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PRモノラルDAC「Grandioso D1X SE」と組み合わせ

エソテリックが到達したネットワーク再生の極み。旗艦トランスポート「Grandioso N1T」を聴く

公開日 2025/07/18 06:30 角田郁雄
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最新のネットワークエンジンと機能を投入!

今日、私はエソテリックのリスニングルームに来ています。いつもながら感じることは、それぞれのモデルが整然と設置され、音楽の彫刻というイメージが漂ってくることです。その代表は、もちろんフラグシップモデルGrandiosoシリーズです。

ESOTERIC ネットワークトランスポート「Grandioso N1T」(2,970,000円/税込)

彫りの深いラウンド・カーブが切削された高純度アルミ・フロントパネルを見ていると、ドイツのバウハウスのアートを彷彿とさせるところがあります。世界に名を馳せるハイエンドブランドの一つとしてすっかり定着しました。その独創的技術と精密感に溢れた回路構成には、目を見張るものがあります。

同社は、ネットワークトランスポート「Grandioso N1T」を発売しました。Grandiosoシリーズ初のネットワーク対応機です。モノラル仕様のDAC「Grandioso D1X SE」と3筐体重ねると、究極のミュージックストリーマーと言いたくなるほどの高品位な佇まいを感じます。

 

 

今回、最新の「ESOTERIC Network Engine G4」を搭載しています。特徴としては、大容量RAMを装備するパワフルなCPUを搭載し、フラグシップに相応しい処理能力を実現していることです。完全に独立した専用大型リニア電源を搭載し、回路コンポーネントごとにトランスの巻線から独立した電源ラインで直接給電されます。ノイズ源となるスイッチング素子を使わず、大型トロイダルトランス、大容量カスタムコンデンサー、ショットキーバリアダイオードなど、大規模な部品構成により、アナログ再生のように滑らかで実在感に溢れたサウンドを実現しています。

Grandioso N1Tの上面を開けたところ。手前に電源トランス、奥にネットワークエンジン(右)とデジタル基板(左)を配置。トランスから個別に給電されている

また、デジタルオーディオ回路は、ネットワークエンジンとは別コンポーネントで構成し、純度の高いデジタル伝送の実現のために、大規模なアイソレーターを経由することでノイズの影響を徹底排除しています。

Grandioso N1Tの底面を開けたところ。2階建ての内部基板となっており、手前の銀色部分はトランスの裏側。黒い板でトランスを下から固定している

また、新機能としてESOTERIC Network Engine G4はネットワークスイッチ(ハブ)として機能し、イーサネットRJ-45端子、SFPポートの2つのインターフェースを装備しています。SFPに対応するネットワークスイッチやオーディオサーバー等と光ネットワーク接続することにより、ネットワーク経由のノイズ(主にアースライン)から信号をアイソレートすることで、よりピュアな再生ができるわけです。

Grandioso N1Tの背面端子。SFPポートが搭載せれるほか、HDMIケーブル2本を利用した「ES-LINK5 デジタル伝送」にも対応する

SFPモジュールには、経由する回路を減らせるダイレクト・アタッチ・ケーブル(Direct Attach Cable)を使った接続を使うこともできます。RJ-45端子とSFPポートは同時使用が可能で、外部ネットワークとの接続にSFPポートを、RJ-45端子にはオーディオサーバーを接続する(またはその逆)など様々な使い方に対応できます。

左がデジタルオーディオ回路、右が新規開発の「ESOTERIC Network Engine G4」

デジタル出力としては、USBのほかに、特筆すべき技術として「ES-LINK5」を搭載します。これは、左右独立のDAC「Grandioso D1X SE」に、左右2本のHDMIケーブルを使用し接続することです。超広帯域デジタル伝送を実現する独自のデジタルインターフェースです。HDMIケーブルの多芯構造を使用し、オーディオデータ、LRクロック、ビット・クロックの信号を個別にフルバランス方式で伝送します。 

