PR「Feel Records 京都はなれ店」の畳の間リスニングルームで開催
レコードプロレス in 京都!エアータイトの真空管アンプがロックをぶちかます!
■初手から攻める!京都名門のナイトクラブでのライヴ録音
三浦さんが「じゃあ私からいきますね」と口火を切った。普通ならホームは後攻だが(エイ・アンド・エムはここから車で40分の高槻市にある)、初っ端にかけたい理由がジャケットを見てわかった。
■先攻:三浦 『ナイト・クラブの奥村チヨ』奥村チヨ「オープニング(恋の奴隷)」(1970年)
「先手必勝ですよ。京都のナイトクラブといえば伝説の「ベラミ」です。そこでのライヴ盤ですね。私のおじいちゃん、ラックスマン創業者の1人吉川錦治が持っていたんです。60年代終わりから70年代の日本らしい音ですよ。バシッとくる感じ」
まだシステムがどんな音か確認していないのに、いきなり勝負してきた。しかし後になればなるほど出しにくい音源だろう。猫だましのような奇襲だったが、真っ昼間の和室で漆黒のキャバレー感が出ているグッドサウンドだ。
さっき書いた通り、僕がこのオープニングを尊重せずに、たとえばオールマン・ブラザーズ・バンドの「ステイツボロ・ブルース」とかカッコイイ曲をかけて「このスライドギターが最高なんですよ」とか抜かしたら、三浦さんの立場はない。レコードプロレス的には僕が反則負けとなる。
■後攻:田中「なのにあなたは京都へゆくの」チェリッシュ(1971年)
後半場合によっては有りかも知れないと一応持って来たレコードを取り出した。なお、今回僕が持参したレコードのすべては7インチシングルだ。理由は単純。12インチを大量に持ってくるのは重く、京都でレコードを買って帰る気にならない状態はイヤなのだ。
京都「ベラミ」のライヴが来たら、ご当地ソングで返すしかない。音の良さで勝負するわけではないが、この時代の国内盤はゴージャスな音で作られていて部屋ではうまく鳴った。
ここで筑井さんが「チェリッシュって知らなかったです」と言い放ち、ジェネレーション・ギャップを痛感。「チェリッシュって2人ではなく5人だったんですね」ならまだわかるのだが。
■三浦『Marquee Moon』Television「Marquee Moon」(1977年)
ここからいつもの三浦さんになった。「聴きたかったという意味ではテレヴィジョンの『マーキー・ムーン』。クラッシュやピストルズはリアルタイムだったけど、これをよく聴いたのは後からで、高校から大学1、2年の頃かな。内面的で理屈っぽくて、ひとひねりした感じが好き。和室で聴くなら、これが大学時代に住んでいたアパートの和室と重なるんですよ」
音楽はそのときの個人的体験とオーバーラップするとまた違った色彩を帯びてくる。これは誰かと共有できなくてもいいし、むしろしたくないとすら思う。
■田中「More Than a Feeling」Boston(1976年)
このシステムで聴いてみたい。同じ意味で僕はボストンを選んだ。ギターやコーラスの広がりがどう出るか。そして三浦さんがテレヴィジョンを大学時代に聴いたのなら、僕はこの曲を中学時代に盛んに聴いた。
「この曲は高校のときのバンドのドラマー、いまうちの経理をやっているんですが、彼がボストン大好きで、やろうやろうと盛んに言っていたんです。でも実現しませんでした。誰がこんなハイトーンで歌えんねんということです」
■三浦『Doot-Doot』Freur 「Doot-Doot」(1983年)
「このレコードは和室に合うんじゃないかな」と三浦さんが取り出したのはUKニューウェーブバンドのフルール。「これが唯一のヒット曲で、高校のときに友達から教えてもらったんですけど、さほど売れなかったためレア盤になってしまいました。国内盤が出ていなくてCDもLPも手に入らなかった。レコード屋いくたびにずっと探していて、アムステルダムの老舗ショップ『コンセルト』でようやく見つけました」
これはまったく知らない。この時代、類似バンドがたくさんあっただろうが、録音が抜群にいい。これまでかけたレコードのなかでは、部屋やシステムと最高にマッチしている。京都の呪縛を逃れて、いい音で攻めてきた。
■田中「Little Wing」Jimi Hendrix (1971年)
となると、こちらも別角度からいい音で反撃したい。ジミ・ヘンドリックスのLP『イン・ザ・ウエスト』はいい音なので、そこからのシングルも間違いないと思って買ったUKシングルだ。A面の「ジョニー・B.グッド」ではなく、その裏、ご存知「リトル・ウイング」をかける。
「『リトル・ウイング』持ってこようかと思っていたんですよ。これは素晴らしい。スタジオ録音と音が全然違う。『イン・ザ・ウエスト』買おうかな」三浦さんは、学生時代のバンドではギターを担当していただけに、もちろんギター好き。伸びのあるストラトキャスターの音に痺れているようだったので、しめしめと思っていたら別種のいい音を仕掛けてきた。
■三浦『The Trinity Session』Cowboy Junkies 「Misguided Angel」(1988年)
「教会にマイク1本立てて録った凄い音です。でもスローな曲が多くてグリップが効いたベースを聴いてもらう感じじゃない。ちょっとオーディオショーではかけづらいなあと思っているんです」
僕はその説明を意外に思った。オーディオ好きの間では優秀録音盤として知られている。エアータイトのブースでかければ絶対ウケるはずだ。実は三浦さんはそういう知識を得てから手に入れたのではなく、リアルタイムで発売時に買っていた。
しんみりと聴いてしまい、全部持って行かれた。このムードを打破するには、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズでドカーンと行こうと思っていたが、もっと暗く行くことにした。
■田中「ぼくたちの失敗」森田童子(1976年)
これは10年も前にオーディオショーでかけて、その場の空気が心もとない感じになった経験があり、それこそかけづらい、というか以来封印しているレコードだが、京都の奥座敷ではドンピシャだったように思った。
まず反応したのは編集の筑井さんだった。「これはやばい。背筋をただして聴きました。わたくし的には少女マンガのイメージなんです。竹宮惠子の耽美な世界」
僕にはまったく何を言っているのかさっぱりだったが、音楽を聴いて心の底に眠っている何かがぽっと出てきたり、思い出が浮き上がったりしたら最高の状況といえる。
三浦さんは「手嶌 葵が影響を受けている感じがしますね」と現実的な鋭い意見を述べた。そういう意味では、この技は三浦さんには通用しなかったのかもしれない。
ここで一息入れましょうとなって、階下のカフェに戻りコーヒーを頂戴する。ここのブレンドは焙煎の深さやキレ、濃さがかなり自分の好みだ。カートリッジを買いに来たお客さんが、ついでにコーヒーでも飲むかみたいな感じじゃない。
■ここから後半戦!
