公開日 2017/10/12 15:40

ゼンハイザー「IE 800 S」最速レビュー。5年ぶりに進化した新フラグシップイヤホンの実力とは

息を呑むほどクリーンで清新なサウンド

速報インプレッション:バランス接続の音もすかさずチェックした

では早速「IE 800 S」の音を聴いてみよう。今回はリファレンスのプレーヤーとしてウォークマン「NW-WM1A」を用意して、4.4mmバランス接続の音とアンバランス接続の音を比べた。また最後に聴き慣れたオンキヨーの“グランビート”「DP-CMX1」でもう一度チェックしている。

ウォークマンWM1Aで4.4mmバランス接続の音もチェックした

TM Network「Self Control」:Self Control(FLAC 96kHz/24bit)


TM Network「Self Control」
息を呑むほど解像感が高く、音色も鮮やか。そしてとにかく力強い。音楽性の豊かさは「IE 800」と特長を共有しているが、特にボーカルの肉付きが一回りぐらい良くなって、シンセサイザーやギターのメロディラインも全体のバランスを崩さず、より前に押し出されてくるようだ。打ち込みのリズムは瞬発力が上がって、低音の底力も増している。並のイヤホンで聴くとうるさく感じられるこの曲のエレキも、柔らかく伸びやかに鳴っている。しなる弦のイメージも目に浮かぶようだ。スネアや高域の打楽器の音も立ち上がりが俊敏で、爽やかな余韻の後味が冴え渡る。

バランス接続に切り替えてみると低音の輪郭がより明瞭になるが、音がむやみに太る感じはまったくない。引き締まったアスリート、あるいはサバンナの肉食獣みたいにしなやかな筋肉のイメージが自然と思い描かれた。メロディの重心がやや下がり、ボーカルの定位が一段と安定する。全体に少し落ち着いて大人しくなってしまった印象もあるが、これはプレーヤーの特性を素直に反映しているのだということが、後にグランビートで聴いた時にわかった。バランス接続では音楽の全景を余裕をもって俯瞰できるようになるので、この曲のようにアレンジが込み入った作品を聴く時に効果的だと思う。

ノラ・ジョーンズ「Come Away With Me」:Nearness Of You(WAV 192kHz/24bit)


ノラ・ジョーンズ「Come Away With Me」
この曲のボーカルの印象をこれほどリアルに描き出せるイヤホンは、他にあまりないと思う。ビブラートのゆらぎ、息づかいの一つひとつに、意識を向けなくても鮮明なビジュアルが飛び込んでくる。恐ろしいほどの解像感だ。力強い音がグンと瞬間的に立ち上がってくるような、伸びやかなピアノのメロディに耳が潤う。すべての音符に演奏者が込めた思いが伝わってくるようだ。録音された音源という壁を越えて、ボーカルとピアノ、そしてリスナーとの距離感がこれほどまで接近するイヤホンは数少ないだろう。「もっといいプレーヤーを組み合わせたら、ノラの口元を指でなぞれるんじゃないだろうか?」などと妄想が膨らむほどのリアリティだ。

バランス接続に切り替えると、無駄な響きがぴしゃりと抑えられ、ボーカルやピアノの音像が明快に定まる。闇と静寂を音と一緒に封じ込めてしまったような、この曲独特の緊張感がピークに達した。もっとも、アンバランス接続で聴くとちょっとだけルーズになる音像と声の余韻の膨らみが、この曲に限って言えば自分の好みにフィットするようにも思う。

フィットと言えば、イヤーチップをComplyに付け替えてみると、中低域のリークが抑えられて全体に柔らかくふくよかなサウンドになる。「IE 800」からの独特な持ち味である、スーパーモデルみたいにキレイな中高域はシリコン製のイヤーチップを付けたときの方が映える感もあり、曲ごとに付け替えて遊んでみるといいだろう。

The Duo「Nullset」:Coco Rojo 〜 ココナツの夕暮れ(DSD 11.2MHz)


The Duo「Nullset」
2台のギターによるデュオ作品。DSD音源ならでは柔らかく温かな弦の響きと繊細な表情を引き出してくれる。「IE 800」に比べると、“おお、艶っぽいな”と感じる音域が、高い方からわずかに真ん中の方へ移動した手応えがあった。IE 800 Sは、アコースティック楽器の音色をカラッとしたまま伸びやかに響かせるのがとても上手なイヤホンだ。主旋律のメロディが心地よく耳に染みてくるし、伴奏のギターもしっかり歌っている。

バランス接続で聴くと、中高域の粒立ちが活き活きとしてくる。音のつながりがますます有機的になって、人が音楽を最も心地よいバランスで吸収できる波長にぴたりと合ってくるような感じがした(学術的な根拠はどこにもないが)。体はリラックスしながら、耳はますます覚醒していくような不思議な感覚だ。

ウォークマンで試聴した後に、オンキヨーのグランビートでも同じ曲を聴いてみるとプレーヤーの個性による違いが明らかになった。グランビートで聴く音楽は、良い意味で荒々しくメリハリが効いている。筆者がよく聴くロック・ポップス系の音楽では芯の強さを引き出せる。ウォークマンで聴いた場合とまた違う表情が見えてくるが、どちらも「IE 800 S」と最高にマッチするプレーヤーだと思う。



「S」が付いたゼンハイザーの新たなフラグシップイヤホンは、クリーンさに加えてより若々しく新鮮なイメージの音を楽しませてくれた。バランス接続の音と聴き比べられるようにパッケージが充実したことも大変魅力的。これぞダイナミック型イヤホンのリファレンスと言うべき、心を熱くさせてくれるイヤホンだ。しばらくはこれで手持ちの音源をじっくりと聴き込む時間が増えそうだ。

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