「Dolby Vision 2」でHDRがどう進化する?! 映像制作者の意図を家庭で実感できる新機能を多数採用
HDR映像時代の礎とも言えるDolby Visionが登場したのは2014年。幅広い機器やコンテンツで採用され、商用フォーマットとしての成功のみならず、ユーザーにも革新的な高品位映像体験をもたらした。HDRの有用性が認識されたこともあってか、この10数余年で4Kテレビの輝度と色域性能は飛躍的に向上。100型以上の超大画面も選択肢に入るなど、新たなフェーズを迎えようとしている。
こうした流れを背景に、ドルビーラボラトリーズから新たにリリースされたHDRフォーマットが「Dolby Vision 2」である。同社によれば、「あらゆるエンターテインメントやデバイスにおいて映像品質を向上させるという、ドルビーのミッションに基づいて開発されている」と、コンセプトを明かす。
具体的には、「コンテンツ制作者のクリエイティブな意図と、リビングルームでの視聴体験との間にあるギャップを、より効果的に埋めること」を、Dolby Vision2の目標として、いくつかのアイデアと具現化するために、さまざまな技術が追加された。
本稿では、Dolby Vision 2の理解を深めるべく、技術の詳細やユーザーメリットを、同社への取材に基づいて解説する。
映像制作者の意図を尊重しつつ、視聴環境で最適な映像を描き出す新機能を採用
まず、Dolby Vision 2の基本を整理しておこう。映像面の技術仕様は「Dolby Vision」の最大輝度10,000nits、色深度12bit、色域BT.2020を踏襲している。鍵になるのは、“Content Intelligence”という考え方だ。コンテンツ制作者の意図を尊重しつつ、ユーザーの視聴環境に合わせて最適化が行える枠組み、言い換えるとエコシステムの提供である。
そのため、映像制作現場で使用される機器はもちろん、映像配信サービスやUltra HDブルーレイといったパッケージメディア、ユーザーの視聴環境で使用される映像機器も、Dolby Vision 2に対応することが大前提となる。
Dolby Vision 2の機能をフル活用できるフラグシップテレビ向けに「Dolby Vision 2 Max」を用意
4Kテレビなどの映像機器がDolby Vision 2に対応するには、ハードウェアレベルで「Content Intelligence」を機能させるために、新しい映像基板として「Dolby Vision 2 Image Engine」が導入されていることが必須だ。テレビの場合は概ねSoCがそれにあたるが、対応製品としてはMediaTek社の「Pentonic 800」がある。
なお、SoCが「Dolby Vision 2 Image Engine」に対応していても、テレビ側に環境光を検知する明るさセンサーや、ドルビーが承認したモーション処理技術が非搭載の場合、「Content Intelligence」を構成する機能をフルに利用できないケースもあるという。
そのため、明るさセンサーや承認済みモーション処理技術を搭載し、フルスペックを使用できるフラグシップテレビ向けに設計された「Dolby Vision 2 Max」も用意している。また、Dolby Vision 2で制作された映像作品は、従来のDolby Visionまでに対応した機器で再生した場合は、Dolby Visionフォーマットとして再生されるようだ。
これらを踏まえた上で、新たに「Precision Black」「Light Sense」「Authentic Motion」といった機能を打ち出した。ここでは新機能について、ドルビーへの個別取材で得た情報も含め、技術詳細とユーザーメリットを詳しく解説する。
映像制作者側が「黒の見え方」をメタ情報に付加できる「Precision Black」
「Precision Black」は、「暗い映像」の見え方を、制作者の意図を踏まえつつ、テレビなどの映像機器が備える輝度性能、そして周囲の明るさに応じて最適化する機能だ。「暗い映像」とは、映画作品の暗闇シーンを想像すると良いだろう。実体験として、黒の面積が大きく、登場人物の様子や風景が視認できないシーンを目にしたことはないだろうか。
これは、制作環境と視聴環境のギャップによる影響が大きい。映画作品の場合、映像の見え方を一定にするために制作環境を暗室にしているのが基本で、壁面も黒色で迷光を抑えるなど徹底されている。映像制作のプロの現場における完全な暗室では、映像の暗部においても、輝度がゼロの「黒」と光り始めのごくわずかなステップの差も見分けられるほど。
しかし、この映像をそのまま家庭のテレビで映し出すと、周囲の明るさにより、暗部の諧調の多くが埋もれて見えなくなってしまう。直射日光が入るような非常に明るい環境では、さらにその度合いが高くなり、画質以前に映像の内容が見えなくなり、ストーリー展開も分からなくなってしまうこともある。「Precision Black」は、ここにメスを入れた新機能だ。
従来のDolby Visionでは、テレビに内蔵されている視聴環境の明暗を検知する明るさセンサーと連動し、映像の明るさを自動でトーンマッピング調整する「Dolby Vision IQ」機能を提供してきたが、新しい「Precision Black」は、さらにコンテンツ制作者の意図を反映しようとするもの。
従来のダイナミックメタデータに加え、クリエイターがカラーグレーディング工程において、想定する視聴環境や最小限視認可能なブラックレベルを定義することができ、メタ情報として付加することが可能だ。クリエイター側で、「黒の見え方」を伝える手段ができたのは大きな進展と言えるだろう。
Dolby Vision2対応のテレビは、このメタデータとディスプレイの輝度表示性能を組み合わせて解釈して、暗いシーンをより制作者の意図に近く再現できるという。制作者側とテレビ側の双方でトーンマッピングを決定できる仕組みなので、特に「bidirectional tone mapping(双方向トーンマッピング)」と呼んでいるのも興味深い。
