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【特別企画】“木のヘッドホン”初のワイヤレス対応機

妥協なく最高峰を目指した、まさに記念碑たるモデル。オーディオテクニカ「ATH-WB2022」レビュー

2023/01/31 岩井 喬
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素晴らしい音場再現能力を発揮。ウッドハウジングらしい弾力感、伸びやかさを堪能



試聴はLDAC接続でのワイヤレス再生、PCとUSB接続した有線再生をチェック。まず本領といえるワイヤレス再生だ。比較的重量はあるものの、装着時のストレスは少なく、フィット感の高いイヤーパッドのおかげか、遮音性についても優れている。適度なヌケ感とウッドハウジングならではの余韻の伸びやかさ、滑らかな艶感を感じられ、ワイヤレス環境であることを忘れるほどの密度感、流麗さを伴った有線モデルに匹敵するサウンドクオリティといえよう。

はじめはスマートフォンでLDAC接続を試したが、解像度が甘く今一つであったため、Astell&Kern「A&ultima SP3000」からLDAC接続を行うと圧倒的なS/Nの良さ、左右独立完全バランス構成ならではのキレ良く透明度の高いサウンドが展開。フッと音が立ち上がる瞬間のリアリティも申し分ない。DAC、増幅段のつくり込みの良さによってワイヤレス環境であっても入力するアイテムのクオリティを包み隠すことなくストレートに描き出す、モニタークラスの反応の良さを発揮しているようだ。

接続するプレーヤーのクオリティもストレートに描き出す

オーケストラの響きは豊潤で、管弦楽器の浮き立ちも艶良く澄み切っている。ローエンドも豊かさを伴うが、制動性も高く、余韻は滲まない。音が立ち上がる瞬間のエアー感も見事に捉え、ハーモニーの躍動感も実に生々しい。楽器一つ一つの質感を分離良く艶やかに拾い上げる。音場の広がりも自然に感じられたが、ハウジング内のドライバー配置を見ると前方へオフセットし、耳に対し平行となるようアングルを設けて設置されていた。またハウジング内の音響スペースと電子部を完全に分けた音響設計も取り入れている点も見逃せない。そうした構造からくる音場再現能力の素晴らしさも相まって、広がり良いナチュラルな空間性が得られるのだろう。

ジャズのホーンセクションは、しなやかかつボディの厚みも伴った、安定感のある描写である。余韻の響きもスタジオならではの距離感を適切に出しており、息継ぎのリアルさも妥協なく反応してくれる。ピアノは低域までよく伸びており、高域のクリアさ、アタックの重さもしっかりと再現。ドラムやウッドベースの胴鳴り、アタックのニュアンスも付帯感なく描いている。わずかにウッドハウジングらしい余韻の音色も感じられるが、耳当たり良く艶やかな傾向にシフトするので邪魔になるようなものではない。女性ボーカルの質感も澄み切っており、口元の動きや輪郭感もキレ鮮やかにまとめ、目前に迫るかのような生々しさである。

ロック音源ではリズム隊のキレ、キックドラムのエアー感の余韻もリアルにトレース。ベースラインも密度があり、堂々とした響きを見せる。ギターのピッキングもキレ鮮やかで、ハーモニクスもクリアに表現。ボーカルは口元の動きも克明に捉え、リバーブのニュアンスも細やかに見えてくる。コーラスワークの重層感も見事である。

音数の多いTRUE「黎明」も聴いてみたが、奥に広がるストリングスの清々しさ、ボディの厚みを確保し、凛とした強い芯を持つボーカルの力強くシャキッと立ち上がるさまは出色の出来。個々のパートの分離も良く、声のビブラートも的確に拾い上げている。余韻は僅かにふくよかで、ウッドハウジングらしい弾力も感じられた。キックドラムの迫りくるドライなアタック感や深く響くベースの逞しさに負けない、クリアに響き渡るピアノの響きも美しい。抑揚良く制動の利いたダイナミックなサウンドである。

専用アプリ「Connect」から、自分好みにサウンドをカスタマイズすることもできる

一方、PCとの有線接続であるが、幾分穏やかで落ち着きある音色だ。音像の輪郭も滑らかに描き、艶の乗った耳当たり良いサウンドとなっている。ローエンドもゆったりと響くが、制動性は高く、余韻のくすみはない。Windows 10のノートPCと再生ソフト「foobar2000」を用いてのチェックであったが、こちらもワイヤレス環境と同様、その接続先のクオリティに敏感に反応するようだ。惜しむらくは96kHz/24bitまでの対応であること。内蔵DACのスペックも鑑み、その持てるポテンシャルは高いはずであり、PCとの接続時はせめて192kHz/24bit対応まで拡張してほしいと感じた次第だ。

最後に60周年記念のプレミアムモデルならではのサポート体制についても触れておきたい。ワイヤレスモデルのアキレス腱ともいえるバッテリーの寿命への対処として、無償で1回のバッテリー交換をしてもらえること、そしてバッテリー交換の際、交換用イヤーパッドも1セットプレゼントしてくれるサービスが用意されているのだ。もしバッテリー寿命の問題から高級ワイヤレスヘッドホンを敬遠されているのであればぜひご一考願いたい。

ATH-WB2022は全方位でワイヤレスヘッドホンの課題に向き合い、音質についても妥協なく最高峰を目指した、まさに記念碑たる製品だ。限定モデルであることが惜しい極めて完成度の高いワイヤレスヘッドホンといえるだろう。

【試聴音源】
〇飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』
〇『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』
〇『MENIKETTI』
〇TOTO『TAMBU』
〇TRUE「黎明」

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