公開日 2019/03/22 12:06

クアルコムが描く次世代通信のビジョンとは? 5GやIoTの展開からWi-Fi 6までをキーマンが語る

IoT展開についても言及
家庭向けIoT端末にもAI対応の波

クアルコムはコンシューマ向けIoT端末向けのソリューション開発にも力を入れる。昨年春には10nmプロセスで製造されたSoC「QCS60x」シリーズを発表。IoTデバイス向けに「Qualcomm Vision Intelligence Platform」として展開する。リコーの360度カメラ「THETA(シータ)」もこのICをいち早く採用した。

GoProやリコーのカメラなどにもクアルコムのIoTソリューションが使われている


Qualcomm Technologiesのプロダクトマネージメント部門シニアディレクター、サヒル・バンサル氏は、同社がIoTデバイス分野にも力を入れる理由について、「5G時代が近づくほどに、単体でネットワーク通信機能を担う家庭向けスマートデバイス、IoT機器が増えていくため」と説明する。

コンシューマ向けIoT機器に関連する取り組みを解説するサヒル・バンサル氏

IoTの分野についてはウェアラブルからスマートシティまで多様な広がりが想定されている

また、同社は「通信分野で培ってきた幅広いノウハウをベースに、多彩な製品ポートフォリオとプラットフォームをカバーしている。しかも、パートナーにはリファレンスデザインの提案もできる」と胸を張る。

クアルコムが通信の分野で培ってきたノウハウがIoTにも活かせるとした

例えば、モバイル向けSoCのSnapdragonシリーズも、クアルコムが独自設計したAIエンジンを搭載する。同じ設計技術をIoT機器向けのSoCにも応用して、ローカル側にあるエッジ機器の処理性能を高めることで、現在はクラウドのAIエンジンとの連携で実現しているソリューションの品質をさらに改善・効率化できる、とバンサル氏は語る。

バンサル氏は「5年前にはスピーカーに話しかけて家電を操作したりクラウドサービスを利用するということに考えも及ばなかったが、現在では当たり前の光景になっている。IoT分野は現在、通信技術やオンデバイスAIの技術が急速に高度化してきたことにより、状況も大きく変わりつつある。IoTのAI対応にいち早く挑戦することには大きな意義がある」という持論を述べた。


オーディオ・ビジュアル機器にも組み込める「Wi-Fi SON」

Qualcomm Technologiesのプロダクトマネージメント部門バイス・プレジデントのゴピ・シリネニ氏は、宅内の無線通信品質を高速化・低遅延化・安定化させるための「5G対応CPE(ユーザー宅内機器)」と「Wi-Fiメッシュネットワーク」の技術を中心に紹介した。

5G CPEとWi-Fiメッシュネットワークの取り組みについて語ったゴピ・シリネニ氏

今年2月のMWC19の開催に合わせて、クアルコムは5Gのミリ波とSub-6の通信に対応する5G固定ワイヤレスブロードバンド端末のリファレンスデザインを公開した。5Gモデムの「X55」、ならびにSub-6とミリ波向けRFフロントエンド部品により構成されるリファレンスにより、5G対応CPE機器の普及加速を促すことが狙いだ。

クアルコムは5Gのミリ波とSub-6の通信に対応する5G CPE端末のリファレンスデザインを発表した

宅内通信機器との接続については、現在Wi-Fi Allianceで規格策定に向けた準備が進む次世代の無線通信規格「802.11ax/Wi-Fi 6」とのセットアップも想定されている。X55をベースにした5G対応CPEの商用化については2020年前半からの本格化を見込んでいるようだ。

クアルコムでは独自技術「Wi-Fi SON(Self Organizing Network)」に対応するWi-Fiメッシュネットワークの展開にも力を入れている。メッシュネットワークとは、Wi-Fiルーターの親機と中継機が相互に通信しながら網目状のネットワークを張り巡らせて、宅内にまんべんなく快適なWi-Fi通信環境を実現する技術だ。シリネニ氏は「Wi-Fi SONの対応機器は設置後も通信環境に対して自律的に適応しながら最適な通信環境を提供できることが特長だ。ユーザーが複雑な知識を身に着けなくてもセキュアな通信を利用できる」と強みを挙げている。

Wi-Fi SONは一般的な広さの家庭でも高い効果を発揮するという

Wi-Fi SONの開発者向け評価キットも提供を始めている

Wi-Fiメッシュネットワークは広大な邸宅に設置する場合に限らず、一般的な広さの家庭でも高い効果を発揮するとシリネニ氏が強調している。宅内で電波が脆弱な箇所については約4倍の品質改善が期待できるという。家全体でも約35%のスループット向上が図れるそうだ。シリネニ氏は「隣接する家庭から電波干渉の影響を受けることがなくなるし、またユーザー側が隣家に影響を与えることも回避できる」とメリットについて補足した。

Wi-Fi SONの技術を搭載したコンシューマ機器にはAmazon Alexaを搭載するルーター付スマートスピーカーという商品形態で、ASUSが「Lyra Voice」(関連ニュース)、ネットギアが「Orbi Voice」(関連ニュース)という商品をそれぞれ発売している。どちらも現在日本で購入申込みが可能となっている。

ASUSとネットギアが商品化したWi-Fi SONを統合したコンシューマ向けスマートスピーカー

無線通信機能をライフスタイル商品に組み込むことにより、Wi-Fi SONのエコシステムのさらなる広がりに期待が膨らむ。シリネニ氏は、Wi-Fi SONの機能を一体化した家電は、テレビや白物にも波及すると示唆した。今回同社が発表した「QCS40x」シリーズにもWi-Fi SONの拡張機能が組み込まれている。今後はサウンドバーやAVアンプにも対応製品が誕生するかもしれない。

次ページRF(高周波)でヒトを検知するインターフェース技術

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