公開日 2015/02/10 13:19

【開発者インタビュー】AudioQuest「NightHawk」は技術革新でヘッドホンの常識に挑む

開発期間は27ヶ月。試作パーツは数千に及ぶ
構成:編集部 小澤貴信
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■磁気回路の技術革新によりリニアで正確な振動板駆動を実現した

Gray氏 NightHawkで採用された振動板以上に注目してほしいのは、ドライバーのボイスコイルです。一般的なヘッドホンではボイスコイルは振動板に直接巻きつけるので、独立したボビンを持たないケースがほとんどです。しかし、このボビンは上手く使えば、振動板を補強して、変化しにくい構造をつくることができます。一方で、独立したボイスコイルボビンを使えば、その先端が振動板を動かす際に、ボイスコイルが磁界の中で動いてしまうことがあります。ボイスコイルは磁石間で完全にセンタリングされているのが理想ですが、それが難しくなってしまうのです。

NightHawkのドライバーユニットは、その磁気回路に独自技術を採用することで正確かつリニアな再現性を可能とした

スピーカードライバーのボイスコイルには、「オーバーハング」型と「アンダーハング」型があります。オーバーハング型はボイスコイルが磁界の外に飛び出す形態、アンダーハング型は磁気ギャップの中に常にボイスコイルがある形態のことです。そしてボイスコイルが磁界からはみ出すオーバーハング型は、インダクタンスが位置によって変化してしまうので望ましくありません。そこで今回はアンダーハング型ボイスコイルを構成し、どの位置を取ってもコイルのインダクタンスが一定になるような設計を行いました。

ーー なるほど。

このアンダーハング型ボイスコイルを構成する上でキーとなるのが、ボイスコイルをいかに磁界の中でセンタリングさせるかです。ちなみにセンタリングというのは、上下においてという意味ですね。可動するものを常にセンタリングするというのは難しいもので、力をいかに中和させ、余計な力が働かないようにするのかというポイントが重要です。そこでNightHawkのドライバーにおいては、マグネットに“切り込み”を入れました。切り込みが入っている部分は磁界が弱くなり、磁束は凸部に集中します。この2点の凸部がボイスコイルの上/下の部分をドライブすることになります。

写真の赤丸で囲んだ部分が、マグネットに施された“切り込み”である

ボイスコイルの上/下の部分に磁束が集中的に働くと、その中央の1点でドライブするよりも安定します。よってローリングなど余計な動作なくピストン動作させることが可能になり、リニアに振動板を駆動させることができるのです。

ーー 切れ込みが入っているから“Split Gap”磁気回路なのですね。

Gray氏 ドライバーの設計段階でも有限解析を何回も行い、結果的にこのような独自の磁気回路に至りました。結果的に、混変調歪みを相当減らすことができ、明瞭度がアップしました。自分が気に入っていた曲で今まで歌詞が分からなかった曲でも、NightHawkで聴くと「こういう意味の歌詞だったんだ」と理解できるようになったのです(笑)

すでにNightHawk以降のラインナップ開発も予定

ーー ここまでお話を伺って、NightHawkにどれだけ革新的な技術が詰め込まれたのか、改めて実感させられました。AudioQuestのヘッドホンへの意気込みの高さが伺えます。

Gray氏 NightHawkのコンセプトのひとつに、「full-bore assault」という言葉があります。つまり「全力突破」ということです。今までのヘッドホンが踏み込まなかった領域にも遠慮せずに踏み込む。ただし、価格設定も非常に戦略的に設定し、他社のより高額なヘッドホンとも、値段を問わず十分対抗できるような商品を目指す。我々はよりリーズナブルなコストでフラッグシップに近いような性能を提供することが重要と考えました。

ーー ところで、セミオープン型を採用した理由はなんだったのでしょうか

Gray氏 個人の意見としては、開放型にも密閉型にも、それぞれ利点があると考えています。しかし今回は、なるべく両方の長所を活かすような設計を採用したいと考えました。密閉型は遮音効果に優れていますが、圧迫感はどうしても避けられません。今回はもう少し開放的な方向に持っていきたかったのです。ただし、完全な開放型にすると、遮音性や周囲の人への配慮という点で、使用できる環境が限られてしまいます。そこで今回はセミオープンという方法をとったのです。 

ただ、AudioQuestは今後、ヘッドホンのラインナップを拡大する予定です。今後は完全開放型も、完全密閉型も開発してみたいですね。

NightHawkの機構について説明するSkylar Gray氏。今後のラインナップについても言及してくれた

ーー 次のラインナップについて、すでに具体的な予定というのはあるのでしょうか

Gray氏 次の製品として「NightOwl」というモデルを予定しています。「Owl」はフクロウですね。本機はNightHawkの密閉型バージョンになる予定です。それから、以前に在籍した会社ではイヤホンを手がけていましたので、いずれはAudioQuestでもイヤホンを開発したいと思っています。

ーー 新製品の発表と同時に、以降のラインナップの予定も聞けるとは、非常に楽しみです。

Gray氏 ただし、現時点でAudioQuestの中でヘッドホンの設計を行っているのは自分一人なので、一度に様々な製品を開発するのはちょっと難しいですね(笑)

次ページNightHawkを開発する上で比較対象としたヘッドホンとは

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