軽量コンパクトなヨーロピアン・ハイエンド

ディスクリートDACを考える(3)ーオランダmola mola、独自技術で構成される「Tambaqui」を聴く

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山之内 正
2021年08月13日
ディスクリートDACは単純にひとくくりにできるものではなく、究極のデジタル再生を目指すブランドの理念によって生み出されてくるものである。それゆえにDAコンバーター単体機としての登場が多く、高額になりがちであるが、CDプレーヤーやネットワークプレーヤーにも組み込み、比較的安価な製品にまで落とし込む取り組みも広がってきている。

本企画の最後に、日本ではなかなかレビューされる機会の少ないオランダmola mola(モラモラ)の「Tambaqui(タンバキ)」を取り上げる。日本国内では(有)ハイエンドが取り扱う。フィリップスの伝統を汲み、デジタル再生の世界を牽引してきたオランダが生んだディスクリートDACのサウンドを聴いてみよう。


■NcoreなどクラスDアンプの開発にも携わったエンジニアによるブランド

mola molaはオランダのフローニンゲンに本拠を置くオーディオメーカーである。クラスDアンプやDAコンバーターなど、独自のデジタル技術を駆使した製品群で注目を集め始めたが、日本ではまだ知名度が低く、実際に音を聴いたことがある人は少ないのではないかと思う。今回、ディスクリートDACの取材を進めるなかで同社の最新DAコンバーターのTambaqui(タンバキ)を聴く機会があったので、 技術的な特徴と音の印象を紹介しよう。

mola molaのUSB-DAC「Tambaqi」(1,520,640円/税込)。サイズも200W×110H×320Dmm、質量5.2kgと比較的コンパクトなことも特徴

同社が注目を集めるのは、単体DAコンバーターの「Tambaqui」やプリアンプ「Makua」に搭載するディスクリートDAC、そしてパワーアンプ「Kaluga」のクラスDアンプを同社のブルーノ・プツェイス(Bruno Putzeys)氏が開発していることに理由がある。同氏はUcDやNcoreなどHypexのクラスDアンプを開発したエンジニアで、DACの基幹技術の一つであるΔΣ変調のエキスパートとしても知られる。Hypexも含め、オランダを含む欧州からDACの最先端技術が生まれるのは、フィリップスが1bitオーディオの技術開発を進めてきたことが背景にあり、プツェイス氏もフィリップス時代の経験を基盤にキャリアを重ねてきた人物の一人だ。

mola molaが独自に設計したDAC回路は、前段ですべての信号を3.125MzにアップサンプリングしてPWM変調を行い、後段の32ステップのFIRフィルターでアナログに変換するというシンプルなプロセスを採用する。前段は3個のDSP(アナログ・デバイセズのSHARC)を用いて独自プログラムで構成し、後段もディスクリート構成ながら専有面積を最小限に抑え、両者を上下2枚の専用基板に振り分ける形でモジュール化することに成功。小型化によってプリアンプの「Makua」はDACボードをオプションモジュールとして追加できる仕様を実現しており、ユーザーの選択肢を広げている。

プリアンプ「Makua」(1,485,000円/税込)にも、オプションボードとしてDACモジュールを組み込むこともできる

Tambaquiは同モジュールに電源回路と各種インターフェースを組み合わせた単体のDAコンバーターである。プリアンプと組み合わせる用途を前提に設計しているが、高精度なデジタルボリュームを内蔵しているので、パワーアンプ直結も視野に入れているようだ。

デジタル入力はUSB-BとイーサネットのほかAES/EBU、Tos Link、S/PDIFを揃え、さらにHDMI端子を用いたI2S入力まで装備。横幅200mmのコンパクトな筐体なので、アナログ出力はXLR1系統のみと最小限だが、ヘッドフォン出力は6.3mmと4PinのXLRを載せている。どちらもリアパネルに配置しているので使い勝手はあまり良くないが、リアに設けたのはおそらくデザインを優先したかったのだろう。

Tambaqiの背面パネル。USB typeBのほか、Optical、S/PDIF、I2Sのデジタル入力を装備する。なお、LAN入力はRoonのみ対応でDLNA/OpenHomeには非対応

