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オーディオにおけるDACって何?

今こそ知っておきたい「DAC」の基礎知識(前編) ー その役割や関連用語を解説

2017/09/19 山之内 正
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【Q5】DACにはマルチビットと1ビットのものがあるそうですが、それぞれどう異なるのでしょうか?。

デジタルデータをアナログ数値に変換する素子(ラダー抵抗など)を使用し、デジタル値の大きさに応じて重み付けされたスイッチング素子からの出力を組み合わせ、最終的なアナログ出力を取り出す方式のDACをマルチビット型と呼びます。基本的にPCM信号の原理通りの動作なので仕組みは理解しやすいものの、現在はマルチビット方式のDACは非常に数が少なくなってしまいました。


その理由は、高精度なDACをマルチビット方式で作るためには技術的な制約とコストの壁が存在することにあります。低ビット領域では最大電圧の数万分の1またはそれ以下の微小な電圧で正確にスイッチングを行う必要があり、そのような高精度な素子を作る半導体プロセスには技術的な困難が伴います。16bitのDACでも十分な精度を確保するのはかなり難しくなりますが、24bitではその難易度は飛躍的に高くなります。代表的なマルチビットDACとしてバー・ブラウンの「PCM1704」がありますが、現在はそれを置き換えるようなマルチビット型のDACはほとんど登場していません。

そうした背景から登場したのが1bit型のDACです。ΔΣ変調(デルタシグマ変調)<※後編のQ6で解説>と呼ばれる処理によってPCMの離散的なデジタル信号を1bitの疎密波に置き換えて、その信号から高域のノイズを除去することによってアナログ信号を取り出すことに特徴があります。

0と1だけで構成される1bit信号で音楽の複雑な振幅や音色の違いをどうやって再現するのか、疑問に思うかもしれませんが、ΔΣ変調という手法でサンプリング周波数を十分に高く設定すると、微小信号領域から大信号の領域まで、原信号に対して忠実な再現ができる可能性を秘めています。

また、別項で紹介したデジタルフィルターのオーバーサンプリングやアップサンプリング、そしてノイズシェーピングなどの技術を組み合わせることによって、最終的にはアナログFIRフィルターと呼ばれる比較的シンプルなローパス(低域通過)フィルターを通すだけでアナログの音楽信号を取り出すことができ、変換プロセスをシンプルに設計できるメリットもあります。

最新の高性能なDACの一部は、上位ビットをマルチビット型、下位ビットを1bit型という具合に2つの方式を組み合わせることによって、基本性能を飛躍的に高めているものもあります。ΔΣ変調方式は下位bitの微小信号領域でも比較的リニアな変換ができるため、S/Nや歪率などの基本性能を確保しやすいなど、いくつかの利点がありますが、設計には独自の技術とノウハウが必要で、ハイエンドオーディオ機器などに採用する例が中心を占めます。

(後編へ続く)

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