マランツ「MCR60n」を聴く。小さなボディ、洗練されたデザインが奏でる進化した“一体型”の音
“一体型” の範疇を超えたサウンドをCD、Qobuzで体感
最初にCDで聴いたのは、藤井 風の『Prema』(UMCK-1798)。2025年9月5日に発表された3枚目のスタジオアルバムで、全9曲を英語詞で歌っている。再生が始まった瞬間、筆者が想像していた枠はあっさりと壊れた。
聴感上のS/Nが高く、中高域には透明感がある。一方、音色には適度な色彩感も備わっており、ボーカルからは柔らかさと艶、そして力を抜いた発声の奥に潜む色気まで感じられる。地声からファルセットへ移る際の滑らかな変化もしっかりと追える。この表現力こそ、藤井 風が高く評価される理由の一つだと思うが、こんな小さな筐体の製品から、それがきちんと伝わってくる。
現代の楽曲では、低音域をどう鳴らすかも重要だ。MCR60nはキックドラムの立ち上がりが速く、ベースも重量感を保ったまますっと止まる。65W+65Wという数字だけで音を語るつもりはない。しかし、電源とアンプを強化した本機が、比較的能率の低いブックシェルフスピーカーをしっかりと制動していることは分かった。
すでに筆者の中から、「一体型だからこの程度」という遠慮が消えていた。ならば、アコースティック楽器はどうだろう。音色の良さに誘われ、ヨーロピアン・ジャズ・トリオの『ヨーロピアン・コンフォート』(PCCY-30252)をトレイに入れた。本アーティストにとって10年ぶりのアルバムで、ビートルズ、スティング、エルトン・ジョン、プリンスなどの名曲をピアノ・トリオ編成で聴かせる。
マーク・ヴァン・ローンのピアノが、美しい旋律を歌わせる。鍵盤を押した瞬間の芯だけでなく、その周囲に生まれる余韻まで見えてくる。フランス・ヴァン・ダー・ホーヴァンのベースは音離れがよく、低音が膨らんで演奏を曇らせることもない。
ロイ・ダッカスのドラムも、ピアノの余韻を邪魔せず、必要な瞬間にすっと前へ出てくる。ここでもMCR60nは聴感上のS/Nがとても高く、小さな音の表情を埋もれさせない。一体型機としてのノイズ対策が成功しているのが聞いていてわかる。気がつけば試聴していることを忘れ、音楽に浸っていた。
ここまで来たら、限界を試したくなる。ストリーミングサービスのQobuzからQobuz Connectを利用し、ヤクブ・フルシャ指揮、ORFウィーン放送交響楽団による「カベラーチ 交響曲第2番 序曲第1番 第2番」を再生した。冒頭から金管と打楽器が一斉に立ち上がる。強い。行進するようなリズムが部屋へ踏み込み、その合間を縫うように奏でられる木管と弦の叙情的な旋律もしっかり聴き取れる。
サウンドステージは左右へ大きく広がり、前後の位置関係も明瞭。弱音では背景が静まり、オーケストラが再び膨れ上がると、そのダイナミクスの変化にもきちんと追従する。率直に書けば、小型一体型機の音場を聴いているという感覚はほとんどない。
最後は筆者のiPhoneをBluetoothで接続し、SpotifyのMV(ミュージック・ビデオ)から、マドンナとカイリー・ミノーグの『ラヴ・センセーション アフターアワーズ ミックス』を再生した。2026年8月6日にワーナー・レコードから発表された6分14秒の共演曲で、スチュアート・プライスがプロデュースを担当している。
ここではスマートフォンにミュージックビデオを表示し、音はMCR60nから再生する。透明感のあるシンセサイザーが広がり、重量のあるベースが床を押す。スマートフォンの画面で映像を楽しみながら、音だけは本格的なスピーカーから浴びる。これは実に今らしい聴き方だ。
もちろん、CDやストリーミングサービスをダイレクトに再生した時と同等の音質とはいかないが、Bluetoothは接続が速く、「聴きたい」と思った瞬間にパッと音を出せる。この手軽さは大きな魅力だ。
次に、前面端子へ手持ちのスタジオモニターヘッドホンを接続した。当然、単体で販売されている専用ヘッドホンアンプとの能力差はある。それでも背景は予想以上に静かで、音像が痩せず、低域にも十分な駆動力がある。3段階のゲイン切り替えにより、ヘッドホンに合わせて調整できる点もいい。
さらにBluetooth送信へ切り替え、ワイヤレスヘッドホンでも先ほどの曲を聴いた。ケーブルの煩わしさがないメリットを活かし、ソファにくつろぎながらのんびり音楽を楽しめる。
操作性も良好だ。本体と付属リモコンでは、再生や曲送り、ボリューム調整などの基本操作が可能。詳細な設定やストリーミングサービスの再生などはHEOSアプリから行える。
ちなみに、今回新たに実装されたSmart Select機能では、入力ソースやSpotifyのプレイリスト、音量、サウンドモードなどを最大4件まで保存できる。本体、リモコン、HEOSアプリから一度で呼び出せるため、朝イチの音楽から夜のテレビとの連携まで、生活のルーティンに合わせたスムーズな操作が可能だ。
MCR60nは本物のHi-Fiクオリティを備えた“頼もしい一体型オーディオ”
いかがだっただろうか。上述した通り、歴代のM-CRシリーズは大ヒットモデルとなっているが、その中で、さらにプレミアムなモデルを望む声もあったという。
しかし、小さな筐体でHi-Fiクオリティを実現するのは簡単ではない。そのため、マランツも発売には慎重だったそうだ。ところが近年、「HD-AMP1」や「PM-10」から継承してきたクラスDアンプの技術や、そこに搭載できるデバイスの性能が向上。ノイズ対策を含め、コンパクトなオールインワンのサイズに妥協のないHi-Fiクオリティを実装できる目処が立ったことで、MCR60nの企画がスタートしたという。
箱を開けた時、筆者はまずそのデザインに息を呑んだ。しかし、一日聴き終えた今、心に残っているのは見た目だけではない。MCR60nには、現代の主要な再生ソースをほぼすべて受け止める接続性がある。そして何より、音楽へ入り込ませてくれる、本物のHi-Fiクオリティを備えている。尾形氏によれば、「オーディオ機器では、背景の静けさや透明感といった要素に、カテゴリーや価格帯、投入できる物量による差は出る。しかし、追求しているもの自体は同じ」だという。
頼もしいじゃないか。
その先の音の世界を求めるなら、単品コンポーネントの世界へ進むことになる。しかし、このサイズで、これほど多くの音源を受け止め、ここまで音楽を熱く鳴らしてくれる。
MCR60nの音質と機能、その完成度の高さは、一体型オーディオの一つの完成形と呼びたくなるほどだ。結果としてコストパフォーマンスも驚異的であり、購入後に得られる満足感は、かなり大きなものになるだろう。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)

