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<IFA>山之内 正が見たIFA2013 ー 高画質ディスプレイの未来像が見えた各社4K展示

2013/09/17 山之内 正
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9月11日に閉幕した今年のIFAは各分野で注目すべき製品や技術が多数公開され、例年に劣らぬ見応えのある展示に接することができた。全体を通して強い印象を受けたのは、昨年以上にクオリティ志向が各分野で強まっていることだ。

映像の例で見ると、この数年は3Dやスマートテレビなどどちらかと言うと機能面での新機軸が注目される傾向が続いたが、今年は各社が高画質に展示の照準を合わせ、4Kを中心にした最先端の映像を紹介した。また、オーディオ機器はハイレゾ対応をアピールする製品が増え、高音質が重要なテーマに浮上している。

4Kとハイレゾオーディオ、クオリティ志向を象徴するこの2つのテーマを中心に今年のIFAを振り返ってみることにしよう。今回はまず映像関連の注目機を取り上げる。

大きな意味を持つ、パナソニック4K参入

IFAのデジタル家電メーカーのブースでは今年もテレビが主役を占めていたが、いつもと違うのはその画質だ。昨年は84型など一部のサイズの4Kテレビを特設コーナーに展示し、メインの展示はフルHDが中心だった。一方、今年は4Kテレビが複数のサイズで登場し、数も圧倒的に多い。なかにはパナソニックのようにブース前面のメイン展示が4Kに格上げされている例もあった。圧倒的に精細感が高い画面が最初に目に入るので、足を踏み入れた瞬間の印象が従来と違う。きつさがなくなめらかで質感に富んでいることに、離れた位置からでもすぐ気が付くのだ。4K映像は近付いた時に画素が見えない点に注目しがちだが、距離を置いたときにも大きな違いを生むというのが興味深い。

パナソニックは4Kテレビをブース入口に並べて高精細映像のメリットを強力にアピールした。

フルHDとネイティブ4K映像の比較コーナーは多くの来場者が熱心に見入っていた(パナソニック)

家庭用4Kテレビの市場にパナソニックが新たに参入した意味は大きい。Display Port1.2aとHDMI2.0の両方に対応して4K/60P入力をサポートした機能面での新機軸を別にしても、TX-L65WT600は画質自体が4Kテレビとして高い完成度を獲得している。特に4Kフレームクリエーションがもたらすなめらかな動きは映像自体の質感を引き立たせる効果があり、同技術を採用した他のサイズが登場するのが楽しみだ。

4Kフレームクリエーションは60P映像のデモとともに顕著な効果を見せ、高精細と動解像度の高さが不可分であることを実証した(パナソニック)

画面サイズの拡大や高精細テレビの需要の高まりなど、4Kテレビを取り巻く環境を考えると、今年のIFAは同社にとって4K導入のギリギリのタイミングだったと言う気がする。来年のIFAでは4Kが目を引く技術ではなくなってしまうだろうし、年初のCESでさえ出遅れ感が否めない。今回のIFAに4Kテレビの発表を間に合わせることは至上命題だったのではないだろうか。パナソニックはこれを契機に高画質テレビの開発をさらに加速させて欲しいものだ。

次の焦点は4K有機ELテレビの商品化タイミングだが、それについては今回のIFAではまだ答えは出ていない。ただし、展示されたプロトタイプの映像を見る限り、階調や色バランス画質の追い込みはかなり進んでいるという印象を受けた。

ラインナップ拡大で4K導入の敷居を下げたソニー
50型という新領域に挑戦した東芝


すでに4Kテレビで実績を積み上げているソニーと東芝は、既存のラインナップを拡大して、4Kのメリットをより具体的に提案。ソニーは65型と55型の新シリーズ「X85」を導入し、筐体サイズと価格の両面で導入の敷居を下げる努力を行った。会場の明るさで見る限りは黒表現にも不満は見当たらず、上位機種からの画質の低下はほとんど気にならない。アンダースピーカーに変更されたことで本体の横幅がかなり短くなっているので、スペースの制約で導入をためらっていた人は本シリーズの登場を歓迎するはずだ。

ソニーは現行モデルの姉妹機となるX85シリーズを導入。これは55型モデルのデモ映像。

4KプロジェクターのVPL-VW500ESはVW1000ESの基本設計を可能な限り継承しつつ、オートキャリブレーションなど画質向上に直結する新機能を載せた注目機だ。会場ではVW1000ESとの直接比較はできなかったが、筆者が記憶しているVW1000ESの映像と比べる限り、レンズ性能とコントラスト値の差を意識させるようなことはなく、むしろVW1000ESの映像に肉薄するクオリティを実感することができた。

