技術と音楽的感性の結晶。aurenderの“戦略モデル” 最新ネットワークプレーヤー「A1000」を聴く
2010年に創業し、独自の設計思想でネットワークオーディオの市場を開拓してきた韓国・aurender(オーレンダー)。「A1000」は、同社の最新の知見を活かしながらも、60万円という戦略プライスを実現したネットワークプレーヤー。ネットワーク再生の新たな台風の目として、日本市場でも驚きを持って迎え入れられた。そのサウンドを角田郁雄、小原由夫両氏が徹底検証する。また操作アプリの最新バージョン「5.1」もコラムにてご紹介!
ハード・ソフトともに自社開発できる技術力(角田郁雄)
私は、ハイレゾオーディオにいち早く着目し推進してきた。2005年頃からである。2000年代後半はバブルの崩壊やリーマンショックなどの影響でSACDの発売が激減。CDは廉価盤ばかり。これではオーディオはダメになるなと思い、当時、録音やマスタリングにも関わっていたことから、スタジオクオリティのハイレゾ音源を、ホームオーディオでも再生できるようにしようと考えた。
しかし当時は、パソコン接続のUSB再生が主流。ネットワークプレーヤーはNASやLANの設定が難しく、取り組みにくい再生方式であった。
そんな折に登場したのが、2010年創業のオーレンダーである。同軸や光入力しか装備しないDACをハイレゾ再生にも活かすべく、独自技術によるストレージ内蔵のネットワークプレーヤー/トランスポートの製品群を進化させてきた。
DLNAサーバーとする考えは当初からなかった。それはDLNAの常時通信が、ネットワーク再生の音に悪影響を与える、という考え方によるものだ。私はその考えに共感した。何故ならPCイメージが薄れ、洗練されたオーディオに近づいたからである。
オーレンダーの理念としてもう一つ重要なのは、「キャッシングサーバー」という考えである。一旦、大容量メモリに収容し、ゆっくりと高精度クロックで同期するCPUでデジタル処理し、高精度なデジタル信号をDACに出力することで高音質を実現したのである。この技術は、現在に至るまで受け継がれている。
楽曲管理や再生操作がスムーズに行えるモバイルデバイス用アプリも自社で専用開発している。これは現在も進化する「aurender conductor」である。
そして忘れてはならないことは、オーレンダーはハードウェア・ソフトウェア共に自社開発・自社生産していることにある。パソコン汎用基板などは一切使ってはいない。
ハイエンドで精密感のある内部構造
同社は今年、SSDストレージ搭載可能なネットワークプレーヤー「A1000」を発売。約60万円という魅力的なプライスもあり、世界的に高い評価を受け愛用者が増えているところである。
2.5インチSSDストレージベイを装備し、最大8TBまで搭載可能。専用アプリによるストリーミング再生への対応力はもちろん、旭化成のAKM4490REQを左右に各1基デュアルモノラルで使用したハイエンドなDACも装備する。
スタイリッシュな外観デザインであり、内部技術も実にハイエンドで精密感がある。内部構成としては3分割。CPU処理部、LANやUSBなどを制御するデジタル処理部、DAC/アナログ回路が区分されている。
とりわけ、CPU処理部は重要で、メインCPUには高速処理を実現するQuad-core 2.0GHz CPUを搭載。音質に影響するキャッシュメモリは120GB。これは大量である。
電源部も、この構成で3区分され、トロイダルトランスを3基使用するリニア電源を搭載。出力も可変できるので、パワーアンプにダイレクト接続も可能である。
技術を反映させた、説得力のある上質な音楽
その本機の音質は、搭載技術が大きく反映している。極めて空間描写性が高く高解像度である。
特に分かりやすいのはヴォーカル曲で、声使いや声質を鮮明にするため、生演奏のような感覚に陥る。弦楽曲でも響きがシャープにならず、胴の響きを豊かに再生してくれるところが魅力。豊潤な倍音を再生しダイナミックレンジが広い。
しかし、本機の最大の魅力は、スペック的なオーディオ特性を忘れさせるほどの説得力ある上質の音楽を再生してくれることにある。
ずっと聴いていたくなる、心に響く、浸透力のあるハイエンドモデルとしてのナチュラル・トーンが背景にあるように思える。再生アプリも使いやすく、長く愛用できる佇まいがある。
本機は、冒頭の開発ポリシーで培ってきた技術を凝縮したモデルであり、ストレージ内蔵のネットワークプレーヤーであるため、別途オーディオサーバーを必要とせず、LAN環境をシンプル化できることも特徴である。
まさにリーズナブルなハイエンドモデルであり、オーディオマインドを掻き立てるところがある。これからもネットオーディオを牽引していくことであろう。
