない。
そこまでのこだわりが音に反映されるかどうか疑問に感じるかもしれないが、栗田氏は「基板も外観部品だと思っています。抵抗の向きを揃えることは微小レベルで音質改善につながるという考えもあるので、できることはすべて挑戦します。筐体のチリ合わせなど、外から見える部分はもちろんですが、お客様からは見えない部分にもこだわり、誤差ゼロを目標に取り組んでいます」と力強く語る。
B-100 Cは外装パーツやパネルも重く厚みがあり、サイズは他の製品とは比較にならないほど大きい。それだけにパネル同士の位置関係を揃えるチリ合わせの工程は困難をきわめるのだが、その精度も工具や治具に委ねるのではなく、指先に伝わる感触を頼りに段差の調整を追い込み、最終的に満足のいく結果を得ている。
究極のアナログ的アプローチだが、それが一番良い結果を生み、音質改善につながることを確信しているからこそ、手作業で追い込むことにこだわり続けているのだ。
ラックスマンの横浜事業所は工場というイメージからはかけ離れていて、静かでクリーンな環境はラボラトリーを思わせる。規模は大きくないし、最先端の工作機械が並んでいるわけでもない。だが、その静謐な空間は良いものを生み出すことへの熱意で満たされていた。B-100 Cの音を聴くときはいつもこの静謐な空気の存在を思い出すことになりそうだ。
(提供:ラックスマン)