明るさセンサーと連動した緻密なトーンマッピングが期待できる「Light Sense」
「Light Sense」を直訳すると “光を感知” となる 。Dolby Vision2の機能としては、テレビに搭載したセンサーで検知した環境光の状態や変化を、トーンマッピングする際に反映する。
Dolby Vision2 MAXに対応する上位クラスの4Kテレビでは、環境光センサーの搭載を条件としていることや、映像処理能力の高さから、より柔軟かつ緻密なトーンマッピングが期待できる。「Dolby Vision IQ」の進化版が「Light Sense」としているようで、今後登場するテレビがDolby Vision2への対応に移行していくと、「Dolby Vision IQ」から「Light Sense」に機能も置き換わっていくようだ。
AIで映像を判定して最適化する「Sports and Gaming Optimization」
スポーツ中継やゲーム映像のように、動きが高速で情報量の多い映像に対して、ホワイトポイント/トーンマッピング/色再現/モーション処理を、シーン単位で最適化しようとする機能として導入されたのが「Sports and Gaming Optimization」だ。
もう少し具体的に書いていくと、AIで映像の種類を判定し、球技ならボールや選手などの小さな動体の視認性を向上、HUDやテキストの可読性確保、白飛びの抑制、ジャダー低減などの処理を行うという。
例えばスポーツ中継の場合、カメラの切替や屋内外シーンの混在などが考えられ、シーンによってホワイトポイント、色温度のバラつきが想定されるが、そういった部分の改善に繋がりそうだ。また、映画作品で敬遠されがちなフレーム補間も、スポーツ映像では視聴者の目の疲れを軽減するなど、快適性をアップする機能として期待できる。
クリエイターがシーン毎にフレーム補間情報をメタデータに入れ込める「Authentic Motion」
「Authentic Motion」の機能について、ドルビーは「世界初のクリエイター主導のモーションコントロールツール」としており、Dolby Vision 2の中でも重要な機能のひとつと言える。
背景として、テレビの高輝度化と大型化があり、映画作品の24fpsをそのまま映し出すと、ジャダー(映像のカクつき)が目に付き易いという場面が挙げられる。特に明るい映像で、カメラが大きくパンするシーンでは、カクカクとブレる映像に、目の疲れを感じる視聴者も多いはずだ。
本機能を用いることで、クリエイターの判断により、Dolby Vision 2で新たに追加されたメタデータを通じてテレビに伝達され、必要なシーンでのみデジャダー(フレーム補間)を行うことができる。
例えば、カメラが固定で人物のみが動くシーンなら、フレーム補間を施さないでソープオペラ効果を回避、風景など映像の内容が静止に違い状態で、カメラがパンやチルトを行う場合は、フレーム補間で動きがスムーズかつ見易い映像にできるようだ。重複するが、フレーム補間の制御を、テレビ側に任せるのではなく、映像制作者側がシーン毎に定義できることが重要なポイントだ。
Dolby Vision 2 MAXは、テレビ側にドルビーが承認したモーション処理の搭載を条件としている。フレーム補間が行われる場合も、不自然にヌルヌルとするような映像を目にする心配はなさそうだ。
Dolby Vision 2はVODサービスなどが先行予定
Dolby Vision 2の新機能によって、より緻密にクリエイターの意図を反映した映像を、視聴者も楽しめるようになるが、ではオーディオビジュアルファンはどのようなサービスで楽しむことができるのか。
現時点では、NBC Universal傘下の北米ストリーミングサービス「Peacock」と、欧州の放送・配信事業者であるCanal+が「Dolby Vision 2」対応を表明している。Ultra HDブルーレイについては情報が無いが、当面はVODサービスなどが先行して採用するとみられる。
なお、先述したとおり、Dolby Vision 2は既存のDolby Vision対応テレビとの互換性も維持されているため、Dolby Vision 2で制作されたコンテンツは、従来のデバイスでも標準のDolby Visionとして再生することが可能なので、そこは安心してほしい。
制作現場と視聴者のリビングルームをつなぐ “橋渡し” の役割を果たすDolby Vision 2
今回、Dolby Vision 2について取材を行ったが、「制作現場と視聴者のリビングルームをつなぐ “橋渡し” の役割を果たす」という言葉が印象に残った。言い換えると、進化のポイントは “数値スペック” ではなく、“制作側の意図をどれだけ正確に再現できるか” という点にある。
この前提に留意すれば、本稿で紹介した“Content Intelligence”という考えに基づく、「Precision Black」「Light Sense」「Authentic Motion」といった各種機能の目的や期待できる効果も理解し易いだろう。
制作側に思いを巡らせると、多機能になった分、メタデータの生成が大変な作業になりそうだが、ドルビーからはAIを利用したツールが提供されるとのことで、効率的かつ効果的な運用ができるとみられる。
HDRフォーマットとしては、HDR10陣営も「HDR10+ Advanced」をリリースしており、テレビの高輝度化や大画面化に追随すべく進化しているが、制作者の意図をより多く伝え、表現はテレビに委ねるという考え方。
Dolby Vision 2は、テレビ側の表現にも深く関与する点で違いがある。オーディオビジュアルファンとしては、両者による最終的な映像体験の違いを確認するのも興味深いだろう。テレビの進化に沿って、ますます進化するHDRフォーマット。その成果を一日も早く体験したい。
■取材・執筆:鴻池賢三
■編集担当:長濱行太朗
































