ルームチューニングアイテム“アンク”のベストポジションを探せ!室内音響の専門家とともに検証
日本音響エンジニアリングが手掛けるルームチューニングアイテム、ANKH(アンク)。それが、小社の試聴室に新たに導入されることになった。
その効果をいち早く感じ取った山之内 正氏。日本音響エンジニアリングの専門家諸氏の立ち合いのもとで、4台のANKHを使ってこの部屋におけるベストポイントを検証、ANKHの効果の魅力をレポートする。
3年目に入る前に部屋のアップグレードを目指す
2024年5月に新試聴室が完成した。約1年半経って音が落ち着いてきた半面、時間が経過して部屋がなじむとともに課題も浮かび上がってきた。
室内音響はなかなか計算通りにはいかない難しさがあり、使い方次第で思わぬ弊害が表面化することもある。環境など多くの制約があった旧試聴室に比べれば格段に音を判断しやすい部屋になったのは事実だが、その改善の結果、以前は気付きにくかった問題が浮かび上がるという側面もありそうだ。
私が指摘してきた課題は3つほどある。まずは左右壁面での一次反射が強く音像定位が曖昧になりやすいこと。次に、試聴機器を載せるために背の高いラックを正面手前に置くことが多く、ミッドレンジやトゥイーターの音を反射して音場が乱れやすいこと、そして3つめ、これが一番厄介なのだが、中低音の残響成分が過剰気味で、低音の解像度を確保しにくいことがずっと気になっていた。
低音については部屋が完成した当初よりも若干音が残る傾向が強い。連日の酷使でどこか部材が緩み、共振を起こしているのではと、真剣に探したこともあるが、どうやら原因は違うところにありそうだ。
ちなみに最初の2つについては、左右に拡散性の音響パネルを吊るすことと低めのラックに入れ替えることでほぼ解決した。「なんとかして!」と頼んだ結果、編集部が動いてくれたのだ。
低音についてはそう簡単には解決しそうもないが、課題があることは共有できたので、3年目に入る前に部屋のアップグレードを目指すことになった。オーディオ機器のように製品を入れ替えるわけにはいかないが、現状を大きく変えずにできることがあるかもしれない。
室内音響の専門家集団でルームチューニング材AGS(アコースティック・グルーブ・システム)を開発・製造している日本音響エンジニアリングに相談したところ、「ANKH(アンク)」を導入してはどうかということになり、実験をすることになった。
ANKHの設置場所を専門チームとともに考察する
用意したのは主力モデルのANKH-I(フラットタイプ)が4本。音を適切に拡散させることで有害な定在波を抑え、響きを適切にコントロールするチューニングアイテムだ。その4本をどこに配置すれば効果を発揮するのか、同社の専門チームとともに考察する。
音響特性をスイープ信号で測定した結果も踏まえ、左右の一次反射と正面の湾曲した壁面の影響を回避する方向で実験を進めることにした。正面の壁で反射した音が残響として残る現象は測定結果からも読み取れる。
●パターン1
声の音像に焦点が定まり前後も把握しやすくなる
まずは正面、スピーカーの間にANKHを3本設置し、設置前後で音の変化を確認したところ、設置後の方がヴォーカルの音像に焦点が定まり、前後の位置を把握しやすくなることがわかった。リズム楽器の粒立ちも明瞭度が上がり、テンポ感が改善するなど、声や旋律以外でも良い方向の変化を聴き取れる。壁面が湾曲しているので壁とは少し距離があるが、それでも際立った効果を発揮する。
●パターン2
左右の一次反射面ではステージの立体感が向上
次に左右壁面の一次反射を拡散させることを目的に、スピーカーと試聴位置の中間あたりに左右1本ずつANKHを設置した。正面のANKHは2本構成となるが、一次反射対策と併用することで相乗効果が得られることを期待し、聴き比べを進める。
結果は明らかだ。ステージの立体感が向上し、声と楽器の位置関係を正確に把握できるようになる。ドゥヴィエルの声の繊細な表現が設置前よりも深みを増し、ジェニファー・ウォーンズのヴォーカルは表情の変化とエモーショナルな高揚感に強く引き込まれる。
副作用は皆無で音響的には理想的な配置と思えるのだが、この配置には実用上の問題があった。左右の壁コンセントをふさいでしまうため、取材に影響が及ぶおそれがあるのだ。ここは従来通り天井から薄型の拡散パネルを吊るすのが現実的かもしれない。
●パターン3と4
中低域の改善に目を見張る、音の到達力と浸透力を獲得
続いて中低音の明瞭度を改善するための配置を工夫する。試した場所は2通り、スピーカーの外側に置くパターン3と後方のパターン4だ。設置した状態の写真で明らかなように、前者は壁のくぼみにピタリとはまり、低音の定在波対策に寄与しそうだし、後者は正面の湾曲した壁面形状の影響を多少なりとも軽減できる可能性がある。いずれも機材の搬入出や配線作業を妨げることもなさそうだ。
この2カ所に設置したANKHは中低域の明瞭度、特に時間方向の分解能を改善する方向でほぼ同程度の効果を発揮する。ベースの立ち上がりに勢いが乗り、音がまっすぐ飛んでくる感触が素晴らしい。それを聴きたかったのに、これまでなかなか思い通りに鳴ってくれず、音の到達力と浸透力を引き出しにくかったのだ。
完全に不満解消とはいかないまでも、ANKHがもたらす中低音の改善は目を見張るものがある。バッハの多声のフーガで低音から高音まで各声部がよく見えるのはスピーカー後方に配置したパターン4、低音の見通しが良くなるのは外側に置いたパターン3という具合に両者の効果に微妙な違いがあるが、この2つはANKHを移動させることで柔軟に使い分けができるので、試聴を進めながら検討すれば良いと思う。
パワーアンプ正面に縦に設置するANKH-III(小型タイプ)も音像のフォーカス改善に顕著な効果を発揮するが、ANKH-IIIは軽量なので、必要に応じて追加すれば良いと思う。
最終的に正面とスピーカー後方に合計4本のANKHを導入する方向で落ち着いた。次のステージにアップグレードを果たした試聴室が今後どう進化していくのか、大いに楽しみだ。
(提供:日本音響エンジニアリング)
※本記事は『季刊・オーディオアクセサリー 200号』からの転載です。
































