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【追悼】ジョブズ氏がAV機器に革命を起こした「この10年」を振り返る

2011/10/06 編集部:風間雄介
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■両輪の片側、ソフトウェア「iTunes」の魅力

さて、iPodが成功したのは、ハードが魅力的だったからだけでは、もちろん無い。コンパニオンソフトである「iTunes」の完成度の高さは、iPodの初期モデルの時点から群を抜いていた。

最近では状況が変わりつつあるが、少し前までは、楽曲やプレイリストを管理するのはもっぱらPC/Macで、iPodはそれを再生するための機器に過ぎなかった。楽曲管理ソフトの重要性が非常に高かったが、iTunesは美しく使い勝手の良いユーザーインターフェースや機能の豊富さで、他社製ソフトを大きく凌駕していた。

iTunes 7。映画の配信などを開始した

これは、アップルがもともとパーソナルコンピュータのメーカーであったことと無関係ではない。AVメーカーの多くが、iPodに近いハードウェアを作ることができたが、ソフトでは後塵を拝す状態が長く続いた。ハードとソフトは車の両輪とよく言われるが、ジョブズ氏は早い段階からその重要性を理解していたに違いない。

■「iTS」で世界ナンバーワンの音楽配信業者に

もう一つ、iPodが大きな人気を得て、アップルが一頭地を抜く存在となった背景として、2003年4月に米国でスタートした「iTunes Music Store」を忘れてはならない。

1曲99セントという当時としては常識破りの価格、また枚数無制限のCDに楽曲を記録したり、台数無制限のiPodに同期できるという、これも画期的な利便性とシンプルさがユーザーを熱狂させた。

さらにはメジャーレーベルが最初から集まり、スタート当初から20万曲という大きなライブラリを提供できたこと、また当時の「iTunes 4」に組み込まれており、購入からiPodへの同期をシームレスに行えることなど、ヒットする要素が満載だった。

その後iTunes Music Storeは、米国の若者を中心に爆発的な人気を博すことになった。競合サービスも多数登場したが、登場から2年半で、米国内の音楽配信サイトのうち82%のシェアを持つまでに至った。

なおiTunes Music Storeは2005年8月4日に日本でもスタート。当初から100万曲を用意し、ジョブズ氏自ら来日してアピールするほどの力の入れようだったが、瞬く間に人気を得て、4日間で100万ダウンロードを記録した。

アップル、「iTunes Music Store」を日本でスタート 100万曲を用意し1曲150円から (2005年8月4日)
「iTunes Music Store」日本版が4日間で100万ダウンロードを突破  (2005年8月8日)

一方で、楽曲を1曲単位の「バラ売り」で購入可能にしたiTunes Music Storeは、アルバムなど複数の楽曲を組み合わせて1つの作品を作り上げるアーティストに、作品作りへの再考を促すことにもなった。

また2005年10月にアップルは、動画再生対応のiPodを発売。同時に音楽PVなど動画コンテンツの販売も開始した。2006年からは映画やテレビドラマのエピソードも販売しており、iTunes Storeの存在感は、この分野でも非常に大きい。

アップル、動画再生対応「iPod」を発売−音楽PVなど動画コンテンツの販売も開始 (2005年10月13日)
米アップル、「iTunes 7」を公開 − VGA解像度の映画をダウンロード販売 (2006年09月13日)

またiTunesを筆頭にした音楽配信が隆盛を極める一方、リアル店舗の売上げ減が深刻化。2008年には、名称を変えた「iTunes Store」が、全米1位の音楽小売業者となったが、その陰で多数のソフトショップが廃業や身売りを余儀なくされた。

iTunes Storeが全米ナンバーワンの音楽小売業者に (2008年04月04日)

■iPodでエコシステム構築の方法論を確立

iPodは、iPodドックスピーカーを初めとする周辺機器メーカーとの共生関係、いわゆるエコシステムを作り上げた最初のAV機器だった。これにチャレンジしたメーカーは他にもあったが、これを大規模に実現し得たのはアップルのiPodだけだった。ここにジョブズ氏の非凡さが伺える。

一時期を除いてアップルはiPod用スピーカーを販売せず、他メーカーにライセンスを付与して開発を委ねた。これにより多数のメーカーが切磋琢磨することになり、競争が本格化することで、商品もより洗練されていった。また周辺機器が増えることで、iPodがさらにその強さを増すことにつながった。

エコシステムを重視して丁寧に構築する方法論や手法はiPhoneやiPadなどにも受け継がれており、ジョブズ氏のビジネス手腕の見事さを表す好例と言えるだろう。

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