公開日 2018/10/23 08:50

ラズパイオーディオ、システムコアの “64bit化” で音は変わるのか?

海上忍のラズパイ・オーディオ通信(50)

64bitカーネルで音が変わる!?

そこで検討したのが、システムコア(カーネルとドライバー)だけの64bit化。Cortex-A53というCPUは32bitソフトを支障なく実行できるので、システムコア以外のソフトウェア(アプリやライブラリ)は32bitのまま利用しようというわけだ。64bit CPUのメリットはフルに享受できないにせよ、システムコアだけでも64bit化すれば、システム全体のパフォーマンスは向上する。

…と目論んでみたものの、いざ実行するとなると多少の手間を覚悟せねばならない。システムコアを64bit化するためには、Linuxカーネルのソースコード(ここに大量のドライバーも含まれている)を手に入れ、その設定を見直した上でARMv8用にコンパイルしなければならない。

つまり64bit CPU向けに「カーネルの再構築」を行うわけだが、普段1bc/Raspbianで利用するコンパイラはARMv7用バイナリ(32bit)しか生成できないため、ARMv8用バイナリを生成できるコンパイラを準備する必要がある。クロスコンパイルを行うわけだ。

「Kernel Support for 32-bit EL0」を有効にしてカーネルの再構築を行う

IT系連載ではないため作業の手順などは省かせていただくが、クロスコンパイル環境を整備した後は、ARMv8用のひな形を利用してカーネル再構築の作業を開始、「Kernel Support for 32-bit EL0」をチェックした。このオプションを有効にしておかないと、32bitソフトを起動した時に32bitモードに切り替えられない、つまり32bitソフトを実行できなくなるからだ。

出来上がったカーネルとモジュール(ドライバー)をmicroSDカードへコピーし、/boot/config.txtに「arm_control=0x200」の記述を加えるなどのコンフィグレーションを行った結果、システム再起動後に無事64bitカーネルで起動することに成功した。GPIOに接続する拡張カード用ドライバーも64bit化されたが、BurrBrown PCM5122搭載のDACカード「DAC 01」は問題なく認識されている。

64bitカーネルで起動したところ。アーキテクチャ名が「aarch64」に変化している

MPDやupmpdcliなど音楽再生系ソフトは32bitのままだが、topコマンドで調べた限り起動しているらしい。いざ曲の再生を開始すると……普段と変わらない張りのあるサウンドが聴こえてきた。USBメモリーの曲もCDの曲も、upmpdcliを利用したストリーミング再生もいつもどおりだ。クロスコンパイル環境の準備とカーネル再構築には手間がかかったが、MPDなど32bitソフトをそのまま引き継げるのはうれしい。

楽曲再生中のシステム負荷だが、最新モデル「Raspberry Pi 3 Mode B+」でDSD 5.6MHz(PCM変換)という負荷の高い処理を行ったところ、32bitカーネルは平均して18.0%前後、64bitカーネルは17.5%前後と、64bitカーネルの方がわずかに低負荷となった。

とはいえ、同じDSD 5.6MHz再生時のピーク電力消費量は5V/0.65A前後でほぼ変わらず、FLAC 96kHz/24bitの再生時におけるCPU負荷はどちらも平均1%前後と、カーネル/ドライバーの64bit化による影響はごく軽微なものに留まった。

64bit化されたシステムコアで起動する「1bc」。いつかは「真の64bit環境」に到達したい

聴感上の違いについては、僅差ではあるが64bitカーネルのほうがスピード感ときめ細やかさで上回る印象。奥行き方向の再現性もやや向上しているようで、ボーカルの定位は普段の32bit環境より鋭く感じる。

考えてみれば、カーネルからDACボードのドライバー、サウンドシステム(ALSA)に至るオーディオ再生系の基板部分は64bitバイナリに総入れ替えとなっているわけで、プリエンプションなどシステム全体におけるレイテンシーの変化も加味すれば、音質への影響が皆無というのはむしろ不自然な話。再生ソフトは32bit環境そのままでも、カーネルやドライバーを64ビット化する価値はありそうだ。

しかし、MPDや関連するライブラリ(libavcodecなど)まで、再生ソフトを含めて64bit化されなければ「真の64bit環境」と言えないことは事実。時間はかかるだろうが、その領域に到達できるようメンテナンスを続けるつもりだ。

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