■三浦『One For The Road』Kinks「Celluloid Heroes」(1980年)
余韻が強い森田童子でコーヒーブレイクを挟んだのは良かった。三浦さんはムードを変えて大御所キンクスを出した。「これはちょっと触りだけでも聴きたいと思って持って来ました」
触りだけではもったいないほど良かった。これは僕も持っていてよく聴いたレコードだ。改めていい演奏、いい曲だなと率直に思った。フォールに持ち込んだら返されて、逆にフォールされた感じの選曲。音がいいとか悪いとか関係なく、京都、座敷、そういうシチュエーションまでも忘れて埋没した。
ふと気がつくと番頭(実質店長)のDJ SHARKさんが後ろに立っていた。アンプが違うとどういう音になるか知りたかったようだ。「世界が違いますね。こんなに低音が出るんですね」と一言残して、名残惜しそうに店へ戻っていった。
■田中「Ya Ya(あの時代を忘れない)」サザンオールスターズ(1982年)
同じくキーワードを80年代ものとするならこれだ。「伊佐資さんからサザンが出たとは」と三浦さんは裏をかかれたような顔をしていたが、僕のなかでは「第三京浜・横浜新道・海・サザン」はワンパッケージ化された永遠の青春ソングだ。
ちなみにこの曲をレコードで聴こうとすると、このシングルしかない。そのありがたみもあって胸に響く。レコードプロレスとしては、ここらで一気にフォールに持ち込んだ気でいたが、最後の最後に三浦さんは得意技レッド・ツェッペリンを出してきた。
■三浦『Led Zeppelin II』Led Zeppelin「Ramble On」(1969年)
三浦さんはとにかくツェッペリンが好きで、過去の対戦でも必ず出していた気がする。「『II』で1番好きなのが、この曲です。父親の仕事の関係で小5から中3の春までニューヨークに住んでいたんですね。中2のとき日本語補習学校に通っていて、友達の山田次郎くんの家へ行って、聴いたのがこれです。ちょうど大嵐のようになってしまって、窓の外では大きな木がワサワサ揺れているのが見えた。その景色と曲が見事にシンクロして、これはもう忘れられないですね」
確かに嵐が吹きすさぶ情景は、この曲、特にサビの部分が映画のサントラようにうまく重なる。
本来ならば後攻の僕が最後に出して、今回のレコードプロレスは終了となるはずだが、ツェッペリンを超える大団円を任せるシングルが残念ながら見当たらないため幕引きとなった。
■「これが欲しい」と思わせる盤を多く出した方が勝ち!?
プロレスならここで勝ち負けをつけるのが本当だ。だが、多数決とか話し合いとかで白黒をつけるようなことでもなく、あのレコードが良かったねという穏やかなコメントで締めくくられるのが平和だ。
三浦さんは「びっくりしたのはサザンですね。高校のときは洋楽しか聴かないと鼻で笑ってましたけど、これは良かった。この場所、このシステムに1番合ってましたね」とのコメント。
僕は音楽に没頭してしまったキンクスが最高だった。うちに帰ったらすぐに聴こうと思った。勝敗は「これが欲しい」「また聴きたい」と1枚でも多く思わせたほうが勝ちということになるのかもしれない。
次の試合があるのか、ないのかも決まっていないが、トレーニングという名の仕込みは日々怠らずにやっていきたい。そしてその翌日、この2年間京都でオープンしたばかりの新しいレコード店を3つハシゴした。京都はいい店が実に多い。
■取材協力:Feel Records 京都はなれ店
場所:京都府下京区西酢屋町10
TEL:075-354-3888
mail:inquiry@feelrecords.jp
定休日:日曜日・月曜日
営業時間:9:30 - 17:30
(提供:エイ・アンド・エム)