ソースへの忠実さ、瑞々しく有機的な音色。業務用機器の技術をHiFiに投入、TOAのアクティブスピーカーを徹底レビュー!
業務用スピーカーのトップブランドとして世界中のホールやスタジアムを支えてきたTOAが、コンシューマー用スピーカー市場に参入した。スピーカーシステム「ME-50FS」は、もともと名門TOAのレファレンスとして作られた正真正銘のプロフェッショナル・モニター・スピーカーであったが、その完成度の高さに取引業者の間で評判となり、家庭用アクティブスピーカーとしての発売が決定したという。小原由夫氏がその音を聴いた。
「TOAの基準となる音、アイデンティティを作れ」
TOA(ティー・オー・エー)というブランドのことを知らなくても、おそらく誰しもが日常的にその音に触れているはずだ。駅のホームや公共施設等のアナウンスの拡声用に同社のスピーカーが使われているからである。TOAはそうした設備用機器で圧倒的なシェアを誇る。
そんなTOAがモニタースピーカーを自社開発し、一部のマニアの間で密かに話題となっていたのがここ1年ほどの話。ME-50FSがそれで、この度コンシューマー市場に打って出た。
ME-50FSの開発は十数年前。同社は設備音響機器を広く手掛ける一方で、デジタルプロセッサー「SAORI」といった業務用機器も送り出していた。そうした中で会社のトップから、「TOAの基準となる音、アイデンティティを作れ」という方針が示され、有志から成る先鋭部隊が組織化された。
社内的には極秘裡に開発が進められ、試作を重ねては外部の取引関係者に聴いてもらうという試行錯誤を経て完成。当初は社内開発部の検聴用、または教育用(同社ではそれを『音塾』と呼んでいた)のみに用い、販売は考えていなかったという。やがて取引業者に評判となって特注対応していたものが、今回市販化に繋がったという経過である。
カテゴリー上、本機はアンプ内蔵のアクティブスピーカーで、2ウェイ3スピーカーのバスレフ構成。キュービックスタイルの比較的コンパクトな外形の本体と、インピーダンス補正用のパッシブ回路が収められた外付けBOXから成る。
内蔵パワーアンプはDクラスのシングル構成で(連続可変のゲイン調整ノブを背面に装備)、クロスオーバーネットワーク回路が本体に内蔵されている。生産は京都府内の同社工場。
トゥイーターは難燃性マグネシウム・ダイヤフラムが使われた25mm径で、20kHzまでの可聴帯域内にピークがないものが採用されている。磁気回路内に銅製ショートリングを内蔵し、共振周波数を下げている点が特徴である。
ウーファーはポリプロピレン振動板の10cm口径で、ゴム製エッジを採用。銅リボン・エッジワイズ巻きのボイスコイルにフェライト磁石、アルミダイキャストフレームを採用している。もともとベースとなるウーファーユニットがあったようだが、ME-50FS用に音圧や共振周波数、インピーダンスカーブのペア管理がされた選別品が採用される。
驚くべきことに、クロスオーバー周波数設定は1,600Hz。ピストニックモーションのリニアな範囲で動作を止めているとのこと。つまりこの種の2ウェイにしては、トゥイーターが受け持つ周波数帯域がかなり広いということになる。
この3つのドライバーユニットは、定位と位相管理を徹底するべく、フロントバッフル中央付近に寄せて配置された。

ウーファーは自社製。ポリプロピレン振動板10cm口径。ME-50FS用に音圧や共振周波数、インピーダンスカーブのペア管理がなされている
モニター然としていない瑞々しい音
虚飾を排した無骨な外観もあり、試聴前までのイメージは高分解能で冷静沈着なモニター然とした音を想像していたが、いざ聴き始め、いい意味で裏切られた。非常に有機的で穏やか、粒立ちのよい音に少々面食らった心境だ。
そういう点では、広大なワイドレンジ感とか、現代的なハイレゾリューションサウンドという趣きは、ME-50FSにはない。
考えようによって、これは至極当然のこと。駅のアナウンス等で明瞭かつクリアに情報を伝えなければならない責務を負っている会社の基準が、なにがしかの脚色や演出があってはおかしなことになる。時には命に関わる緊急速報もあるわけで、正確さ、忠実さが要求されるのだ。
では何が本機の持味かというと、「ノーマル」とか「オーソドックス」、「普遍的」という言葉が思い浮かぶ。大向こうを唸らせるような振る舞いはME-50FSにはない。プログラムソースをそのままストレートに忠実かつ平然と鳴らす。「だってそれが当たり前でしょ!?」とでも言いたげな風情なのである。
その上で、中域を軸とした克明さや鮮明さがME-50FSの重要な美点といってよい。ヴォーカルが実に気持ちよくスッと耳に入ってくる。メル・トゥーメの声はしっとり柔らかく、優しげな表情が感じ取れる。ピアノの音色も瑞々しい。
サマラ・ジョイも同様で、その声には包容力と母性が感じられる。モニタースピーカーにありがちな冷徹さや無機質さは皆無で、4管+リズムセクションのアンサンブルも豊かなプレゼンスを感じる音場再現だ。ユニットの合計面積に対してバッフル面がかなり広いにも関わらず、反射はほとんど気にならない。
イヴラキモヴァの独奏ヴァイオリンによるメンデルスゾーンの協奏曲では、繊細な弓使いが実に丁寧に描写された。
今回使用したスピーカースタンドはタオック製作の専用機で、スタジオの調整卓越しで問題なく使用できるよう全高がかなり高く、しかも高価だ。一般家庭では、タオックやティグロン等の汎用タイプ(高さ60〜70cm)を使うといいだろう
なお、レファレンス機器としてはアキュフェーズ「DP-770」、テクニクス「SL-1000R」、フェーズメーション「PP-2000」、アキュフェーズ「C-3900」を使用している。
最新鋭のコンシューマー機とは一風異なる、いろいろ気付かせてくれる音体験ができるはずだ。