VPL-VW500ESのレンズ部を拡大。前玉の口径がVW1000ESに比べてひとまわり小さくなっていることがわかる。

黒の沈み込みの深さはきわめて高水準だし、レンズのコントラスト性能も高い。「Reality Creation」の4K超解像アルゴリズムについてもVW1000ESとの差はないようで、ディテール再現と質感表現のバランスをていねいに追い込んでいることがわかる。本体は約6kg軽量化されているし、前面排気に変更したので壁面に近付けて設置できるなど、導入のしやすさとオートキャリブレーション機能の使い勝手の良さではVW1000ESを明らかに上回る。特に後者はVW1000ESのユーザーから見ても羨ましい限りだ。

東芝は参考出品ながら50型という新しい領域にチャレンジしたことが注目を集めた。4Kのメリットが実感できる下限サイズについては議論があるが、視聴距離が近い環境では50型にもメリットがありそうだ。会場では他のサイズの4Kテレビとの比較のみで、同じサイズ同士でのフルHDモデルと見比べることはできなかった。機会があればじっくり比較してみたいテーマである。

東芝は50型という新しい領域にチャレンジしたモデルを参考出展


韓国メーカーも4Kをアピール
カーブドパネルモデルが増えたのも特徴


画質志向の強さは日本メーカーだけではない。有機ELを中心に日本メーカーとは微妙に異なる立場からテレビの高画質化を牽引している韓国メーカーも、今年は全面的に4Kの高精細映像をアピールしていた。

サムスンは65型の4K液晶テレビでもカーブドパネルの製品を出展。

こちらはサムスンの4K有機ELテレビ。やはりカーブドパネルの魅力を積極的にアピールしていた。色とコントラストをかなり強調した素材が多く、画質の判断は難しい。

臨場感の向上という視点から注目に値する動きとして、カーブドパネルを導入した製品が一気に増えたことも興味深い事実だ。LGが77型の4K有機EL、サムスンが65型の4K有機ELと4K液晶テレビでそれぞれカーブド型を出展するなど、4Kとカーブドパネルの組み合わせが生むメリットをアピールし、注目を集めていた。それ以外のサイズでも積極的に商品化を進めているようだが、その背景にはどんな理由があるのだろうか。

LGはひとまわり大きい77型の4K有機ELテレビでカーブドパネルの魅力を紹介。

プロジェクターとスクリーンを組み合わせるホームシアターではアナモフィックレンズの球面形状に最適化したカーブドスクリーンがすでに実用化されていて、一部のハイエンドホームシアターに導入されている。ホットスポットの発生がなく、迷光の影響を受けにくいなど、スクリーン投射につきまとう課題を解消できる効果もあり、その効果は予想以上に大きい。特にサイズの大きいシネマスコープスクリーンと組み合わせたときの遠近感と臨場感は格別なものがある。

一方、テレビの場合は中心部と周辺部で目とパネルの距離の差がなくなることの効果が大きいようだ。カーブドパネルの映像を正面から見ると、周辺部に映っている背景までもが手前に浮かび上がってくるような独特の見え方になり、慣れるまではかえって違和感を感じることもある。

だが、次第に目が慣れてくると、カーブドパネルの方がリアリティが高く感じられ、画面全体から受けるインパクトがいっそう強くなることもたしかなのだ。長時間見続けたときの影響は実際に検証してみないとわからないが、この効果は少なくとも店頭などではかなりのインパクトがありそうだし、一人でシアタールームを独占できるような環境では人気が出そうな気がする。LG、サムスンともにカーブドパネルを採用した製品は北米で人気が高いとコメントしていたので、環境によっては意外に浸透するかもしれない。

ただし、日本市場でも同様な人気が得られるかどうかについてはやや疑問に感じた。一般的なリビングの視聴環境ではフラットタイプの方が明らかにサービスエリアが広く、家族で見るときにも自然な映像を楽しむことができる。パーソナルな環境には良いかもしれないが、その場合は画面サイズが小さくなりがちで、カーブドパネルのメリットは相対的に小さくなってしまうはずだ。ソニーもカーブドパネルの液晶テレビを参考出品していたが、日本での需要はかなり限定されるというのが私の見方だ。

   ◇   ◇   ◇   


ここまでテレビを中心に今年のIFAの展示動向を振り返ってきた。4Kを原動力に高画質志向が強まる傾向は、4K放送が始動する来年以降、さらに本格化するとともに、4Kテレビの低価格化も加速することが予想される。高画質ディスプレイの未来像はIFAの展示を通して明確に浮かび上がりつつある。

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