トランスポートN1Tから2本のHDMIケーブルで「Grandioso D1X SE」に接続するといった使い方も

通常のデジタル伝送(AES/EBUやS/PDIF)とは違い、トランスポート側での信号変調とDAC側の復調プロセスを必要とせず、DAC側のデジタル処理負担を大幅に低減し、さらなる高音質化に貢献しています。完全にアイソレートされたUSB出力も装備していますから、SACDプレーヤー「Grandioso K1X SE」と接続するという使用方法も可能です。

また、内部クロックとして、Master Sound Discrete Clock for Digital Playerを搭載するほか、同社のクロックジェネレーター「Grandioso G1X」と10MHzクロック・シンクも実現します。これらを制御するコントロール用電源も独立したリニア電源で、各電源部のレギュレーターはディスクリート構成で設計され、安定化のためのフィードバック量を最小限とする「ローフィードバックDCレギュレーター」を採用しています。

オリジナルマスターに迫る奏者の実在感を得る

実際の試聴では、もちろん、モノラルDACとしてGrandioso D1X SEを使用。プリアンプとして、「Grandioso C1X solo」を、パワーアンプとして、「Grandioso S1X」を使用し、アナログの伝送にはES-LINK Analog(電流伝送)を活用しています。スピーカーにはB&W 800 D3を使用しました。

取材時は、モノラル構成のDAコンバーター「Grandioso D1X SE」(中段と下段)にHDMI接続で接続し、3筐体によるネットワークオーディオ再生システムとして試聴した

最初に、Qobuzで2Lのヴォーカル曲『クワイエット・ウィンター・ナイト』の2曲目「Stille, stille kommer vi」を再生しました。ここで感じたことは、音の立ち上がりや奏者の輪郭が強調されず、自然な音の立ち上がりを示すことです。冒頭のバスドラムの響きには、柔らかな革のような質感があり、打音に細かな響きが加わってきます。ピアノの倍音に透明感が加わり、余韻が美しいです。ヴォーカルでは、声質にクリーミーな質感が加わり、時折、身体の向きを変えて歌唱する様子もリアルです。

オーディオ的には、情報量が増え、録音場所の空気感や残響を電圧伝送以上に再現し、演奏の実在感を鮮明にするところがあります。トランペットや鈴のような金属系パーカションには、繊細な響きが重畳され、録音の良さを再認識することができました。過去に体験したことのないほどのハイエンドサウンドで、これぞイマーシヴ・サウンドと言いたくなります。

続いて、ECMレーベルのトルド・グスタフセン・トリオ『OPENING』を再生しました。その音楽は、漆黒のスクリーンから浮かび上がるかのような、デリカシーに富んだ透明感のあるピアノが再現され、ドラムスとシンバルは、ピアノを引き立てるように抑揚をつけて打音しているように感じます。ベースでは胴の響きに木質感があり、高い音階では指で弾く質感を鮮明にします。

ダイナミックレンジの広さを試すため、PENTATONEレーベルから、マレク・ヤノフスキ指揮、ベルリン放送交響楽団による『ワーグナー:管弦楽集』「ジーク・フリートの葬送行進曲」を再生しました。感激したことは、弦楽や金管楽器に余分な雑味のようなものが排除され、アナログに匹敵するほどの音の滑らかさを感じたことです。演奏の実在感があり、この曲の重々しさ、暗さを鮮明にします。クライマックスでは、床を打ち付けるかのような壮大なフォルテシモを体験しました。

児玉麻里によるブルックナーのピアノ曲集も聴きましたが、抒情豊かな演奏とスタインウェイ・ピアノの響きの美しさ、倍音の豊かさに惚れ惚れとしました。

一枚も二枚もベールを剥いだ音という言葉がありますが、それをも遥かに超えた録音の生々しさがあります。言い換えれば、オリジナルマスターの真実に迫るところがあります。往年の名盤と呼ばれるジャズやクラシックをお聴きになり、さらなるハイエンドオーディオを実現されたい方にとって、この3筐体のハイエンド・システムは、かけがえのないプレイバック・システムになることでしょう。ぜひ、専門店で試聴して欲しいと思うところです。

ミュンヘン・ハイエンド2025でのエソテリックブース。スピーカーはマーテンの「Mingus Quinted 2 Statement Edition」を組み合わせている

(提供:ティアック)

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