「ベートーヴェン 交響曲全集」も発売中

来日公演中のラトル/ベルリン・フィル。ラトルが語る、ベートーヴェン交響曲の魅力とは

公開日 2016/05/12 12:48 編集部:小澤 麻実
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来日記念リリース「ベートーヴェン交響曲全集」も発売

来日公演と同じタイミングで、「ベートーヴェン交響曲全集」も発売される。これは2015年10月、ベルリンのフィルハーモニーにてライブ収録したもの。ラトル時代の総決算とも言える内容だ。

「ベートーヴェン 交響曲全集」5CD+3Blu-ray ¥12,000(税抜)

譜面にはジョナサン・デル・マー校訂ベーレンライター社クリティカル・エディションを使用している。CD5枚、演奏会のもようを収めたBDディスク2枚、96kHz/24bit音源を収めたBDオーディオ1枚、192kHz/24bit音源をダウンロードできるチケット、デル・マー氏によるべーレンライター版の解説などを収めた解説書がセットになっている。

さらに非常に大きな特典として、ラトルの約50分にわたるインタビュー『ラトル、ベートーヴェンを語る」(ピアノ演奏付)を収録。そしてこのツィクルスのリハ段階から全プロセスを記録したドキュメンタリー『ベートーヴェンと生きる』(45分)にも注目だ。日本だけの初回特典として、オリジナルポストカード(5枚組)も用意されている。

ジャケット写真には、ドイツの彫刻家イザ・ゲンツケンの作品《Fenster》(1990年)を使用した。これは彼女の「誰にも自分の窓がある」という言葉を、「誰もがベートーヴェンに対するまなざしを持っている」と解釈したことによるのだという。ベルリン・フィル・メディアのローベルト・ツィンマーマン代表は「ラトルはよく『ベートーヴェンに挑むのはエベレストに登るようなもの』と言っていましたが、安易にジャケットに山を使うことはしませんでした」と語って笑いを誘っていた。

ベルリン・フィル・メディア ローベルト・ツィンマーマン代表


ラトル氏「BPOとの16年間の旅路も感じてもらえるアルバム」

ラトル氏は2002年にウィーン・フィルと、同じくジョナサン・デル・マー校訂ベーレンライター社クリティカル・エディションを採用して演奏しており、その新鮮な解釈は当時大いに話題を呼んだ。今回のベルリン・フィルとの録音は同じ版をつかいながらも、さらにディテールを読み込んだ出来映えになっているとのこと。

左からインテンダント マルティン・ホフマン氏、ベルリンフィルメディアのスタンリー・ドッツ氏、サー・サイモン・ラトル、ローベルト・ツィンマーマン代表

会見場では一部試聴を実施。リファレンスシステムにはテクニクス「Referenceクラス」が使用された

これについてラトル氏は「私も年齢を重ねて賢くなったのではと思っています(笑)ベルリン・フィルとウィーン・フィルはどちらも素晴らしいオーケストラですが、互いに大きな違いがあります。どの4小節をとっても、それぞれのオーケストラを間違える人はいないのではないでしょうか? それがベートーヴェンの素晴らしいところでもあるでしょう。彼の音楽を通して個々の音楽家から素晴らしい音楽を引き出してくれるのです。ベルリン・フィルとウィーン・フィル、2つの録音の違いを語るのに私は最適な人間ではないと思いますが、この16年間ベルリン・フィルで積み重ねてきた歴史を、今回の『ベートーヴェン 交響曲全集』で聴いていただけるのではと思います」と語っていた。

また今回の公演に対して「5月に台北で行われた第1番&第9番と第2番&第9番の演奏を聴いて、これまでより進化しより自由に演奏しているように感じました。今回の来日公演ではどのように進化しているのでしょうか」と記者から質問されると、ラトル氏はそれについて次のように返答した。

それを自分で説明するのはすごく難しいですね…そういったことを断言できるのはドナルド・トランプ氏くらいではないでしょうか?(笑)音楽家のなかでも誤解している方がいるかも知れませんが、ベートーヴェンのツィクルスをやるとき『私は何を語れるのか』と考える人がいます。我々は演奏する際、常にベストを尽くしますし音楽に対して誠実でありたいと思っています。そして、素晴らしい作品にできるかぎり見合う演奏ができるよう、努力するのみです。聴いていただいて「より自由になった」と感じてもらえたなら嬉しいことです。なぜならそれは長期にわたってこういった作品に取り組む醍醐味であるからです。


音楽はみずから運命を切り拓くもの。我々も公演のなかで、進む方向性に驚くことがあります。それは音楽の力が私たちを引っ張っていってくれるのです。― もちろん、これは理想です。だからこそひとつひとつの演奏はみんな違うのです。今回の録音を聴いたときに「ああ、ここは上手くいったな」「ここはもう一度やり直したい」なんてところは沢山あります。今後もずっとそうでしょうし、そう思うことは良いことだと思っています。

それに、個々の演奏家によっても音楽は大きく変わります。今回参加しているなかに世界最高峰のオーボエ奏者2人がいますが、どちらが演奏するかによって、引き出される交響曲のキャラクターがガラリと変わってしまうのです。これは本当に目を見張るようなものです。こういったプロセスは、無限に続いていくでしょう。我々の演奏は、アスピック(肉や魚のゼリー寄せ)のように固まったものではないんです。


  ◇  



千代田区麹町中学校でベルリン・フィルハーモニー木管五重奏団によるアウトリーチコンサートも開催
会見のあとは、TDKの協賛により、ベルリン・フィルメンバーで構成された「ベルリン・フィルハーモニー木管五重奏団」が、千代田区麹町中学校でミニコンサートを行った。全校生徒が体育館に集まり、モーツァルトやダンツィ、イベールの演奏に熱心に耳を傾けた。フィナーレには同校吹奏楽部と木管五重奏団メンバーの演奏に乗せて「花は咲く」を合唱。演奏会の最後には生徒たちから「一日どのくらい練習しているのですか」「どうやったらいい演奏ができるのですか」などの質問が飛び出し、心温まるやりとりが行われていた。

メンバーと生徒が一緒に「花は咲く」の演奏と合唱を行った

生徒からメンバーへの質問タイムでは、様々な質問が飛びだしていた

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