編集部 今回、日立さんから依頼を受けて画質検証用デモ映像を作られ、それを試写に使ったわけですが、それはどんな狙いの映像だったのですか?

松山 技術的に基準になるような映像です。屋内撮影で照明をコントロールすることによって、どの白も飛ばさない。通常はカメラの絞りを使うんですが、今回は時間をかけてライティングでハイライトを抑えています。内容は違うんですが、テストパターンにあるカーネンションガールのような映像と思っていただければいいと思います。
企画当初はフィルム撮影も考えたんですが、ハイビジョン時代の基準を念頭に置きましたので、HDのテレビシステムで撮影しました。機会をいただければ次はフェイストーン(顔色の階調表現)に絞った映像も作りたいと考えています。テレビ映像ではフェイストーンを明るくしてしまう傾向がありますから。


「撮影時に狙った映像をそのまま表現できるか」をコンセプトに松山氏が画質検証用映像を撮った。日立の設計陣も現場に。(スタジオぎえもんにて)
新ガンマイコライジング調整
前作PJ-TX100Jよりも黒側階調の調整範囲を12.5%から2%まで拡大させた。・があたらしく採用した低階調の2%ポイント
清水(正) そういう意味で今回追加した「ファンタジーモード」でも、夜のシーンは夜っぽく見せるように、低階調の明るさは明るくしていますが、そこから中間までの明るさを抑えるなどガンマ特性に工夫をしています。

松山 日立は前作からガンマ補正機能を採用し、ユーザーに開放していて、今度は9ステップになりました。それは、さっきの光学系とかデバイスの問題と大きく関係していますか?

森下 一番大きいのは、低階調側調整を可能にしたいということです。低階調の表現力を上げようと思うと、イコライジングの一番下の階調を調整することとなりますが、TX100では一番下の階調が12.5%になっていたので、そこを一生懸命上げても、大元の暗いシーンの明るさはほとんど変わらないんです。そこを上げる手段としては、ブライト(明るさ)を上げるしかない。そうすると、どうしても黒が浮いてしまうので、それを何とかイコライジングでもう少しカバーしたいと考えました。

清水(正) 調整する階調は、松山さんの撮影に同行させていただいたときに、黒は0%ではなくて2%ぐらいというところからヒントを得ました。その2%ぐらいから調整できるようにすれば、もう少し暗部側の階調を制御できるようになり、画作りにこだわる方の要望にも応えられるのではないかなという意味で、一番下の2%という数値を設けました。

松山 どちらにしてもペデスタル(映像信号において、輝度の基準となるレベルのこと)の黒は動かせないから。

清水(正) ペデスタルの黒を動かしてもよかったんですが、アイリスで黒を沈めよう沈めようとしているのに、回路側で黒を上げてしまうと、画的に何も面白くない画になってしまいます。そこで、黒ではなくそれよりもちょっと明るい階調を調整できるようにガンマ調整ポイントを追加しました。

松山
 どのようにしても黒は結局変動がありますから。デジタルだからそういう変動はないとは言っても、やっぱり変動はある。まあ、2%というのはアナログ放送機器の原則みたいなものです。でも、2%から動かせるというのは本当に画期的なことですね。デジタル時代ならではのことですが、よほど自信がなければできない。

清水(正) ありがとうございます。

松山 ということで、デモ映像が機器設計の役に立てば本当にうれしいと思います。

清水(正) 調光があるなしにかかわらず、低階調からピークまである画という素材はなかなかないので、今後開発するモデルの画作りにも使用させていただき、更なる画質向上を目指したいと思います。

松山 期待しています。

新しいD5パネルを得て、今秋からの720pクラスのプロジェクターは激戦になる。その中にあって、現役製品TX100でレンズ性能および画質評価で専門家による高い評価を受けた日立が、いよいよシェア拡大に向けて動き出した。

新製品TX200はこのクラスでぴか一のレンズをTX100から受け継ぎ、更に各種収差を押さえ込んで、ハイビジョンをも満足させる解像度の高さを実現した。また、コントラスト比拡大についても照明系にアクティブアイリス機構を新設し、レンズアイリスとのデュアル制御によって大幅な改善を図っている。

私の個人的意見としては、業界の数字競争にあまり関心がない。なぜなら、競争のための競争であるなら、数字を大きくすることは可能だからである。それよりも、パネル自体のコントラスト不足を見た目に気付かせぬ程度に助けてやるのが本来の目的だからだ。その意味でTX200の「効きが弱いモード」のアクティブアイリスの映像はひじょうに良い。

ただ、何よりも私がTX200に感服しているのは、設計陣がホワイトバランスのトラッキングに最大の努力を傾けているところだ。その基本になる色付きのない黒を確認できたことも心強い(松山)。