■現代建築のような個性的な意匠。基本設定はアプリから行える

そのデザインは個性的で洗練されている。この形をそのまま一気に拡大すれば、オランダの都市を象徴する現代建築として人気を博すのではないだろうか。天面のウェイブと前面の丸窓は海を連想させるが、起動時にその窓越しにマンボウが現れる演出が面白い。ちなみにmola molaというユニークなブランド名はマンボウの学名で、型名のTambaquiも淡水魚の名に由来するという。

天板は特徴的なウェイブも洗練されて美しい

正面パネルの4つの操作ボタンは任意の入力を割り当てることができ、ミュートスイッチとしても機能する。可変出力を選んだ場合のボリューム操作は付属のリモコンか専用アプリで行うのだが、動作モード選択も含め各種設定にはアプリが必須だ。

天板にはマンボウも描かれる

ソースコンポーネントとしてパソコンまたはUSB再生に対応するミュージックサーバーどちらかを組み合せる用途が中心になりそうだが、Roon readyの認証を受けているのでRoonの再生端末として使うのもありだろう。今回はMacBookProをコアにしたRoonシステムでハイレゾ音源とTIDALを再生し、音質を確認した。

Tambaquiの設定は無料アプリ「Mola Mola remote」から行える

USBとイーサネット(Roon)ではPCMが最大384kHz/32bit、DSDは最大11.2MHzまでサポートする。ちなみに出力は6Vと2V、0.6Vが選択できるが、今回は6Vを選び、プリアンプ側でゲインをいつもより抑えて試聴を行った。

出力電圧を「6V」「2V」「0.6V」から選択できるのも面白い

■楽的なダイナミクスの大きさと精度の高い空間表現が印象的

Tambaquiはディスクリート構成のDACとしては驚異的な130dBのS/Nを確保しているとされるが、その数字に誇張はないと思う。無音から音が立ち上がるときのアタックがあまりに素直で、リンギング的な強調が一切ないので、思わずボリュームを上げてしまう。そして、ダイナミックレンジがこれまた広大。ボリュームをいったん下げても、意外に大きな音量で聴いていたことに気付くのだ。オーケストラでもピアノでも普段聴いているより演奏の起伏が大きくなったように感じられるのは、フォルテシモが飽和しないことに加えて、弱音でのビブラートや余韻の消え際が曖昧にならないためだ。

DSD音源で聴いた佐渡 裕指揮、兵庫芸術文化センター管弦楽団によるレスピーギの《アッピア街道の松》は最弱音からクライマックに至るまでの音量の差が非常に大きく、遠近感を再現するステップのきめが細かい。音場の見通しが良いので、遠くに定位する楽器群までフォーカスが鮮明で、周囲に広がる余韻にもくもりがない。楽器が増えてダイナミクスが頂点に達したときにも金管群のそれぞれの楽器の音色を正確に鳴らし分け、弦と管の立体的な位置関係を正しく再現したことにも驚かされた。音色の描き分け、空間情報の再現力どちらも限界を感じさせず、録音の特徴を忠実に描き出す。それだけでも相当な実力の持ち主というべきだ。

声の素直な発音と質感描写の正確さにも注目したい。アンジェリカ・キルヒシュラーガーが歌うブラームスの子守唄は声域ごとに微妙に変化する音色を忠実に再現し、ビブラートの表情も濃密だ。ノラ・ジョーンズの「How I Weep」をTIDALで聴くと、高い音域までヴォーカルの感触がドライにならず、ベースは厚めながらどの音域も混濁がなく、テンポによどみがない。どちらもハイレゾではなく、ロスレスのTIDAL音源を聴いたのだが、その制約や限界を感じさせることはなかった。

ディスクリートDACを導入した主要な製品の9割以上を実際に聴いているが、Tambaquiの音を聴くのは今回が初めての経験だった。音楽的なダイナミクスの大きさと精度の高い空間表現は筆者の耳に強い印象を残し、時間が経っても消えにくい記憶となって脳に刻まれた。100万円を超えるクラスにはTambaquiと競合しそうなDAコンバーターが何台か存在するが、本機はそれらライバルと互角以上に渡り合う重要な製品という印象を受けた。あえて他人とは違うブランドを選びたい人に一聴をお薦めする。

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