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現代の最新技術で再構築した新300B

「300B」はなぜ“真空管の王様”と呼ばれるのか?ウェスタンエレクトリック流の矜持、復刻の舞台裏を探る

公開日 2021/12/05 07:00 岩井 喬
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■異例の「5年保証」を実現。品質の高さに自信あり

ウェスタンエレクトリック製品は信頼性、耐久性を重要視していることは前述したが、この新300Bも例外ではない。真空管としては異例の『5年保証』を謳っているのだ。トライオードではこれまでの真空管販売では1年保証としていたが、それも業界としては長めの設定であった。

比較的安価な他社製300Bでは1年もするとノイズが出るものもあり、音が出なくなるなどの致命的なトラブルではないものの、音楽再生では気になってしまう。しかしウェスタンエレクトリック300Bは5年という長さの保証を付けるというのは、それだけ製品の完成度、品質に自信があることを裏付けるものでもある。

新300Bでもベース部にシリアルナンバーが刻印されており、97年からの再生産同様、一本ずつにデータシートも添付。ウェスタンエレクトリックならではの製造年・週表示(取材時のサンプルでは“2152”、2021年52週目の生産を示す表記があった)もベースにプリントされているので、オリジナル品同士でも見分けがつけられるだろう。

製品に同梱される保証書と特性シート、取扱説明書

説明書も英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、中国語、そして日本語でも記載がされており、ウェスタンエレクトリックがユーザーをしっかりと認識しているスタンスが受け取れる。もし壊れてもその個体と似たデータを持つ製品を出荷してくれるそうであり、保証書の登録は必ず行っておきたい。国内ではトライオード宛てに保証書を送付すればよく、エレクトリと本国間で取りまとめ、シリアルが登録されるという。

高い技術力と伝統に息づく耐久性、モノづくりの姿勢を映す『5年保証』はまさに安心・信頼の証である。スペックに則った設計の範囲内で用いることで長寿命を実現できることもウェスタンエレクトリックならではのメリットである。オリジナル300Bとしては比較的安価とはいえ、なかなか手を出しにくいプライスではあるが、長い目で見ての信頼性、安定感という点でこれ以上の選択肢はないだろう。

既に国内に供給予定の第1、第2ロットは完売しているといい、第3ロット待ちという盛況ぶりであるが、それだけ新300Bへの期待が高まっていたという証拠に他ならない。『2021東京インターナショナルオーディオショウ』でも新300Bに注がれる熱いまなざしを何度も見かけることができたが、実際その音に触れることができた方も表現力の高さ、これまでとは一味違うウェスタンサウンドに驚かれたのではないか。

トライオードブースにて、300B・A級パラシングル方式のプリメインアンプ「TRZ-300W」へウェスタンエレクトリックの新300Bを換装した状態でデモをしていただいたが、しっかりと重心低くグリップするベースの弾力とスムーズな音伸び、直熱管ならではの開放的で音離れ良いボーカル定位の爽やかさ、潤いを実感。これまでのオリジナル品以外の300Bとは一味違う彫りの深さ、ステージの奥行き、音像の確固たる芯の強さ、ナチュラルなボディ感も味わうことができた。

かつてのオリジナル300Bが持っていた濃密な中域表現は幾分抑えられている印象であるが、迷いのない的確なステージ、楽器の描写力、ボーカルの逞しさは健在だ。何より付帯感のないワイドレンジな帯域感が素晴らしく、従来の300Bのサウンドとは一線を画す世界観である。またじっくりと向き合って聴いてみたいと思える素晴らしい体験であった。

今回のウェスタンエレクトリック300Bの復活は単なる復刻ではなく、時代に合わせたアップデートを果たした新規の300Bともいえ、オリジナルだからこその基本性能の高さをさらに上のステージへ引き上げた、別次元の完成度を誇るものとなっている。

かつてのサウンドの再来を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、これは現代の音楽事情を踏まえた懐古的ではない増幅素子本来の在り様を追求しているのではないか。その時代に相応しい最高のものを作り上げる “ウェスタンエレクトリック流の矜持” ともとれる新300Bへの取り組みの数々は、突き詰めていった300B本来の姿であるのかもしれない。

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